第二六話「何もなかった二人なのに、疑われる」

「ごめん、恭子」

「うん、上がって。あれ? ひらめは?」


不貞腐ふてくされて、クルマのとこ」

「面倒くさい奴だな・・・」


ひらめはロードスターに寄りかかり、タバコを吸っている。ひらめの元に恭子がズカズカとやってくる。


「おいっ、ひらめ。早くしろよ。男らしくないぞっ」

「・・・」


グイグイ腕を引っ張っていく。


「恭子ちゃん、ノーブラでしょ? 乳首が見えた・・・」

「ノーブラだし、ノーメイクだよ。何か問題?」


恭子の部屋に真央と入ると、二人が知らない男性がいた。

ひらめは、思わず真央と目を合わせる。


真央も首を振る。


「恭子、だれ?」


「タケシさん。学生時代から付き合ってる。もう二年?」

「三年かな?」


「「え〜っ!」」


ひらめと真央は、落ち着いた大人の雰囲気のタケシと恭子を交互に見る。


「恭子がお世話になっています。えっと、ひらめくんと真央ちゃんかな?」

「「はい」」


「えっ? 恭子ちゃん、彼氏いたんだ・・・」

「嘘っ? 何も聞いてないんだけど・・・」


「誰にも聞かれてないから言ってない・・・。座って」

「「うん」」


「えっ、タケシさんって恭子ちゃんとどうやって知り合ったんすか? ナンパって感じでもないっすよね?」

「はははは。俺の店で恭子がバイトしてたんだよ」


「いま『俺の店』って言いましたよね? お店やってるんですか?」

「小さな居酒屋だよ」


「今度、行きますよ。どこでやってるんすか?」

「・・・」


「ひらめ、タケシさんの話はいい。二人の話をしてもらっていい?」

「うん。真央さん、話して・・・」


「最初に言っておくけど、真央とひらめは何もない・・・。信じてもらえるとは思ってないけど、これは本当。真央はひらめの家に泊まったけど、ひらめはいなかった・・・」

「恭子ちゃん、笑うなら笑え。『ひらめ』らしくもなく、クルマに逃げたんだよ。何もしないで・・・」

「ひらめ、ちょっと黙ってて。恭子は、いま真央と話してる」


真央は以前から、よく二人で飲みに行っていること、二人でディズニーランドに行ったこと、昨日の出来事を話した。


「真央とひらめは付き合ってもいないし、間違いも起こしていない。ただ、一緒に飲みに行っているだけ」


「うん。話は分かった。よくもまあ、長い間、隠していたね」

「ごめん、恭子。なんか言い出しにくくて」


「で、二人は付き合うの?」


「・・・」

「・・・」


「ひらめ、お前は真央のこと、どう思ってんの?」

「かわいいとは思ってる・・・し、友達とは、ちょっと違うかな?」


「真央は?」

「ひらめと一緒にいて楽しいし、このままの関係でもいいかなと思ってる」


「・・・」

「・・・」


「とりあえず、話は分かった。本当にやってないかは別にして・・・」

「「やってない!」」


恭子がニヤニヤしながらタケシに寄りかかる。


「何度も二人きりで遊んで、家にも泊まってやってないなんて信じられる?」


「恭子、本当だからね」

「恭子ちゃん、本当なんだよ。俺、可哀想でしょ?」


真央と恭子が着替えるため、ひらめとタケシは外に追い出された。何となく、クルマのところへと足が向かう。


「このユーノス、ひらめくんの?」

「はい。最近、買ったんです・・・」


「ロードスターはやっぱ初代だよね」

「そうなんすよ、新しいのは陽気なエロって感じがして、なんか違うんすよね」


「ぷっ、何それ?」

「この子は妖艶ようえんなエロというか、日本っぽいエロなんだけど、あっちはアメリカンっていうか、エロがオープンなんすよ」


「面白いなぁ。独特の感性だよ・・・」

「そうすかね? タバコ吸っても大丈夫っすか?」

「俺も吸う」


「ロードスターの新旧比較をエロさで聞いたのは初めてだよ」

「なんか、そんなことばっかり考えてるんすよ」


二人でタバコを吸いながら、ロードスターの話で盛り上がる。


「ちなみにさ。FCとFD。ひらめくんから見るとどう?」

「セブンすか? FCは古い戦闘機、FDは最新の戦闘機って感じじゃないっすか?」


「そこはエロじゃないんだ?」

「いやロードスターは早くもないし、どっちかというと、かわいい女子なんですよ。セブンは男っぽい」


「あのFDが俺のクルマ」

「後期っすね。新車っすか?」

「そう。四月に納車したばっか。これから色々といじるよ」


ひらめは、舐め回すようにタケシのRX7を観察する。ひらめにタケシが話しかける。


「ひらめくんの話は、恭子からいつも聞いてる。なんか、あいつの会社の話題は君の話ばっかりでさ・・・」

「・・・アホだとか、スケベだとかっすよね」


「いや、すごく心配してるんだよ。あいつ」

「・・・」


「はっきり言って嫉妬した・・・。ダメな奴だけど、なんか憎めないとか、誰かが面倒をみてあげないと・・・とかね」


「なんすかね。俺、ダメなんすよ。マジで・・・。みんなに迷惑かけちゃうし。直ぐに甘えちゃうんすよ」


「俺はひらめくんに謝らないといけないんだ。昨日、恭子が電話に出なかったのも、俺が『出るな』って言ったんだ・・・。恭子は『真央と何かあったんだよ』って出ようとしていた・・・」

「・・・」


「あいつ、ああ見えて、すごく、ひらめくんのことを気にしてる・・・。俺は、どうしても会社員の恭子とは時間が合わないから、ひらめくんに恭子を奪われるんじゃないかって不安になるんだよ。分かる?」

「はあ・・・」


「彼氏とベットにいるのに、他の男を気にするんだぜ? 嫉妬するだろ? 普通」

「はい」


「俺としては、出来るだけ早く、ひらめくんに彼女を作って欲しい」

「・・・」

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