第6話 ちきゆうと地球
しかし、翔馬はそれどころではない。
「ガリア? 王国?」
聞いた事がない名前だ。少なくとも今の地球にそんな名前の国はないはずだ。
だとすれば……恐ろしい可能性を考えなくてはならなくなった。
(異世界召還? き、昨日俺はいったい何をしてたんだ?)
それから暫く考え込む。
(た、確か昨日は友達と飲んでて……最後に何か頼まれたんだよな……。あーなんか安請けあいをした気がする……)
だが、やはり思い出せない。
何かしらの許可を取られて頷いた記憶がある。
そしてそれを頼んだ友人は、確か瞬間移動という転移系の能力をもつ超能力者だった。
つまり、自分は何かしらの実験に付き合って、その途中で何らかの異変によってよくわからない場所に飛ばされた、ということだろう。
「翔馬、顔色が悪いが大丈夫か?」
「す、すいません。ちょっと眩暈がしただけです。ガリア……ガリアですか」
改めて異世界に来てしまったことを突きつけられると、流石の翔馬でもショックを隠しきれないでいた。
「ふむ、なにやら翔馬はショックを受けているようじゃな? ではこちらの用事を済まさせてもらおう。エレイネ!」
「ここに」
名前を呼ばれた赤い髪の騎士とは別の者が、馬車に近付き頭を下げる。
エレイネは、おしとやかそうな顔をしており、服も他の騎士達とは違い、白い修道服に似ており戦いの最中も馬車の一番近くまで下がっていた。
エレイネは、いつの間にか先程倒れた騎士や、翔馬が来る前にやられた騎士達の看護をしていた。
「傷を負った者の状態はどうじゃった?」
「はい、当たり所がよかったのか、死者、また今すぐに命に関わるものは居りませんでした。ですが……」
「うむ、のんびりもしてはおれんか」
「はい」
「というわけで翔馬、考えているところ悪いのじゃが、こちらもあまり時間がない。続きは歩きでよいか?」
「……」
翔馬は俯いたまま動かない。
「あんた! ソフィア様が聞いているのだからちゃんと答えなさいよ!」
「イタッ! す、すいません。集中していたので」
脇腹を剣の柄で思い切り小突かれ、悲鳴を上げながら謝る。
「よい、で、話は聞いておったか?」
「あ、何となく……俺は歩きながらで構いません」
「……って、お待ちくださいソフィア様! まさかこんな身元も分からない危ない男をあそこに連れて行くおつもりですか!」
「そうじゃが?」
「危険です! もしこの男があそこで暴れたら……」
「あそこで暴れたらって結構卑猥な、イタッ、イタタタタタ、謝る、謝るから耳を引っ張らないでー!」
つい六聖学園内のテンションで言ってしまった。
こう言った冗談は仲間内でそれなりに盛り上がるのだが、状況と言う人が悪かったみたいだ。
「それは問題ないじゃろ。翔馬、お主のその黒髪と黒目、それにその見慣れぬ服。もしやちきゆうとかいう国の出身者じゃないのか?」
「そ、そうです! 俺は地球出身です!」
国ではないし、そもそも「ち」の発音が少し違うが、まず「地球」で間違いないだろう。
「ほぉ、ではやはりそなたは天授者なんじゃな?」
「てん、え、何と?」
こっちは聞いたことのない言葉だ。
少なくとも自分は天授者などというそんな大層なものじゃない。
しかし、惚けた顔をする翔馬に気分を害された様子もなく、ソフィアは話を続ける。
「天授者じゃ! 突然ふらりとこの世界のどこか現れ、我らには想像もつかなかった知識を授けてくれる者達。彼らの誰もがその身元を保証できる者は居らなんだかその代わり、共通して言う言葉がある。ちきゆう出身者じゃ、とな」
「へー」
自分の知っている固有名詞が出てきて、翔馬は少し安心する。
しかし、その言葉を別の場所から反論する者がいた。
「お待ちください、ソフィア様!」
「なんじゃ、ディオネ」
突然の声に驚き後ろを振り返ると、剣を抜き身の状態で構えた先ほどまで翔馬に斬りかかろうとしていた騎士、ディオネが翔馬を睨んでいた。
「彼は私達に嘘を吐いています!」
「ふむ?」
「え、ええ!?」
翔馬は動揺する。先ほどは異世界人であることを隠そうとしたが、それを嘘というのは飛躍が過ぎる。
もしかして、本当にちきゆうという国が存在するのだろうか。一つ異世界があったのだ。二つあってもおかしくはない。
ディオネには、翔馬が嘘がばれて動揺しているように見えた。
そこで更に追撃を重ねるべく、更に翔馬に近付いていく。
「ちきゆう出身者は確かに知識面においては優れてました。しかし、その他の能力においてはきわめて平凡。高い魔力を有しているわけでも高い武力があるわけでも、ましてやこんな強力な能力を持っているなんて話は聞いたことがありません! 都合のいい言葉で私達を騙そうとしているにちがいありません!」
「なるほどー」
などと適当な相槌をしていたが、まったくとして人事ではなかった。
「ふむ、確かにディオネの言っていることには一理あるのぉ。翔馬、何故か説明できるか」
「あ、はい、それでしたら……」
理由は簡単だ。
超能力者が地球で生まれたのが極最近だったからだ。
当時は、国の人体実験の結果とか人間の突然変異だとか噂され一悶着あったが、今は専門の学校まで出来るくらいには人々に受け入れられている。
「ということです」
「ふむ、なるほど……納得できる話ではあるな」
「お待ちください! 翔馬、貴方それを証明できるの?」
「え、出来ませんが……」
出来るわけがない。
翔馬の服装は、一応外着ではあるが、半袖に長ズボンという軽装だった。
携帯どころか財布さえ持っていなかった。
しかも、例え持っていたとしても確たる証拠にはならない。
何処かで聞きかじったものだろう、などと言われたら言い返しようがない。
「ほら証明できないじゃない。ソフィア様、この者は危険です! 都合のいい嘘を吐いて貴女様に取り入ろうとしています」
「じゃが、彼がちきゆう出身者ではないという証拠もないであろう?」
「そ、それはこの力を持ったものが……」
「これだけの力を持っているのに何故嘘をつくんじゃ? その力を純粋に我に披露すればよかろう。ならば我は普通に翔馬を受け入れ厚遇したぞ。身元が分からんでも取り入れるリスクに見合うだけの強さがこやつにはあるからのぉ。違うか?」
「うくっ……」
ディアナは言いよどむ。
「そう言うことじゃ。それにあの顔をよく見てみよ。あれが人を謀る者の顔か?」
「へ?」
翔馬は間の抜けた声を出す。
「締りのない顔をしておる。それに先も言ったが、リスクに見合うだけの強さを兼ね備えておる。敵に回すよりも味方に懐柔する方がよほど得であろう。それでもうこの話は充分じゃ」
「……畏まりました」
納得はしていないようだったが、しぶしぶ頭を下げ、後ろに下がる。
「さて、ディアナも納得したところで話を再開するかの。翔馬、お主はここに来たばかりなのであろう? ならば話は早い。我と共に来ぬか? 我を救った礼もそこで渡そう」
「へ?」
またもや翔馬は間の抜けた声を出す。展開が速すぎてついていけないのだ。
「お主、自分の国に帰りたいのではないか?」
「は、はい! それはもちろんです!」
「我が今から行くところは、世界中から王侯貴族や魔術師が集まる学園じゃ。つまり、この学園には世界中から様々な情報が集まってくる」
「おおー」
「どうじゃ? そなたはそれまで我の従者となり我を助けよ。お互い損のない良い話だと思わぬか?」
「思います!」
翔馬は即答する。
「思っちゃ駄目でしょ! あんた、もう少し警戒しなさいよ!」
「えーでもせっかく誘ってくれたんだし、人の親切を断るのも気が引けるし……」
「あんたいつか絶対悪い人に騙されるわよ……」
「「あっはっはっは」」
ソフィアと翔馬は声を揃えて笑う。
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