34 絵のタイトルは

 その日の夜、ひょっこりと、アイビスが、アタシの部屋にやってきて、たくさん話を聞いてくれた。


「なにをあげたらよろこぶのか、家があるのかわからなくて、おみやげ、買わなかった。ごめんね」


「……家か。城に、部屋はあるが……。オレサマは、自由な存在だからな。好きな場所で寝たりするのだ。おみやげは、気持ちがこもっていれば、なんでもうれしいだろうが……ツムギが元気にもどってきたことが、一番うれしいぞ」


「……ありがとう」


「ウム。それでは、帰るとしよう」


「うん、またね。おやすみなさい」


「おやすみ」



 島にもどったつぎの日から、アタシはラジオ体操に行くようになった。


 千穂ちほとひなちゃんがうちまできてくれたので、ドキドキしながら2人に、おみやげをわたした。

 そうしたら2人共、よろこんでくれたのでよかった。


 2人といっしょに、カオリさんの家と、鈴絵すずえさんの家にも、おみやげを持って行った。

 ちょうど、カオリさんの家に、夏森なつもりさんがいたので、夏森さんに直接、おみやげをわたすことができた。

 よかったなと思った。夏森さん、よろこんでくれたし。


 お父さんとお母さんが買ってくれたお菓子も、カオリさんと鈴絵さんがよろこんでくれたので、安心した。


 あとは絵だ! 

 そう思ったアタシは、ひさしぶりの砂浜で、千穂とひなちゃんに絵のことをたずねてみた。


「2人は、宿題の絵、描いた?」

 アタシがたずねると、ひなちゃんが笑った。


「描いたよ! お盆にねー、ヒマだなーと思って、そうだっ! 絵を描こうっ! って思ったんだっ! しあわせかぁって思って、どうしようかなぁって、考えてたらねー、しあわせのネコを見たのを思い出したんだー! だから、しあわせのネコにしたよっ!」


「そうなんだ。千穂は?」


「私も、お盆に描いたよ。なにを描こうか、悩んでたんだけど、おばあちゃんの笑顔にした。あの髪の色の人って、あまりいないし、目立つかなと思って。あと、いつも見てるから描きやすいし、おばあちゃん、よろこぶだろうと思って。見せたら、よろこんでたよ」


「そっかぁ。よかったねっ」


「うん。ツムギはどうするの?」


「……どうしようかなーって、思ってるんだけど、これが描きたいと思うものが、ないんだよねー。むずかしく考えすぎなのかな?」


「そうだねぇ。旅行の思い出を絵にするとかは?」


 千穂に言われて、アタシはまよった。


「……しんせきの家は、ふつうだな。動物園も、水族館も、なんかふつうだし。コンクールに出すための絵だから、考えすぎてるわ。前の学校では、目立ちなくなかったんだけど、なんか今は、目立ちたい気持ちがあるのかも……」


「そっか……まあ、時間はあるし、まだダイジョウブだよ」


「うん……ファンタジーな絵でもいいのかな?」


「なんでもいいと思うよ。テーマは、『しあわせ』だけど、しあわせなんて、人の数だけあるのだし、みんなちがう人間なんだから、だれかにファンタジーとか、ふつうじゃないとか言われても、本人がそれがいいと思ってるなら、それでいいって私は思うよ」


「うん……」



 その日の夜、アタシは画用紙に絵を描いた。

 急に、画用紙に描きたくなったからだ。


 頭では、スケッチブックにでも、描いてからがいいと思ったんだけど、心は、画用紙に今、描きたかった。


 アタシが描いたのは、この島の絵だ。

 島には、たくさんの自然があり、家があり、ネコ神社がある。

 そして、笑顔の妖精たちと、ケットシーの、アイビスがいる。


 楽しそうに笑う、鈴絵さんと、千穂と、ひなちゃんがいる。


 絵のタイトルは、『妖精たちが笑う島』。


 この、ニャハハハトウの人にしか、わからないだろうけど。

 お母さんが、ビックリするかもしれないけど。

 それでも、描いた。描きたかったから。

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