第14話 慌てた結果
「「……」」
不自然な体勢でフォルナは止まる。
そしてスカートがめくれ上がった状態で動きを止めたフォルナの姿に、あれだけ姦しかった女子達が口を開けたまま固まる。
(あっ、やっべー)
完全に反射行動だった。
超能力者として幼い頃から育ってきていた翔馬にとって、何かあったら手が動く前に反射的に超能力を使う。
今日で異世界生活二日目。
未だ抜けきらない地球での癖が出た。
「ね、ねえ今、翔馬君、詠唱してた?」
「い、いえ、聞こえなかったわ」
「じゃ、じゃあもしかして無詠唱? そんなの伝説の中でしか……」
(まずい!)
慌てて翔馬が言い訳をしようとした瞬間……。
「きゃー!」
フォルナの叫び声が響き渡る。
「え?」
翔馬がその叫びを聞いて、慌ててそちらを見る。
フォルナのスカートがめくれ上がったまま止まっているのだ。
つまり、その中が見えてしまっている。
黄緑色の可愛らしい布だけだった。
「あ、すいません!」
翔馬はゆっくりと尻餅をつかせる。
「ご、ごめんなさい」
スカートの裾を抑えて俯くフォルナに翔馬は慌てる。
「ああ、あの、み、見えてなかったから。スカート長かったし」
「ほ、本当?」
「うんうん」
翔馬は物凄い速さで首を縦に振る。
涙に濡れた瞳で翔馬を見るフォルナ。
二人の間に無言の沈黙が流れる。
周りで見ている少女達は女の勘で、その沈黙に危険を感じたのだろう。
「ねえ、そんなことより今のって無詠唱?」
女子の一人が慌てて話題を戻す。
(やべっ! こっちの問題も片付けなきゃ! ああ……初日から問題だらけだ)
「ち、違うよ。俺、狩りを魔法で行っていたから小さい声で言うのには慣れているんだよ!」
「でもそれなら魔法発動まで早すぎない?」
「速唱も特技なんだ!」
「じゃあ今使ってた魔法って何?」
「あー、えーっと……そう! 闇魔法の鈍化だよ! 俺、適正のある魔法って各一つずつしか使えないし……」
「嘘っぽーい」
何とか誤魔化せたようだ。
(後で絶対怒られるな、これ。ディオネさんには知られないようにしないと!)
チャイムが鳴り、決意を決める。
授業が終わりお昼になると、翔馬は一人で立ち上がる。
それを訝しんだフォルナが、顔を少し赤らめながら翔馬を昼食に誘う。
「あ、翔馬君、何処に行くの? もしよかったら……」
「ごめん! 昼食はソフィア様に呼ばれてるんだ!」
翔馬は出口まで歩いていく。
「明日! 一緒に食べよう!」
「は、はい!」
フォルナが笑顔になったのを確認した翔馬は教えられていた庭園に走る。
「お待たせしました! ソフィア様!」
「おお、待っておったぞ」
「遅いわよ、ソフィア様を待たせるんじゃない」
噴水が中央にある小さな庭園に、ソフィアとディオネが座って待っていた。
「初日はどうじゃった? 女子生徒は騒いでおったじゃろ?」
「は、はぁ……囲まれました」
げっそりした様子で翔馬は言うが、ソフィアは大笑いをしている。
「そうじゃろそうじゃろ。男の魔術師は小さい頃から特別扱いされてきて図々しいうえに嫉妬深いからの。それに比べて、お主は才能はあるし控えめじゃしこの我の護衛を務めるくらいじゃからの。安定した将来安定株じゃな」
「……この世界の男って」
翔馬はこれからの学校生活の行く末を想像して溜息を吐く。
「まあそれも仕方のないことじゃ。ん、あれ、そういえばお主は向こうの世界で特別扱いされていたんじゃろ? どうしたらそんな性格になるんじゃ?」
「いや、まあ……特別扱いはされてましたが、周りも超能力者ばっかりでしたし、あんまり自分が特別っていう感覚はありませんでしたよ」
「ふーん」
「まあ、所謂丁重に扱うのと甘やかすのは違うっていうことですね」
「……なるほど」
「何がなるほど、ですか! こんな男に説得されちゃいけませんよ!」
ディオネが翔馬を指して注意する。
そして、そのまま翔馬を睨む。
「それと貴方……ボロは出してないでしょうね?」
「えっ、だ、出してません」
「あんた、いま何で目を逸らしたの?」
「い、いや別に……」
「あやしい……」
ディオネが更に追求しようとするが、それを隣のソフィアに止められる。
「まあよい。決定的なことは言っておらんのであろう?」
「はい!」
今度は力強く頷く。
どう見ても何かあったのは見え見えだった。
「やっぱりこいつ……」
「よいと言うたじゃろ。そんなものなんとでも言い訳が立つ。それよりも翔馬、友人はできたか?」
「はい、隣のエルフの女子が仲良くしてくれます」
「そうかそうか、それは上々じゃ」
ソフィアがうんうんと頷いている。
「はぁ、あんまりソフィア様に迷惑かけないでよね」
「うむ、では食事にしようかの」
そう言って、横に置いてあった包みから箱を三つ取り出して、一つずつディオネと翔馬に渡す。
「ありがとうございます」
感謝しながら箱を受け取り、食事を始める。
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