第7話 有限の魔力と無限の超能力
そんな時、横で静かに見守っていたエレイネが囁くように言う。
「ソフィア様、そろそろ……」
「おお、そうじゃったそうじゃった。では翔馬、続きは道の途中で」
そう言って、ソフィアは馬車の中に戻ろうとする。
「あ、ちょっと待ってください」
「ん? なんじゃ?」
「あの、彼女達は横にさせたまま移動させた方がいいのではないでしょうか?」
彼女達、というのは怪我をして気を失っている騎士達だ。
荷車などはないため、彼女達は馬に乗せられている。
「うむ、それはそうじゃが……。見ての通り荷車がない。しかしここに残すのは二次災害の危険があるじゃろ? それとも何か横にしたまま移動させる方法があるのかのう?」
「あ、はい。俺の能力でしたら彼女達を横にさせたまま移動させられます」
「ふむ、そうか? じゃったらよろしく頼もうかの」
「分かりました」
翔馬は頷き、傷付いて動かない騎士達四名に能力を使う。
すると、段々彼女達が浮かんでいき、一度空中で宙吊りのような状態になった後、そのまままるでベッドで横になったかのように空中で横になる。
「ほぉ、これは凄いな、お主」
「ど、どうも……」
翔馬は腰の低い姿勢で頭を下げる。
「で、これはどのくらい効果が続くんじゃ?」
「ええっとー街までどのくらいの距離でしょうか? 数日とかになると厳しいのですが」
「それは問題ない。ここからなら二時間ほどで学園に着く。そこなら人を呼べる」
「それくらいでしたら全然問題ありません!」
「そうか……。では翔馬、馬車の後ろから怪我人達と共に付いて参れ」
「はい!」
「うむ、では出発じゃ!」
翔馬が頷いたのを見てソフィアが号令を出し、騎士達も動き出す。
翔馬も浮き上がり、それに付いて行く。
それから十分後、翔馬はソフィアに呼ばれ、ソフィアの横に浮いたまま移動する。
「何か御用ですか?」
先ほどまではカーテンのようなものが掛かっており中が見えなかったが、今は開け放たれておりソフィアはその顔を外に晒している。
「いや用というほどものではない。まあ他愛のない話をしようと思ってな。お主のそれ、魔法ではないんじゃよな?」
「あ、はい。超能力です。俺は重力系能力者ですから」
「重力……とはなんじゃ?」
「え? あ、すいません!」
日本ならばこれだけでも通じるという自分の常識で話していた。
翔馬は慌てて補足する。
「ええっと、簡単に説明すると……」
そう言いながら道端の石ころを浮かび上がらせる。そしてそれを持ち上げた状態から落としながらその石の間を指す。
「重力というのはこれです」
正確には間違っているが、詳しく説明する必要も別にないので簡単な説明で終わらせる。
「おお、なるほど! つまりお主は物体の重さを操れるということじゃな?」
間違ってもいないが合ってもいない。
「え、ええっと……まあ、そんな感じです」
翔馬が指したのは石が落ちる間であり石本体ではない。
しかし、ソフィアは勘違いしたまま嬉しそうに納得しているのを見て言うに言えず、曖昧に頷く。
(まあ嘘ではないし……いっか!)
「うんうん、なるほどなるほど。即ちお主は石の重さを埃と同等まで軽くすることで軽々と持ち上げられるのじゃな! そうじゃろ!」
「は、はぁ……まあ、似たようなものです」
ソフィアが嬉しそうに頷いているのを見て、更に言い直す事が出来ず曖昧に頷く。
「ソフィア様、ちょっと……」
「なんじゃ、ディオネ。我に話か?」
「はい、ですが……」
二人で話していると、後ろからディオネが割り込んでくる。
ディオネはチラチラと翔馬を見ている。
「あ、では俺は下がりますね」
「そうじゃな。よろしく頼む」
「いえ構いません」
その目線の意図を敏感に悟った翔馬は、後ろに下がっていく。
それを確認したディオネは小さい声でソフィアに聞く。
「よろしいのですか? あんな者を突然従者にして……」
「よい! 我の勘がそう言っておる!」
「貴女様の勘はあまり当てにならないのですが……それにあの者、嘘を吐いてますよ」
「それも、分かっておる。心配無用。それよりもディオネ、気付いたか? 先ほどの発言」
ソフィアは突然真剣な顔になり、窓から首を出してディオネに近づく。
「え? 何にですか?」
「あやつ、数日は難しいといっておった。じゃがそれはつまり、最低でも丸一日、怪我人を四人持ち上げ続けられるということにもなる」
「っ!」
その事に言われて気付いたディオネは息を呑む。
「あやつは魔法ではないと言っておった。即ち、魔力切れもないのであろう。しかも数日、という言葉から寝ながらでも能力が使える可能性も否定できん」
魔術師には、生まれながらに決められている魔力がある。
だが、英雄と呼ばれる魔術師でも、一日どころか一時間も魔法を打ち続けることは出来ない。
だから彼らは戦っている最中、どれだけ魔力を節約して勝てるかを重要視している。
そんなところに、彼らを圧倒的に凌ぐ強さを持つ翔馬が現れたのだ。
「奴は危険じゃ」
よく見れば、ソフィアの頬には汗が流れた後があった。
翔馬は気付かなかったが、ソフィアの側近であるディオネはその事に気付いていた。
「ならばなおさら!」
「じゃが、敵には見えんかったじゃろ? ならば味方にすればよい。奴を我が陣営に取り入れることができれば魔王達を滅ぼし、魔物達に人々が怯えずにすむ日が来るやもしれんのだからな」
「それほど、ですか……」
「それほどじゃ」
ソフィアは遠い彼方を見ながらそう言った。
頷くソフィアに、ディアナはもう一つの懸念事項を口にする。
「ですが……もし天授者で自国に帰れた者はいないということがばれたら」
「……細心の注意を払え」
「それは考えてなかったんですね」
ディアナの呆れる声を無視して、ソフィアは馬車の中に戻っていった。
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