第5話 スコットランドの古城

「相沢君、ちょっと」

 デスクで山積みの郵便物を見ていた三島さんが、僕に手招きした。


 僕が彼の所へ行くと、一枚の大判サイズの写真を差し出した。

「これを見てくれ。君の意見を聞きたい」


 その写真には、どこか外国と思われる場所の荒れ果てた廃墟の様子が撮られていた。


〝修治兄ちゃん、ここに女の子がいるよ〟

〝うん、いるね。とても悲しそうだ〟

〝うん……すごく人を憎んでいるみたい。この写真を撮った人、大丈夫かな〟


 僕はリンカとテレパシー(だと思う)で会話した後、三島さんに言った。

「この石のブロックの上に、霊体がいます。女の子の霊ですね。かなり強い害意が感じられます。この写真はどこから送られてきたんですか?」


「やっぱりそうか……これはスコットランドのファンから送られてきたものだ。手紙にはネス湖の側のアーカート城で写したと書いてある。ただ、その後にこう書いてあるんだ。

 これを撮影して帰った後、一緒に旅行したガールフレンドが体調を崩し、精神的にも不安定になっている。それで、ぜひ、調べてみてほしい、とね」


 僕とリンカはやはり、という思いだった。

「どうかな?取材と、よかったら除霊までお願いできないか?」


〝リンカ、どう思う?〟

〝あたし、行きた~い!外国は初めてだもん〟


「分かりました。行きます」

「そうか、ありがたい。旅費は奮発するから、観光も楽しんできてくれ」

〝やったね、お兄ちゃん〟

 僕は心の中でリンカとハイタッチをした。



 それから一週間後、僕たちは初めての外国、スコットランドのエジンバラ空港に降り立った。 9月の半ばだが、もうスコットランドは肌寒かった。

 空港には、例の写真の送り主であるベイヤードさんが迎えに来ていた。

段ボール紙に『ウェルカム、ジャパニーズメディアム(霊媒師)』と大きく書いて、掲げていたからすぐに分かったが、ちょっと引いてしまった。


 彼の運転で、空港からまっすぐに北北西へ向かう。ネス湖はハイランド地方最大の湖だ。

「君はまだ若いね。何歳だい?」

「ああ、二十七です」

「ミスター・ミシマからのメールだと、君はとても優秀な霊媒師らしいね?」

「それは少し大げさです。でも、あなたとご友人の女性の手助けは出来ると思います」

「ああ、それは素晴らしい。あいにく、彼女は体調がまだ悪くて来れなかったが、ぜひ彼女を助けてやってほしい」


 僕たちは、途中で何度か休憩を入れながら、片道約三百キロの道を六時間かけて移動した。今夜の宿泊地であるポートオーガスタに着いたのは、夕方の五時過ぎだった。


 その日はベイヤードさんに連れられて、パブでおいしい料理と本場のスコッチをごちそうになり、ホテルで一泊した。

 そして次の日、朝早くから僕たちは車でアーカート城へ向かった。ネス湖の美しい風景を見ながら走ること三十分、問題の古城が目の前に見えてきた。


「ベイヤードさん、僕た、僕はここから歩いていきます。霊はあの城から離れられませんから、ここにいれば安全です。車の中で待っていてください」

「あ、ああ、分かった。気をつけてな」


 僕は微笑みながら手を上げて、城に向かって歩き出した。


〝お兄ちゃん、あの子、こっちに気づいたよ〟

〝うん。かなり警戒されてるね〟

 僕とリンカは話をしながらも歩みは止めず、まっすぐにもやがかかったような廃墟の城跡へ進んでいく。


 理不尽な運命に悲嘆し、絶望の闇の中で、ただ怒りと憎悪を膨らませた人間の魂は、周囲から引き寄せられてくる獣や虫の魂、あてもなく彷徨う亡者の魂さえも取り込み、辺りをおぞましいトワイライトゾーンに変えていく。


 僕とリンカが進んでいく先は、常にそんな危険極まりない場所だ。でも、僕たちは決して歩みを止めることは無い。

 なぜなら、その先には僕たちの救いを待つ魂があるからだ。この世に救えない魂は無い。僕とリンカは、この三年間積み重ねてきた経験から、そう固く信じているのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


読んでくださって、ありがとうございます。

半端感が半端ないのですが、いったんここで完結とさせていただきます。

続きを読みたいという要望が多かったら、改めて書いてみたいと思います。

ご意見、ご感想をお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の背中のリンカ 水野 精 @mizunosei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ