第36話、紋切り型の悪役だなんて、本当はいないのかもしれない
晃は光る本の、言葉が書かれているところまで読み終えると。
大きくひとつため息をついて痛む頭をさすり、立ち上がる。
「無茶をする。……気持ちは分からなくもないが」
呟き考えるのは、改めての今の状況。
この世界にその言葉や概念があるかどうかは分かってないけれど。
この状況は、ほとんど奴隷扱いされていると言っていいはずで。
正直よく無事だったものだと、晃は思う。
もしかしたら、言うほどに地の魔精霊たちも悪い存在ではないのかもしれない、なんて思うのは、晃自身が自分の目で彼らを見たことがないせいもあるだろうが。
「……ヒヒ、ちょうど一人か。そりゃ都合がいいな友よ」
そんな事を考えていると、羽ばたきとともに小さなくりぬいてあるだけの狭い空気孔の穴から聞こえてくる、ジャックの声。
その空気孔には、鉄格子が狭い間隔で嵌まっていたが、見た目よりジャックの体はずいぶんと細いらしく、羽をたたんで器用に鉄格子をすり抜けて、中に入ってくる。
「ああ、ジャック。無事だったか」
「ヒヒッ、当たり前だろ、このボクを誰だと思ってる。それより、説得のためのいいネタを掴んできたぞ」
本当にタイミングがいいなと晃は思いつつそんな声をかけると、羽ばたいた状態で器用に胸を逸らしてみせ、そう言葉を返してきた。
「いいネタ?」
「ああ、スミレからの情報なんだけどな、地の王とやらにはどうやら妹君がいるらしいんだ。だが、何でも闇の一族に呪いをかけられているらしくてな、床から出られないんだそうだ」
「闇の一族」
その言葉は、ラキラの日記……台本にも書かれていたことを思い出し、晃はそれを口に出して反芻してみる。
「ヒヒ、そう、闇の一族の呪いだ。どうやらこの後から作られた白い根城は、そんな妹君を守るために作られてるって噂だ。そして、水の王を嫁がせようとしたその理由も、その呪いに関係していると見ていいだろう」
「万能の水の力、か……」
晃は続くジャックのその言葉に、すぐにピンときた。
ラキラでさえ、けが人を救うほどの力があったのだ。
きっと水の王の力は、その呪いすら解くことができる強い力なのだと容易に想像できる。
「しかし、それなら嫁がせる理由はないはずだろう? 力を貸してほしいと頼めば事足りるはずだ」
まずはそう考えるのが普通じゃないのかと、何気に浮かんできた疑問だったけれど。
「ヒヒヒ。それができたら苦労しねえんだろうよ。何せ地の一族はプライドの塊のようなもんらしいからな。婚姻の話は単純にキミがそうであるように、ひと目水の王の姿を見て自分のものにしたくなったって理由もないことはないだろうけど、ほんとのところは体裁なんだろう。ヤツラにとってみれば水の一族に力を借してください、なんて恥ずかしくてできねえんだろ、きっと」
「……そういうものか?」
返ってきたジャックの言葉は、納得できるようなできないような微妙なところだった。
思わず晃が首をひねっていると、
「ま、それはともかく、これでなんとか説得できそううかなって、ところだな。少なくとも王を直接狙うよりは、大分やりやすいはずだぜ」
話を戻し、体を一回転させながら、話をまとめるジャック。
「つまり、どういうことだ?」
晃はその言葉に、不穏なものを感じた。
だから、伺うようにそう聞き返す。
「ヒヒ、分かってるだろ。その妹君が地の国の弱みであるんなら、そこをつつけばいいってことさ。どうつつけばいいのかは友よ、キミの自由だがな?」
すると、聞こえてくるはからかうようなジャックの笑み。
あっという間に霧散する、不穏な空気。
「……卑怯な問答だな、それは」
鏡写すように苦笑するしかない晃がそこにいて。
「ヒヒ、それも今更、だろ。さぁ、どうする? 自分の私利私欲のために地の王を説得しに来た脱獄犯さんよ」
止めとばかりに続くその言葉は、実に皮肉めいていて。
結構ひどいことを言われているような気もするのに。
事実だからなのか、怒る気にもなれない晃。
「……会えないだろうか、その人に。もしかしたら、俺にもその呪いというものが、解けるかもしれないだろう?」
それは、あくまでかもしれないことで、根拠はなかったけれど。
自身の、ラキラの力でスミレたちに傷が見る間に治っていくのを晃は確かに見ていたから。
ひょっとしてと、そう思ったのだ。
「ヒヒ、まったく困ったヤツだよ。そう言うだろうと思ってたボクもたいがいだけどな」
そしてジャックが、そんな晃の『かもしれない』に、言葉通り分かってたとばかりに頷いたその時。
「アキラ、どうだい調子は~?」
聞こえてくるのは、そんなユタの声。
「おっと、それじゃあボクはずらかるとするかな。今の話、スミレにも通しておくから。準備ができたらまたくるぞ」
それを耳にしたジャックは。
そう一言残して、再び狭い空気孔の中へと消えていった……。
(第37話につづく)
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