36 文化祭と、秋のお茶会

 11月の、文化祭。

 クラスで、げきをすることになった。


 どんな劇をするか、クラスのみんなで、アイデアを出し合った結果、森の妖精王子と、じゅんすいで、心やさしい、人間のムスメの、恋愛劇をやることになった。


 そして、妖精の王子役は、なぜか、アタシがやることになってしまった。


 マナミが手を上げて、アタシにやってほしいって、言っちゃったんだよね。

 そうしたら、ほかの子たちが、さんせいしてしまったのだから、しょうがない。


 いやだとか言うのは、めんどうだった。

 さっさと決めて、話を進めてほしかったのもある。


 あとで考えたら、セリフが多いのもめんどうだ。

 だけど、劇は、みんなでがんばるものだし、まちがえないように、自分のできることをやるしかないんだ。


 人間のムスメ役は千穂ちほで、ひなちゃんは、その妹A。


 千穂がやるのは、村長のムスメ――セイラだ。


 セイラは長女で、生まれた時から、親の決めた、いいなずけがいる。

 いいなずけというのは、大人になったら、結婚する相手のことだ。


 村長にはムスコがいないから、セイラの結婚相手が、未来の村長になる。

 その予定だった。


 セイラが妖精王子と恋愛をすると、いいなずけの少年と、その親と、しんせきが怒って、セイラと、妖精王子役のじゃまをする。


 まあ、かんたんにせつめいすると、ドタバタラブコメディなんだと思う。


 人間たちと、妖精たちはもちろんセリフがあるけれど、木やキノコや、花や虫や動物なんかもしゃべるし、おどる。

 ミュージカルみたいに。


 アタシ、ミュージカルって、よくわからないけど、たぶん、そんな感じだと思う。


 この劇の妖精って、人間の大きさだから、妖精族でもいいと思うんだ。

 だけど、呼びやすいのか、わかりやすいのか、妖精で決まった。


 劇のタイトルは、『妖精王子、恋をする』だ。


 このタイトルになった時、そのままだなと思った。

 でも、これが一番、わかりやすいし、アタシの中で、大切なのは、セリフをちゃんと、覚えることだ。


 劇のことを、シオンに話してみたら、「なんでオマエが王子なんだ?」と、ふしぎそうな顔で聞いてきた。


「男の子がやるよりも、アタシがやった方がいいと思ったんじゃない? なんかみんな、よろこんでたし。男みたいな顔で、こわがられるのは昔あったけど、今の学校は、なんかみんな、楽しそうに話しかけてきたりするから、男役してもいいかと思えるんだよね。昔だったら、きずついてただろうけど」


「ふーん」


 11月になり、文化祭の日。アタシは劇をがんばった。


 劇が終わったあと、みんな笑顔で、楽しそうだったし、アタシも楽しくできたから、よかったなぁと思った。


 劇を観に、妖精たちがきてるのはすぐにわかった。


 お父さんとお母さんと大家さんも、お父さんと大家さんが目立っていたので、すぐにわかった。


 劇をやっていた時にはわからなかったけど、鈴絵すずえさんと、カオリさんも、きていたらしい。

 シオンとルルカとアイビスは、こなかったようだ。


 シオンとアイビスは、劇をやる時間とか、知ってるのだけど、体育館にシオンたちがきたら、大さわぎだろうし、だからこなかったんだと思う。


 シオンがフードをかぶらずに、島にきているのは、たくさんの人に見られているみたいだけど、外で見るのと、体育館で見るのは、ちがうだろうし。


 その日の夜、家にきたシオンとアイビスに、文化祭の話をたくさんした。



 つぎの日は休みで、アタシは千穂と、ひさしぶりに、異世界に行った。


 ひなちゃんは、鈴絵さんとルルカといっしょに、モンブランを作るんだと言って、はりきっていたから、先にアトリエに行っている。

 アイビスはもちろん、シオンも行くと言っていた。


「――だいぶ、ルルカがにげずに、そばにいてくれるようになったって、シオンが言ってたけど、なにか知ってる?」


 紅葉した、リリリの森を、のんびりと歩きながら、アタシはたずねた。

 すると、千穂はニコリと笑って、答える。


「シオンがおとなしいから、前よりこわくないって言ってたよ。ルルカが」

「そっか。よかった」

「うん」


 安心した気持ちで、木もれ日かがやく、森をながめる。


 あわい光を放つ花や、キノコたち。

 あわく光る花のそばには、ピンク色の髪の、妖精たちがいて、キャッキャと楽しそうに、はしゃいでる。


 楽しい気持ちで、リレイ湖に行き、キレイな湖をながめたあと、アタシたちはアトリエに行った。


 アトリエには、鈴絵さんとアイビスと、人間の姿のルルカと、ひなちゃん、それから、シオンがいた。


 みんなで、モンブランを食べたり、紅茶を飲んだり、修学旅行の話や、文化祭の話をしたりした。


 シオンとルルカは、たまに見つめ合ってたけれど、いつも通り、しずかに食べていた。

 というか、アタシがこのアトリエにきてから、2人はいっしょにいるんだけれど、会話はしてない。

 だけど前よりは、2人のふんいきがやわらかい気がした。


 モンブランも、紅茶もおいしかったし、平和にすごせてしあわせだなー。

 そう思いながら、鈴絵さんにあいさつをしたアタシは、千穂とひなちゃんといっしょに、アトリエを出た。


「海でも見てから帰る?」

 ひなちゃんがそう、聞いた時だった。


「――ツムギッ!」

 シオンがアトリエから出てきて、アタシの前に立った。


「どうしたの?」

 ドキドキしながら、たずねると、「見せたいものがあるんだっ!」とシオンが言って、アタシの手をとり、かけ出した。


「――ちょっ、シオンッ! 待ちなさいよっ!」

 千穂がさけぶ。


「くるなっ!」

 シオンがさけぶと、ひなちゃんが、「やだっ! ねえっ、どこに行くのっ!?」と聞いてきた。


 シオンはムシして走る。アタシも走る。

 シオンの力が思ったよりも強くて、立ちどまったら、こけそうだ。走るしかない。

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