30 プレゼントの絵
アタシたちが帰ろうとした時。
なのでアタシは「行きます」と、笑顔で答えた。
そのあと、鈴絵さんに、「プレゼントはいらないからね」って、言われたんだけど、絵をプレゼントしたいなとアタシは思った。
のだけれど。
鈴絵さんに絵をプレゼントして、いっしょにお祝いをするらしい、ルルカに、なにもあげないのはさびしいんじゃないかな。
アタシはそう思い、帰るとちゅう――リリリの森で、
すると、千穂がニコリと笑って、口を開く。
「いいと思うよ。私とひなとルルカはいつも、ケーキ作りや、料理をするのを手伝うんだけど、ツムギはツムギの、やりたいことをしたらいいと思うの」
「うん……ねえ、鈴絵さんとルルカって、なにが好きなのかな? どんな絵だと、よろこぶんだろう?」
「どんな絵か……うーん。おばあちゃんはね、ツムギがおばあちゃんのために描いた絵なら、よろこぶと思う。ルルカは……絵本が好きだよ。あと、詩集もよく読んでるよ」
「詩が好きなんだね。詩は授業で書いたことあるけど、よくわからなかったなぁ」
「あとは……自然や動物の写真集や、絵も、好きで、地球の動物ズカンとかも読んでるよ」
「そうなんだ。おしえてくれてありがとう」
アタシがお礼をつたえると、千穂はニッコリ笑った。
色紙を買って、家に帰ったアタシは、桜色のスケッチブックにいろいろ描いてみたんだけど、これだと思う絵はなかった。
お風呂に入りながら、絵のことを考えてたら、色紙は大きくて、じゃまになるような気がした。
アトリエや鈴絵さんの家には、絵がたくさんあるし、大きな絵を増やすのもなと思ったアタシは、明日、ハガキを買おうと決めた。
そして、一度家に帰って、ランドセルを置いたあと、ハガキを買いに行ったアタシが、雨の中、傘をさして歩いている時だった。
ふっと、鈴絵さんが、ヒマワリの花束を持って、ほほ笑む姿が浮かんだので、家に帰って、その絵をハガキに描いてみた。色えんぴつで。
これでよしって思ったので、メッセージも書いた。今まで、たくさんやさしくしてくれた鈴絵さんに、カンシャの気持ちをこめて。
数日経っても、ルルカにあげる予定の絵が決まらなかった。まだ時間があると思うアタシと、早く決めなきゃとあせるアタシが心の中にいた。
雨はきらいじゃないけれど、毎日だからか、空気がすごい、ジメッとする。
そのせいか、最近、あまり寝られない。
黒い人や、黒い馬に、追いかけられる夢を見たりした。
悩みすぎだと思うのだけど、悩まないということはむずかしかった。
学校で、ぼんやりとしていたら、クラスの子たちが心配してくれた。
学校から帰る時に、千穂とひなちゃんには、ルルカにあげる絵が決まらないと話した。
そうしたら、「そういうことってあるよねー!」と、ひなちゃんがニコニコ笑ってた。
千穂は、「そうだね。悩める時間があることは、しあわせなことだって、おばあちゃんなら言うだろうけど、悩んでいる時は不安だよね」と言っていた。
最近、部屋の、青色のバラも、なんだか元気がない。
心配していたら、7月1日の夜、バラの花びらが落ちてしまった。
ショックを感じたあと、ポロポロと熱い涙が流れた。
泣いていたら、青いバラの茎も花びらも、すべて消えてしまって、アタシはよけいに悲しくなった。
泣きやんだアタシがイスに座り、ぼんやりとしていると、いつの間にか、アイビスがいた。
アイビスが、「どうした? 悩みか?」と、たずねてくれたので、アタシは花が散って消えたことを話した。すると、アイビスは「そうか」とつぶやいた。
アタシは、ルルカにプレゼントしたい絵が決まらないことも話してみた。
すると、アイビスは、「絵か……悩むことも青春だが。できるだけ楽な気持ちで、好きなことをしているとな、よいアイデアが生まれることもあるそうだぞ」とおしえてくれた。
「好きなことか……でも今は、なにも描きたくないな。図書館にでも行ってみようかな」
「ウム。それもいいな」
♢
アタシはつぎの日の放課後、1人で図書館に行ってみた。
そして、いろいろな本を借りて、部屋で読んだ。読書を楽しんでから、寝ようとした時だった。
ふっと、桃色のユニコーンが浮かんだ。ルルカと同じ、金色の角と目だ。
これだっ!
アタシはうれしい気持ちになって、ニヤニヤしながら、ハガキを出した。
それからハガキに、桃色のユニコーンを描いた。色えんぴつで。
藍色のユニコーン――ルルカも、いっしょに描く。
ユニコーンはルルカだけで、きっとさびしいと思うんだ。
鈴絵さんがいても、さびしい時があるかもしれない。悲しくて、こどくな気持ちになることも、あるかもしれない。
そう思ったら、ポロポロと涙が流れた。
アタシは、ルルカのしあわせを、ねがったあと、ハガキにメッセージを書いた。
出会ってくれてありがとうの気持ちと、これからもよろしくねの気持ちをこめて。
つぎの日。
雨の中、学校から帰る時。
アタシは、千穂とひなちゃんに、ルルカにあげる絵が描けたことを話した。
そうしたら、自分のことのようによろこんでくれたので、うれしかった。
ふと気になって、ルルカはどうしているか、たずねてみた。
すると、千穂がすこししてから、口を開いた。
「ルルカはねぇ、私の誕生日パーティーがあった日から、あまり元気がないんだ……。私がアトリエにいる時も、ぼんやりしてることが多いし、おばあちゃんに聞いたら、あの日から、よく外を、ぼんやり見てるって、言ってたんだ……」
「そっかぁ。シオンに好きだと言われて、おどろいてるなとは思ってたけど……気になるのかな? シオン、ツンデレっていうか、ルルカのことが好きで、こっそり見に行くのに、バレると、いじわるなことを言って、泣かせてたみたいだし……」
「よく覚えてるねー」
ひなちゃんが、ニコッと笑って言ったので、アタシも笑って、うなずいた。
「うん!」
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