31 絵と、パーティーと、夏休み
昼前に、ネコ神社までむかえにきてくれた、マカロン柄、半そでワンピース姿の
傘をさしながら歩いていると、真っ黒なマント姿のシオンが現れた。
フードはかぶってるんだけど、深くはかぶってないので、キレイな顔がよく見える。
つるりとした白い肌。うすい、紫色の目。
イケメンだなぁ。
シゲシゲとかんさつしていると、シオンがほおをふくらませた。
かわいいだけだと思うんだけど。そう言ったら、怒るだろうな。
「おいっ!」
「おい、じゃありませんっ!」
アタシはそう言って、スタスタ歩く。クスクスと笑いながら、いっしょに進んでくれる千穂。
「オマエラッ!」
シオンが追いかけてきたので、アタシたちはアトリエまで、笑いながらにげた。
♢
アトリエの玄関で、マントをぬぎ、黒い服になったシオンと、千穂と共に、みんながいるリビングダイニングに入った。
すると、青色の、花柄半そでワンピース姿の、鈴絵さんが、うれしそうな表情で、若草色のソファーから立ち上がる。
アタシがニコリと笑って、「お誕生日、おめでとうございます」と言うと、「まあ! ありがとう! うれしいわ!」と言って、鈴絵さんがほほ笑んだ。
アタシは空色のショルダーバッグから、1枚のハガキをとり出すと、ドキドキしながら鈴絵さんにさし出した。
「あのっ、これっ、プレゼントですっ! アタシが描いた絵で……」
「まあっ!」
鈴絵さんはおどろいたあと、ハガキを受けとる。じっくりと絵や文をながめたあと、「うれしいわ」と言って、花開くように笑った。
「見たいっ! 見せてっ!」
ひなちゃんの声。
ふり向けば、タッタッタッと足音を立てながら、黄色い花柄の、半そでワンピース姿のひなちゃんがやってきた。
そのうしろから、アイビスと、人間の姿のルルカも近づいてくるのが見える。
アイビスも、ルルカも、いつもと同じ服装だ。
鈴絵さんがいる方に、視線をもどす。
すると、鈴絵さんが持つハガキを、千穂とシオンが、のぞきこんでいるのが見えた。
千穂はニコニコしてるけど、シオンは無表情だ。なにを考えているのか、わからない顔。
アタシがシオンを見つめていたら、シオンに気づかれて、ムッとされた。
怒ってる顔だ。わかりやすい。
「なんだよ? そんな顔で見るな」
「そんな顔って?」
「ニヤニヤしてる」
「ふふふっ」
「笑うなっ!」
「――あっ、ルルカにも持ってきたの、わすれてたっ!」
アタシは急いで、空色のショルダーバッグから、ハガキをとり出した。
そして、ルルカがいる方を向き、ほほ笑んだ。
「今日はルルカのパーティーでもあるって聞いたから、これ、描いたんだ。もらってくれたらうれしいな」
「……ボク、の?」
ふしぎそうな顔のルルカに、アタシはそっと近づいた。
そして、持っていたハガキを見せる。
「うわぁ!」
パアッと、笑顔になるルルカ。
「これっ、いいの? ボクがもらっても」
「うん。いいよ。ルルカのために描いたから」
「ボクのため……あのっ、ツムギっ!」
「なに?」
「あのっ、ありがとう! ボク、うれしい!」
ポロポロと涙を流すルルカを見て、胸の辺りがじわじわと、あたたかくなる。
なんだかアタシまで、泣きそうになった。
♢
鈴絵さんが、シオンのうでわを外したあと、アタシたちは席に着き、食事を始めた。
ナスとトマトのグラタンと、トマトシチュー。
そのあとは、紅茶と、ブルーベリーのチーズケーキ。
どれも、ものすごくおいしくて、しあわせだなって思った。
いろいろあって、わすれてたけど、ルルカが元気ないって言ってたな。
ぼんやりしてるとか千穂から聞いてたけど、アタシがここにきてからは、ぼんやりしているようには見えない。
鈴絵さんを見ているか、食べものや飲みものを見てる。
まあ、それは前からで、ルルカはそんなにしゃべらない。
話しかけられたらしゃべる感じだ。
そんなルルカを、チラチラ見ているのはシオンだ。
不安そうな顔で、チラチラ見てるだけで、ルルカに話しかけたりはしない。
こわいのだろう。きっと。
アタシはそう思った。
この場でよくしゃべるのは、鈴絵さんだけ。
鈴絵さんは大人だし、長く生きてるから、いろいろなことを知っているんだと思う。
「もうすぐ夏休みね。ひなちゃんとツムギちゃんは、どこかに行くのかしら?」
「ワタシはねー、お盆に、おばあちゃんの家に行くんだー!
不満そうな顔でうったえるひなちゃんを見て、あらあらと笑う鈴絵さん。
「アタシは……お盆ごろに、しんせきの家に行くと思います。毎年行くので」
「そうなのね」
鈴絵さんは、ふわっと笑った。
夏休みか……。
春休みに、ニャハハハ
たくさんの出会いがあって、いろいろな気持ちになった。
出会いがアタシを成長させてくれたのだと、今では思う。
楽しみだな。夏休み。
アタシはなにと出会うのだろう?
♢
梅雨明けしたと思ったら、7月21日、夏休みが始まった。
朝、ラジオ体操に行って、帰ってから、数時間経ち、アタシの家に、千穂とひなちゃんがきた。
約束をしていたので、アタシは千穂とひなちゃんといっしょに、夏休みの宿題をした。そして、お昼ごはんを食べたあと、3人で家を出た。
3人共、自由研究のテーマを決めてないので、図書館で、調べてみることになったのだ。
読書感想文の本も決めてないけど、それはそのうち、決まるだろう。
今は自由研究だ! がんばろう!
やる気があふれてくるのは、きっと1人じゃないからだ。
友だちがいるって、しあわせだなと思う。
青い空と、白い雲。セミたちが元気に鳴いている。
暑くて汗が流れるけど、そんなことはどうでもいいんだ。
トートバッグに、水筒を入れてるし。
千穂とひなちゃんも、トートバッグを持っていて、その中に、水筒を入れている。
勉強道具も入ってるけど。
アタシはズボン、千穂はワンピース、ひなちゃんはスカートなんだけど、3人共、ボウシをかぶってる。
「あっ、しあわせのネコだっ!」
ひなちゃんがよろこび、かけ出した。
その先には、真っ白なネコがいる。
にげているので、白いということしかわからない。
「ひなっ! もうっ! 子どもなんだからっ!」
怒ったような顔をしたあと、千穂がかけ出したので、アタシも走る。
「ねえ、千穂」
「ん?」
「しあわせのネコって、なんなの?」
走りながらたずねてみる。すると千穂が笑った。
「オッドアイのネコのことだよ。この島に、1匹だけいるんだっ! ユキっていうの。あっ、オッドアイって知ってる?」
「うん! 右と左の目の色がちがうんだよね? 島にきて、大家さんにあいさつ行く時だったと思うけど、一度だけ見たよ。あのあと、いろいろあったけど、たしかに、しあわせのネコかもしれないね」
「うん! 見ると、いいことあるって、ウワサだよっ!」
「そうなんだねっ! ひなちゃん、足速いなぁ。暑いから、あまり本気で走らない方がいいと思うんだけど……」
「塩が入ってるアメ、持ってるよ」
「塩分、大事だよねー」
「うんっ!」
なんて、千穂としゃべりながら走る。風を感じるし、なんだか楽しい。
ここ、知らない道なんだけど、ダイジョウブだろうか。
そう思う自分もいるけど、3人いるんだし、さがせば、妖精だっているだろうし、どうにかなるはずだ。
はじめての道。知らない家。にげるネコと、追うアタシたち。
ワクワク、ドキドキした。
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