第2話 今頼るべき相手
その後も何度か魔王軍の侵攻はあったのだが、その度に手の空いている元魔王の力を借りて相手をしてあげていた。本来なら僕が相手をして差し上げるのがマナーなのかもしれないのだが、あまりにも力の差がありすぎるのに戦うというのもマナー違反になってしまうかもしれない。ただ、僕より弱い魔王たちとはいえ、下っ端程度の兵しか送られていないのだから元魔王たちだって手を出すわけにはいかないのだ。結果的に、魔王の部下の出番になるということになるのだが、その部下たちも戦うことによって成長はしているので、今では元魔王軍の基礎戦闘力がかなり向上してしまうという現魔王軍が何をしたいのか理解できない状況になっているのだった。
現魔王軍の相手を毎週のようにしているので王都から送られてくる予定の物資が何も届かず、この村は完全に孤立してしまっているのだ。明日食べる物どころか今日食べる物も無いような状況になりそうだとは思っていたので、僕は世界を三度も救ったという実績を引っ提げて神のもとへとわざわざ出向いてあげることにした。
本来であれば神の住む世界に行くにはそれなりの生贄と強大な魔力が必要になるのだけれど、僕が世界を何度も救っているという事もあって生贄の件は免除されているのだ。免除されていなかったとしても、僕のいる村周辺に転がっている現魔王軍の亡骸があれば十分のような気もするのだが、世界を何度も救った英雄が命を軽々しく弄ぶのは良くないとの声が多数届いていたそうなのでそう言うことになってしまっていた。
「というわけなんで、僕のいる村が今にも飢餓に苦しみそうなんですよ。それで、何か食べ物を恵んでくれないですかね。あ、非常食みたいに味よりも栄養に力を入れてるものじゃなくて、日常的に食べても不満が出ないやつでお願いします」
「そう言われましてもね、我々の一存では決められないのですよ。元勇者様が困っているという事は重々承知なのですが、我々の世界では神の決済が無いと施しのしようも無いのです。それは元勇者様もご存じの事とは思いますが、そう言うシステムなんでご理解いただきますようお願い申し上げます」
「そう言うシステムなのは知ってるんだけどさ、お互いに妥協できるところがあればそれで納めたいって思ってるんだよね。神が今どこにいるかって事すら君達は聞かされてないって事でしょ?」
「そうなんですよ。今の神様は自分の思い通りにいかない相手には極力会わないようにしているみたいでして、私どももそのお姿を拝見するのが年に数度あればいい方なのですよね。どうしたらいいと思いますか?」
「どうしたらって言われてもね。前の神の時みたいに直接話し合うことが出来ればいいんだけどさ、今はどこにいるのかわからないからそれも出来ないしね。でも、直接話が出来ないのだとしたら、直接話が出来る状況を作ればいいって事か」
「そんな事って出来るんですか?」
「確実に出来るって事ではないんだけど、僕の友達に元魔王が何人かいてさ、その人達をここに招待してあげればいいんじゃないかなって思ってね。もちろん、僕たちが暮らしている世界とはここの理も違うので僕が抑制している元魔王の力は解放されちゃうかもしれないね。それにさ、一度ここに元魔王が来ちゃったら色々面倒なことになっちゃうかもしれないよね」
「そうなってしまったら、先代の神様の時みたいに新しい世界を創り直さないといけなくなっちゃいますよ。今の神様にそれほどの力があるのかわかりませんが、そんな事は我々も望んではいませんからね。ちなみになんですけど、今って元魔王の方を連れてきてたりしないですよね?」
「うん、今日は連れてきていないよ。僕の世界の時間で一日経っても回答が無ければそうなっちゃうかもしれないな。元魔王は三人だけど、明日になったら四人になってるかもしれないからね」
「それは困りますね。でも、きっと元勇者様の納得のいくような回答が出来ると思いますよ。今の神様は危機回避能力だけはずば抜けて高いですからね。今だってここに現れて元勇者様の希望する答えを言ってくれるとは思いますよ」
「そうだといいんだけどね。でもさ、危機回避能力が高い割には僕が生きている世代で神様になったのって不幸なのかもしれないよ」
「そうかもしれませんけど、それによって危機回避能力が高くなったと言えるかもしれませんよ」
僕と天使の会話は何のまとまりも無く結論は出なかったのだが、僕が言いたいことはある程度言えたので満足だった。きっと今頃は天界にいる人達総出で人間用の食べ物をかき集めているのだろう。天界の食べ物はそれなりに美味しいのだけれど、魔力の低い人間が食べると最悪の場合精神が崩壊してしまう危険があるのだ。天界のにあるものは基本的に高濃度の魔力を含んでいるのだが、それが無いと魔法生命体でもある彼らは自分の姿を保てなくなるそうなのだ。魔力濃度の薄い人間界になかなか天使や神が来られないというのもそう言ったところに原因があったりするのだ。
翌日、僕の集落宛に天界からのお恵みが届いた。
一応人間でも食べられるものばかりではあったのだが、そのセンスは今一つだった。これは文句の一つでも言いに行かなくてはいけないかなと思っていたのだけれど、さらに翌日になると神の信徒である教会勢力の方々から多くの食料や雑貨の差し入れがあったのだ。何故か、禁忌とされる酒類もあったのだが深く追求することはやめておこう。
そして、暇を持て余していた元魔王軍たちはこの村の近くに複数の砦を建設しており、現魔王軍と王都を牽制しているのであった。
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