神経難病
神経難病のひとつであるパーキンソン病は、脳内のドーパミン欠乏により、脳から筋肉への運動指令がうまく伝わらずスムーズに動けなくなる病気です。体の動きが悪くなり手足の震えやこわばり、動作緩慢といった症状が現れます。運動症状にくわえ、抑うつ、睡眠障害、視覚認知障害、自律神経障害といった非運動症状も注目されます。
運動症状には、無意識に行っていた動作や複数の工程のある動作が苦手になることが特徴のひとつにあります。運動療法では、できるだけ体を大きく動かす、姿勢を伸ばすことが基本になります。そして、運動の意識化やイメージを行うこと、工程を区切って動作を行うことが考えられます。
手がかりのある動作は行いやすく、視覚的な情報、聴覚的情報が動作を開始するときに効果的であることがあります。意欲の向上、前向きな感情により、動作が改善する面もあります。
運動療法は、ドーパミンを活性させる薬が効いている(オン現象)ときに実施します。この時に行う繰り返し運動は脳によい影響を与えるとされています(例︰立つ、歩く、座ることをくりかえす、低負荷で軽い運動を繰り返す)。運動を繰り返すことによる感覚学習、運動学習の効果も期待できます。
ホーン・ヤールの重症度分類Ⅰ度、Ⅱ度は歩行や動作の障害が少なく、運動療法をすすめやすい状態です。Ⅲ度は転倒に注意が必要です。
症状の進行とともに、関節可動域制限、筋の短縮、関節を動かしたときの硬さ(鉛感現象、歯車用現象などの筋緊張亢進)がみられる部位が増えたり、硬さが増すようになります。頸部に筋緊張亢進があることがあり、円背、首下がり姿勢の原因のひとつになっていることがあります。
筋肉の合成と分解は、甲状腺ホルモン等でコントロールされています。しかし不動や神経と筋肉の連絡の障害、過度な運動によって筋蛋白の分解は促進し、筋は萎縮します。運動神経の興奮による筋収縮のメカニズムとは別に、筋肉にはアセチルコリンの放出、神経からの栄養因子の分泌があります。筋蛋白の分解と合成のバランスが保たれることにより筋の量と質が保たれますが、過度な運動により筋繊維を覆う基底膜が変性し、タンパク分解酵素が活性化すると、筋原線維が部分的に壊死します。また、筋活動の低下によっても、筋蛋白合成能力低下、蛋白分解酵素の活性化がおこり、筋肉の短縮や萎縮がおこります。
ホーン・ヤールの分類Ⅳ度、Ⅴ度(日常生活に介助が必要)の場合、食事をはじめ日常生活動作に介助が多く必要です。
食事では、姿勢保持能力低下に対して、イスやクッションの調整が考えられます。上肢の運動症状に対しては、すくいやすい皿の使用が考えられます。複数の皿から選んで食べることが困難な場合は、一皿ずつ摂取することが考えられます。
洗顔では、転倒の危険、震えや体の硬さでうまく手を使えないことに対して、顔の形を確認してから手を動かすこと、片手で顔を洗い片手は洗面台につかまることが考えられます。
歯磨きは、歯ブラシを上方向のみ、下方向のみと部位ごとに行うこと、手の動きだけじゃなく首の動きも取り入れることが考えられます。
更衣は、座位バランス能力低下、体や上肢の硬さ、動作能力低下による障害が考えられます。靴下を履くときは、足をくむことや台を利用して、爪先を浮かして踵を通すことがあります。
かぶりの上着は、頭を入れてから腕を通すことで、やりやすくなることがあります。上着(前開き)をぬぐときも、後ろに手を伸ばしにくい、腕が上がりにくいことに対し、利き手や使用しやすい方の手で、後ろ襟を握って引き上げ、ぬぐことが考えられます。
トイレでは、個室内の空間ではすくみ足がでてうまく動けないことがあります。同時に複数の動作をすることが苦手なため、床に足位置の目印をおき、動作をひとつずつ分けておこないます。
入浴は、転倒防止のための環境調整が重要です。洗髪動作は片手でゆっくり大きい動作で行うこと、浴槽の出入り動作は手順をきめて区切り、ゆっくりと行うことが考えられます。転倒への恐怖があると足がすくみ、動作を実施しにくくなるため、バスボードや浴槽台、手すりなど、安全のための福祉用具の使用を促します。
ヤールの重症度分類Ⅳ度、Ⅴ度の状態や、構音、呼吸の状態によっては、音声構音障害、呼吸機能へのリハをおこないます。胸郭のリラクゼーションの実施、呼吸補助筋の過緊張を抑制します。言語訓練では、会話前に深呼吸をすることが発声に有効なことがあります。声量低下改善、呼吸能力改善を目的として、横隔膜呼吸訓練、構音訓練を行います。肺炎予防、QOL(生活の質)改善のための嚥下訓練、運動と感覚の改善のための顔面、口、舌の運動も考えられます。
症状の進行具合にあわせ、認知機能評価を行います。脳のコリン神経系の機能低下による認知機能低下も考えられ、パーキンソン病発症初期より認知機能低下がある方もいます。
薬物療法、運動療法以外に、ドーパミンの放出を促すという概念があります。パーキンソンでは一度にだせるドーパミンのストックが少なく、少ない量のドーパミンが短時間しかでないと考えられます。少ない量でも、ドーパミンの分泌をこまめに促すというイメージです。ドーパミン放出が不安定になるとされる、睡眠不足、過度な運動、疲労は厳禁とし、自分の体にあった運動時間、運動強度、休息のタイミングを探ることが考えられます。
ドーパミンはモチベーションと関係があり、また称賛に反応し分泌されます。ドーパミンの分泌には、体を動かすことの他に、モチベーション、本人が意欲的に取り組めることを繰りかえし行い努力する、本人がその行動により、報酬や成果を実感するということが影響すると考えられます。
一方で、衝動制御障害に注意が必要です。運動や趣味などドーパミンが分泌されるようなことに、コントロールできずに没頭した結果、疲労により症状が急にあらわれ体の動きが悪くなる(オフ現象)ことがあります。尚、衝動制御障害はドーパミン受容体刺激薬の副作用として、引き起こされやすい場合もあります。
パーキンソン病では、運動症状や自律神経症状(起立性低血圧、多汗、便秘など)、幻覚などの精神症状が、服薬や体調、精神面の影響により変動します。特有の日内変動や日間変動を把握すること、筋肉や関節の硬さ、姿勢と運動の評価を行うことも、転倒防止、QOL(生活の質)の観点から重要です。
生活リハビリ @3300
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