第二七話「女子の手料理を食べる。幸せを感じる」

「ひらめ〜。はやく戻ってこいっ。タケシさんも」

「いま行くよ〜。なに?」


部屋に戻ると朝ごはんが用意されていた。


「朝ごはん、食べてないんでしょ? 恭子と真央で作ったから食え」


「すげ〜。日本の朝食って感じ・・・母だね。食べていい?」

「ひらめ、待てっ! みんな座るまで食うな!」


「「いただきます」」


「美味い! 恭子ちゃん、惚れ直したよ。あっ、タケシさん、冗談すよ。冗談」

「気にしないで、いつも通りでいいよ」


「タケシさん、甘やかしちゃダメ。ビシッと言ってやってよ」

「そうですよ。コイツ、誰に対してもこんな感じなんですよ」

「・・・」


味噌汁、ご飯はともかく、一人暮らしの女子の家に『アジのひらき』がそれも四枚もあることに驚く。


「恭子ちゃん、美味いよ。ね、真央さん」


「ねえ、真央だって朝作ろうとしてたじゃん?」

「ん? そうだっけ?」


「あ〜、マジでムカつく。タケシさん聞いてくださいよ。こいつの家、鍋もフライパンもないんですよ」

「・・・」


「冷蔵庫はビールしか入ってないし・・・」

「水も入ってたでしょ?」


「なんか、女子の部屋で朝ごはんって幸せっ! 恭子ちゃん、毎朝食べに来て良い?」

「お前みたいなさかりのついた犬を家に入れる訳ないだろ?」


「ねえ、ひらめ、聞いてる?」

「ひらめ、ヒトの部屋をジロジロ見るな。恥ずかしいだろ?」


「ねえ、ひらめ。右手で食べてよっ。邪魔っ」

「無理だって、左利きの俺の右手は一歳児レベルだよ。おっぱいを揉むくらいしかできない」


「ひらめ、お前は何もできなかった癖に、どの口が『おっぱい揉む』とか言ってんの?」

「恭子ちゃん、言っていいことと悪いことがある。俺、こう見えて、すごく凹んでるんだから」


ひらめが真央を真剣な顔で見る。


「真央さん、やっぱり、おっぱい揉んでも良い?」

「調子に乗らない。ていうか、落ち着いてご飯食べようよ」


「おい、ひらめ。いま手で食ったろ? その手はどこで拭く?」

「ほら、こぼしてる。恭子、ティシュ取って」

「ひらめ〜、誰が掃除すると思ってんだよ」

「だって・・・」


「「『だって』じゃないっ!」」


いつもの飲み会と同じようにひらめは、女子たちにイジられ、ツッコまれる。


タケシはそんな三人を優しい目で見守っている。


「あっタケシさん、ごめんなさい。うるさいですよね」

「本当。ひらめがいるだけで、うるさくなる」


「俺は静かだと思うんだけど・・・」


「ひらめくん。幸せだな・・・」

「・・・はい」


「男二人で何かあった?」


恭子が、ひらめとタケシを交互に見る。


「別に何もないよ。ひらめくんとクルマの話をして意気投合した感じ?」

「そう。タケシさんのFD、カッコいいから」


「男同士で何か秘密を作ったな。まあ良いや。女子の方が秘密があるからね。ね〜真央?」

「ね〜」


二人の視線の先にひらめがいる。


「真央さん、言ってないよね?」

「なに? え? あ〜、言ってない・・・と思うよ」


「恭子ちゃん、聞いた?」

「聞いたような、聞いてないような」


「えっ、真央さん? マジで言ってないよね」

「あはははは。言ってない、言ってない。まだね」


「絶対に言うなよ」

「恭子〜。ひらめ、超かわいいんだよ」


ひらめが隣に座る真央に飛びつく。


「ひらめ〜。なんで、お前の家でそれをやらないんだ? ここで始めたらぶっ殺すぞ」


タケシと恭子がニヤニヤしながら二人を見る。

ひらめと真央が、顔を真っ赤にして照れている。


「面倒くさいなあ。付き合っちゃえよ」

「「・・・」」


タケシが、目を細めて二人をみる。


朝食も食べ終わり、タケシが仕事のため帰り支度をはじめた。ひらめと真央は一緒に帰ることにした。


四人でコインパーキングに向かう。タケシがFDのエンジンをかける。ロータリーエンジン独特の高音が響く。


「じゃ俺、行くわ」


さりげなく、恭子とタケシがキスをする。

タケシがクルマに乗り込み、去っていく。


「真央さん、見た? いま、タケシさんと恭子ちゃん、さりげなくキスしたよね?」

「したね。さりげなく・・・」


「大人っぽくなかった?」

「うん。ちょっとドラマっぽかった」


「タケシさん、俺と二つ、学年でひとつしか変わらないんだって」

「えっ? マジで?」


ひらめはロードスターのエンジンをかけ、柿本マフラーのサウンドを響かせる。そして、幌を開ける。


「みてみて。恭子、可愛くない? オープンになるんだよ」

「赤のオープンカーって、目立って恥ずかしくない?」


「直ぐに慣れるよ」

「え〜、真央さんも最初、恥ずかしいって言ってたじゃん・・・」


「そうだけど・・・」


「じゃ俺らも行くわ」

「・・・」


「ひらめ、ちょっといい」

「ん?」


恭子がロードスターに乗り込もうとしたひらめを離れたところに連れて行く。


「ごめん。真央、ちょっと借りるね」

「うん」


「本当のところ、どうなの?」

「マジでやってないよ」


「違う。それはどうでも良い。真央と、どうするの? はっきりしろよ」

「・・・うん」


「真央、ああ見えて強くないからね。強がっているけど弱い」

「・・・うん」


「真央のこと、どう思ってんの?」

「う〜ん。どうなんだろうね・・・。一緒にいて楽しいとは思う・・・」


「お前は煮え切らんな・・・。その態度が真央を悩ますんだぞ」

「そうなのかもね・・・」


「まあ、いいけど、真央が他の男の所に行ったら一緒にはいられないよ」

「・・・」


「お前も、そろそろ落ち着いたら?」

「・・・」


「愛しい真央ちゃんのために大人になれよ」

「うん・・・。そうだね・・・」


「うん。頑張れよ。恭子姉さんは応援してるぞ」

「うん。ありがと」


「じゃ行くね」

「うん。気をつけてね」


ゆっくりとロードスターを発進させる。

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平成サバイブ ひらめ @hirame18

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