第13話 一年風組
時計がないので正確な時間は分からないが、体感的には五十分ほど授業を習った後、チャイムと同時に授業が終わる。
授業は魔法とは何の関係もない数学だった。
それも中学一年生くらいで習うレベルだったのだ。
昨日の夜に渡されたテスト問題も同じレベルで、悪くないわね、と言われただけだったが、ほぼパーフェクトだったはずだ。
高一、しかも世界で有数の高校に通う翔馬からすれば簡単な内容であった。
だが、元々授業は真面目に受ける翔馬は、その簡単な授業でも真面目に受ける。
(まあ初日から居眠りするほど肝は据わっていないけど……)
「あ、しょ、初日の授業はどうでしたか?」
「え! ええっと……」
もちろん凄く簡単だったとは言えない。
自分は右も左も分からない田舎者なのだ。
だからこう答える。
「俺にはちょっと難しかったですね」
「そうでしたか! 大丈夫です。分からないときは私が教えますから。あ、私、フォルナ・マグナと言います」
「あ、ありがとう」
(こ、心が痛い)
純粋そうな少女は、翔馬の言葉を少しも疑うことなく信じてしまう。
それからすぐクラス中の女子生徒が翔馬の下にやってくる。
「ねえねえ翔馬君! ソフィア様の従者って本当?」
「う、うん」
「「「きゃー!」」」
「じゃあ魔法適正が四つあるっていうのは?」
「ま、まあ……水、風、土、闇の適正があります」
「「「きゃー!」」」
彼女達は翔馬の一言一句に過剰に反応して歓声をあげている。
「じゃあどこでソフィア様の従者になったの?」
「み、道の途中で色々あって……」
「色々って?」
「い、色々です……」
根掘り葉掘り聞いてこようとする彼女達から離れようとするが、周りを囲まれて出るに出れない。
結果、次の授業まで翔馬は彼女達に囲まれ質問攻めにあってしまった。
「大変でしたね」
授業の鐘が鳴っても座らない彼女達を教師が静め、各々の席に座ったところで、隣のエルフの少女がまた話しかけてくる。
「あはは、まあ何となく覚悟はしていましたので大丈夫だよ」
気持ちは正直分からないが、知識とは知っている。
忠告もされたし覚悟もしていたので、別に構わない。
少なくとも、口を滑らさなければ悪いことではない。
そんな時だった。
後ろから声が掛かった。
「ふん! 田舎者が女に囲まれていい気分だな」
「え?」
後ろを向くと、先ほど頬杖を付いていた男が見下すような視線でこちらを見ていた。
「ふん!」
それっきり鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
「うーん……」
(あー嫉妬か……)
これも先に言われていたことだ。
新入生の風当たりが強いのは仕方がない。
翔馬は特に気にすることなく前を向く。
授業が終わると、女子達が集まってこようとする。
それを見た翔馬も立ち上がり、男子生徒四人の下に向かう。
「初めまして、坂上翔馬と申します。田舎暮らしでまともな教育を受けてなかったので一年生から編入しましたが、歳は十五歳です。よろしくお願いします」
頭を下げながらいうと、男子生徒も驚きの声を上げる。
「十五? 俺らより年上だったのか?」
「はい」
「な、ならば……」
年上が頭を下げるというのは年功序列順という慣習のないこの世界でも、それなりに有効なものであった。
それを聞いていた周りの男子生徒もそれならひとまず納得の顔をする。
「あ、もちろん同学年ですので敬語は不要ですよ。ソフィア様の従者だからと言って敬う必要もありません」
「そ、そうか、ならよか……いや、なんでもない!」
彼らが頷いたのを見て、翔馬は自分の席に着く。
「翔馬さんって年上だったんですね」
「隠していてごめんね。あ、もちろん君達も敬語は大丈夫だよ。俺は辺境の田舎生まれですから。あははは」
「地位なんて関係ないですよー」
「そうそう、大事なのは才能です!」
謙虚な翔馬を女子生徒達が口々に褒め称えている。
だが、この流れはよくない。
後ろの男子生徒達がムッとしている。
翔馬は内心で少し焦りながら、努めて冷静にその言葉を否定する。
「才能なんてあってもそれをまともに使えるような教育を受けてこなければ意味がないよ」
軽い調子で謙遜の言葉を言う。これくらいのフォローは日本人なら朝飯前だ。
後ろの男子生徒達ももっともだ、と頷いている。
しかし、日本人の美徳、謙遜が彼女達の心にますます火をつける。
「ねえねえ、翔馬君って今日、このあとお暇? 私とゆっくりお話しませんか?」
「ちょっと貴女、抜け駆けはだめよ」
「ねえ、翔馬君、授業の分からないところなかった? 私が教えてあげる」
「ちょっと、貴女より私のほうが成績いいわよ!」
「それなら私だって……」
「ちょ、皆、落ち着いてー……」
翔馬は、自分を中心に行われている掴みかからんばかりの女の戦いをどうすることも出来ず、もみくちゃにされる。
「み、皆さん、翔馬さんが困ってますよ! 一旦離れてください!」
フォルナとケレスが叫ぶが周りの女子生徒の姦しさは止まらない。
その時だった。
フォルナが女子達に押し出され、後ろに転倒する。
「あ、危ない!」
それを見ていた翔馬は、慌てて立ち上がり、フォルナに重力の能力を使ってしまう。
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