ストーカー・ゼロ
テト式
ストーカーゼロ
「ヨシッ。お仕事終わり!!」
そう元気に答える彼女こそが、このサーハテーの街の冒険者ギルドのイチオシ受付嬢アーリンちゃんである。
うん、今日もかわいい。
「おや、アーリンちゃん。やっと終わったのかい?」
「はいっ。今日はギガゴブリンの巣の発見が近隣農村から届いたし、アポストルスライムの駆除依頼が行政から来ましたし、ボーロモケ商会からのシリウスボア肉の緊急納品依頼が来て大変でした」
「おーもうアポストルスライムが湧く時期か」
「ええ、新人さんのいい練習になるでしょうね」
そんなアーリンちゃんはそこらの用務員とお話をしている。許せない。
いや、しかしもうアポストルスライムの湧く季節か。早いものだ。自分も駆け出しの時はよく日銭を稼ぐために地下下水へ潜ったものである。
…今もだけど。
うぐぐ。アポストルスライム。憎きアポストルなスライム。どんなに気配を消しても絶対に察知するシーフ職の憎っくき天敵である。
「じゃあ上がりますね」
「おう。じゃあなアーリンちゃん!」
そうこうしているうちにアーリンちゃんが外に出てしまう。
今日こそはアーリンちゃんの秘密の休暇を追跡護衛しなければ!
冒険者ギルドのイチオシ激カワ受付嬢アーリンちゃんには秘密が多い。
まず休日に何をしているか分からない。
というかもうその前日の仕事上がりからもうわからない。
アーリンちゃん親衛隊隊長であるこの俺ですら追跡できていない。噂では夜な夜なイケイケなオジサンとヨクない事をしているという黒い噂がある。
する訳ないだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
俺のアーリンちゃんがそんな事!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
と言いたいが、否定できる証拠がないのも事実。
なので、徹底追跡、もとい護衛を行い、黒い噂の真意を晴らさなければならない!
と言う事でアーリンちゃんを追跡護衛中。
ああ、アーリンちゃん。俺のアーリンちゃん。清楚な乙女な可憐な天使なアーリンちゃん。どこへ行くと言うのかね~
「よし、ここならだれも居ないね」
と、独り言でそう言っちゃうアーリンちゃんマジカワゆ~って裏路地だよそこ!?
ってさらに懐から転移魔法道具!? しかもあのタイプは高級転移道具!まさか噂は本当で、怪しいオジサンの奴隷で、休みの時は秘密のお部屋への転移を義務付けられているとか!!??許せん!!!!!
そう思ってアーリンちゃんが転移道具を起動する瞬間に、俺は全てのスキルを発動させ、ついでに新たなスキルも開花させ、その転移魔法に乗っかった!
君を守る為なら例え地獄の果てでもどこまでも!!!!
『こちらゴルフ隊!!ポイント・デルタで交戦中!!』
『なんでもいい!増援をよこしてくれ!』
『嘘でもいい!エイブル隊が、アーリンが来たって言ってくれ!』
『エイブル隊はポイント・アルファで足止めを食らってる!10分は掛かるッッ』
『5分も持たねぇんだよ!!!!!』
「は?」
転移魔法の効果が切れたらそこは荒野でした。
正確には荒野の中にある遺跡? みたいな所で屈強なおっさん達が火薬式ボウガンを連射している。随分手慣れた様子で扱ってるけど、持ってる武器が火薬式ボウガンなのでイマイチ映えない。
おっさん達は腰程度の高さの灰色の壁を盾に変な体制で火薬式ボウガンを連射している。
『野戦砲台が待機中!』
『よし!撃ってくれ!座標は……』
おっさん達の一人がそう言ってなにやら魔法を詠唱している。聞いた事がないが、恐らくこの状況だから魔法の詠唱だろう。
それにしてもこのおっさん達、皆同じ鎧だ。というか兜に籠手に膝当てに靴に至るまで皆同じだ。個性というものがない。せめて色を変えるとかしないの?
そうこうしている内におっさんの詠唱が終わったらしく、大規模な爆発がボウガンの発射先で起こる。凄いなおっさん!その見た目で魔法使いなのか!その見た目で!!
『イヤッホォォォォ!!!』
おっさん達が喜ぶ。そりゃあのレベルの魔法がその恰好で成功したのなら喜ぶだろうな。
だが、爆発の煙が晴れるとそこには絶望が広がっていた。
化け物だ。化け物が群れを成している!!
いや、形状はエニグマンティスとフィアースパイダーを足して2で割ったような見た目だ。
つまり大変グロくて凶悪な鎌を持ったモンスターだ。そんなモンスターが軽く100以上いる。これは3チーム程必要になる大型依頼案件だ!
とてもじゃないが連射できる程度の火薬式ボウガンじゃ勝てそうにない。
『畜生!火砲が効かなねぇのか!?』
『効いてはいるが数が尋常じゃない!』
『敵ゼノネクロに回り込まれた!』
おっさん達が悲鳴のような声を上げている。
それもその筈、そのエニグマフィアースパイマンティスがおっさん達の陣地に入ってきたのだ!!
うおおおおお!!!!!!!このままじゃ俺も危ない!!!!!!!
って武器がねぇえええええええええええ!!!!!!!
転移魔法で武器が吹っ飛ぶとか聞いた事ねぇぞおおおおおおおおおおおお!!!!
しょうがねぇ!!!
「おいオッサン!!!腰にあるナイフちょっと借りるぞ!!!!」
『は?』
おっさん達の一人の腰には大型ナイフがあり、それを拝借して攻撃を行う。
普通ならブチ殺されても仕方ないが、ブチ殺されそうなのでいいよな?
そんな訳でナイフグサー。
うん、普通の切れ味。火薬式ボウガンを大事にしてる様子から嫌な予感がしたが、杞憂だった。ナイフは普通だった。
そんな訳で陣地に入ってきたエニグマフィアースパイマンティスの頭を細切れにしておく。正直これでも死なない時があるからモンスターは厄介だ。
『お前は!?』
「俺の事はどうでもいい!早く逃げろ!」
『あ、ありがとう』
『こちらゴルフ!未確認の異世界人が救助に入った!恐らくアーリンと同じ異世界人だ!』
「アーリンちゃんを知っているのか!?」
アーリンちゃんの名前に反応する俺。
その瞬間、つんざくような轟音が響く!
『エイブル隊だ!』
『見ろ!アーリンだ!』
おっさん達が指を指す。そこには!なにやらよくわからない鎧を来て大型火薬式ボウガンをぶっ放すアーリンちゃんがいたのだ!!!!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!
アーリンちゃあああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は叫んだ。
その時のアーリンちゃんと来たら!
撃ち終わった金属質のボウガンの殻が飛び散るのもあり、とても幻想的に見えた。
ああ、アーリンちゃん。何故か戦うアーリンちゃん。それでも素晴らしく可愛いアーリンちゃん。
だが、次の瞬間、目が覚める。
「は?」
ここはどこだ、いや、ここは俺の部屋。記憶がない。確か俺は普通に寝ていた筈だ。今は何時だ。
「何故俺がアーリンのストーカーになる夢を見ていた」
この事実を仲間に打ち明けたら何故かあだ名がストーカーゼロになってしまった。
あの夢はなんだったのか。それはもうわからない。
ストーカー・ゼロ テト式 @tetosiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます