37 光のどうくつ

 うしろから、千穂ちほとひなちゃんの足音と、声が聞こえる。

 追いかけてくれてるみたいだ。


 アタシは走りながら、シオンの頭を見た。

 外なのに、島にいる時と同じで、フードはしてないんだけど、いいのだろうか?

 森だし、いいのかな。 


 そんなことを考えながら、黒いマント姿で、アタシの手をとり、走りつづけるシオンを見たり、その視線の先を見たり、足元を見たりした。

 うしろが気になるけど、それはムリだった。


「ドウシタノー?」

「ドコイクノ?」


 どこからか、妖精たちがやってきて、アタシたちの周りを飛び始めた。

 だけど、シオンはムシをする。

 アタシは呼吸をするので、せいいっぱいだ。


 妖精たちは、「ムシダー!」とか、「ツイテイコウッ!」とか、のんきに言って、キャッキャと笑う。


 すずしい、秋の森を走り、やがて、大きな穴が見えたところで、シオンが立ちどまった。

 アタシは、シオンに手をつかまれたまま、ゼエゼエと息をする。


「ダイジョウブか?」

 心配そうなシオンの顔を見て、ふっと、肩の力がぬけた。


「なんで笑うんだよ?」

 ムッとした表情で言うシオン。


 その時。


「ツムギッ!」

「ツムギちゃんっ!」


 千穂とひなちゃんが、追いついてきた。


「ダイジョウブ?」

 ひなちゃんに聞かれて、アタシはコクリとうなずいた。


「うん。なんか、大きな穴があるね。こういうのって、どうくつって、言うんだよね?」

「――うん。どうくつは、見たことがあるんだけど、ここ、はじめてきたかも」

「そうなの? 千穂は?」


 ひなちゃんから千穂に視線を向ける。

 すると千穂が、「うーん、こんなに大きなどうくつは、はじめてかも」と、おしえてくれた。


「そっかぁ」

 アタシがつぶやいた時だった。

 グイッと、シオンに手を引かれて、「わわっ!」と、声を出しながら、アタシは進む。

 シオンが向かう先には、どうくつがある。


「入るの?」

「…………」

「ムシかい」


 言いたくないなら、しょうがない。


 シオンは進む。スタスタ歩く。

 シオンに手をつかまれているアタシも、スタスタ歩く。


 闇色のどうくつが、なんだかこわい。だけど、行くしかないみたいだ。


 キャー、こわいわ。なんて、言う気分ではない。


 体がだるいし、なんかもう、どうにでもなれーって、思ってる自分がいる。


 千穂とひなちゃんがいるしね。

 妖精たちもいるし。


 シオンと2人っきり、じゃないもんね。

 オオカミとか、お肉大好きな動物や、魔獣とか、いないよね?


 シオン、剣、がんばってるらしいけど、今、持ってないし。

 魔法も、うでわがあるから使えないよね。

 妖精たちなら、たたかえる?


 おおっ、どうくつに、入りましたっ!


 あれ? なんか、中に入ってみると、そんなに、暗くないような……。

 しばらく進んだあと、シオンがとまったので、ドキッとしたあと、アタシも歩くのをやめた。


「見ろ」

「見ろって、なにを?」


 そう、たずねたあと、「あっ!」と気づく。


 目が、なれてきたみたいだ。青や緑なんかが見えて、ビックリした。


「うわぁ!」

 ひなちゃんの声。


「すごいね……」

 千穂の声。


「――石? なのかな?」


 どうくつだから。


 そう、思いながらつぶやくと、「ヒカリノドウクツナノー」とか、「イシトネ、キノコガヒカッテルノー」いう、かわいらしい声が聞こえた。妖精だろう。


「光のどうくつ……。キレイ」


 じわじわと、感動してきたアタシがつぶやくと、「すごいだろう」という、シオンの声が聞こえた。

 なので、「すごいね」と返しておいた。


「オッ、オマエにっ――見せたかったんだっ!」

「――えっ?」

「帰るっ!」


 バッと。アタシの手を離し、シオンがかけ出す。


「えっ? 待ってっ! 知らない場所に置いてかないでっ!」

 あわててさけぶと、シオンがピタッと、立ちどまった。


 そのあと、アタシたちが知ってる場所まで、ちゃんとシオンが送ってくれた。

 あとで、よく考えたら、妖精に聞いてもよかったんだけど。


 知ってる場所までの、森の中。

 アタシは、楽しくて、うれしくて、シオン、千穂、ひなちゃんといっしょに、歩きながら、ニヤニヤ、ニヤニヤ、してたんだ。


 シオンはムスッと、してたけど、そんなのは、どうでもよかった。

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