34 絵のタイトルは
その日の夜、ひょっこりと、アイビスが、アタシの部屋にやってきて、たくさん話を聞いてくれた。
「なにをあげたらよろこぶのか、家があるのかわからなくて、おみやげ、買わなかった。ごめんね」
「……家か。城に、部屋はあるが……。オレサマは、自由な存在だからな。好きな場所で寝たりするのだ。おみやげは、気持ちがこもっていれば、なんでもうれしいだろうが……ツムギが元気にもどってきたことが、一番うれしいぞ」
「……ありがとう」
「ウム。それでは、帰るとしよう」
「うん、またね。おやすみなさい」
「おやすみ」
♢
島にもどったつぎの日から、アタシはラジオ体操に行くようになった。
そうしたら2人共、よろこんでくれたのでよかった。
2人といっしょに、カオリさんの家と、
ちょうど、カオリさんの家に、
よかったなと思った。夏森さん、よろこんでくれたし。
お父さんとお母さんが買ってくれたお菓子も、カオリさんと鈴絵さんがよろこんでくれたので、安心した。
あとは絵だ!
そう思ったアタシは、ひさしぶりの砂浜で、千穂とひなちゃんに絵のことをたずねてみた。
「2人は、宿題の絵、描いた?」
アタシがたずねると、ひなちゃんが笑った。
「描いたよ! お盆にねー、ヒマだなーと思って、そうだっ! 絵を描こうっ! って思ったんだっ! しあわせかぁって思って、どうしようかなぁって、考えてたらねー、しあわせのネコを見たのを思い出したんだー! だから、しあわせのネコにしたよっ!」
「そうなんだ。千穂は?」
「私も、お盆に描いたよ。なにを描こうか、悩んでたんだけど、おばあちゃんの笑顔にした。あの髪の色の人って、あまりいないし、目立つかなと思って。あと、いつも見てるから描きやすいし、おばあちゃん、よろこぶだろうと思って。見せたら、よろこんでたよ」
「そっかぁ。よかったねっ」
「うん。ツムギはどうするの?」
「……どうしようかなーって、思ってるんだけど、これが描きたいと思うものが、ないんだよねー。むずかしく考えすぎなのかな?」
「そうだねぇ。旅行の思い出を絵にするとかは?」
千穂に言われて、アタシはまよった。
「……しんせきの家は、ふつうだな。動物園も、水族館も、なんかふつうだし。コンクールに出すための絵だから、考えすぎてるわ。前の学校では、目立ちなくなかったんだけど、なんか今は、目立ちたい気持ちがあるのかも……」
「そっか……まあ、時間はあるし、まだダイジョウブだよ」
「うん……ファンタジーな絵でもいいのかな?」
「なんでもいいと思うよ。テーマは、『しあわせ』だけど、しあわせなんて、人の数だけあるのだし、みんなちがう人間なんだから、だれかにファンタジーとか、ふつうじゃないとか言われても、本人がそれがいいと思ってるなら、それでいいって私は思うよ」
「うん……」
♢
その日の夜、アタシは画用紙に絵を描いた。
急に、画用紙に描きたくなったからだ。
頭では、スケッチブックにでも、描いてからがいいと思ったんだけど、心は、画用紙に今、描きたかった。
アタシが描いたのは、この島の絵だ。
島には、たくさんの自然があり、家があり、ネコ神社がある。
そして、笑顔の妖精たちと、ケットシーの、アイビスがいる。
楽しそうに笑う、鈴絵さんと、千穂と、ひなちゃんがいる。
絵のタイトルは、『妖精たちが笑う島』。
この、ニャハハハ
お母さんが、ビックリするかもしれないけど。
それでも、描いた。描きたかったから。
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