30 プレゼントの絵

 アタシたちが帰ろうとした時。


 鈴絵すずえさんが「そうだわっ!」と、思い出したようにポンと手をたたき、「7月の誕生日のあとの休みの日に、ここでパーティーをするからきてほしいの」と、さそわれた。

 なのでアタシは「行きます」と、笑顔で答えた。


 そのあと、鈴絵さんに、「プレゼントはいらないからね」って、言われたんだけど、絵をプレゼントしたいなとアタシは思った。


 のだけれど。


 鈴絵さんに絵をプレゼントして、いっしょにお祝いをするらしい、ルルカに、なにもあげないのはさびしいんじゃないかな。


 アタシはそう思い、帰るとちゅう――リリリの森で、千穂ちほとひなちゃんに、自分の気持ちを話してみた。


 すると、千穂がニコリと笑って、口を開く。


「いいと思うよ。私とひなとルルカはいつも、ケーキ作りや、料理をするのを手伝うんだけど、ツムギはツムギの、やりたいことをしたらいいと思うの」


「うん……ねえ、鈴絵さんとルルカって、なにが好きなのかな? どんな絵だと、よろこぶんだろう?」


「どんな絵か……うーん。おばあちゃんはね、ツムギがおばあちゃんのために描いた絵なら、よろこぶと思う。ルルカは……絵本が好きだよ。あと、詩集もよく読んでるよ」


「詩が好きなんだね。詩は授業で書いたことあるけど、よくわからなかったなぁ」


「あとは……自然や動物の写真集や、絵も、好きで、地球の動物ズカンとかも読んでるよ」


「そうなんだ。おしえてくれてありがとう」


 アタシがお礼をつたえると、千穂はニッコリ笑った。


 色紙を買って、家に帰ったアタシは、桜色のスケッチブックにいろいろ描いてみたんだけど、これだと思う絵はなかった。


 お風呂に入りながら、絵のことを考えてたら、色紙は大きくて、じゃまになるような気がした。

 アトリエや鈴絵さんの家には、絵がたくさんあるし、大きな絵を増やすのもなと思ったアタシは、明日、ハガキを買おうと決めた。


 そして、一度家に帰って、ランドセルを置いたあと、ハガキを買いに行ったアタシが、雨の中、傘をさして歩いている時だった。


 ふっと、鈴絵さんが、ヒマワリの花束を持って、ほほ笑む姿が浮かんだので、家に帰って、その絵をハガキに描いてみた。色えんぴつで。


 これでよしって思ったので、メッセージも書いた。今まで、たくさんやさしくしてくれた鈴絵さんに、カンシャの気持ちをこめて。


 数日経っても、ルルカにあげる予定の絵が決まらなかった。まだ時間があると思うアタシと、早く決めなきゃとあせるアタシが心の中にいた。


 雨はきらいじゃないけれど、毎日だからか、空気がすごい、ジメッとする。

 そのせいか、最近、あまり寝られない。

 黒い人や、黒い馬に、追いかけられる夢を見たりした。

 悩みすぎだと思うのだけど、悩まないということはむずかしかった。


 学校で、ぼんやりとしていたら、クラスの子たちが心配してくれた。

 学校から帰る時に、千穂とひなちゃんには、ルルカにあげる絵が決まらないと話した。

 そうしたら、「そういうことってあるよねー!」と、ひなちゃんがニコニコ笑ってた。


 千穂は、「そうだね。悩める時間があることは、しあわせなことだって、おばあちゃんなら言うだろうけど、悩んでいる時は不安だよね」と言っていた。


 最近、部屋の、青色のバラも、なんだか元気がない。

 心配していたら、7月1日の夜、バラの花びらが落ちてしまった。

 ショックを感じたあと、ポロポロと熱い涙が流れた。


 泣いていたら、青いバラの茎も花びらも、すべて消えてしまって、アタシはよけいに悲しくなった。


 泣きやんだアタシがイスに座り、ぼんやりとしていると、いつの間にか、アイビスがいた。

 アイビスが、「どうした? 悩みか?」と、たずねてくれたので、アタシは花が散って消えたことを話した。すると、アイビスは「そうか」とつぶやいた。


 アタシは、ルルカにプレゼントしたい絵が決まらないことも話してみた。

 すると、アイビスは、「絵か……悩むことも青春だが。できるだけ楽な気持ちで、好きなことをしているとな、よいアイデアが生まれることもあるそうだぞ」とおしえてくれた。


「好きなことか……でも今は、なにも描きたくないな。図書館にでも行ってみようかな」

「ウム。それもいいな」



 アタシはつぎの日の放課後、1人で図書館に行ってみた。

 そして、いろいろな本を借りて、部屋で読んだ。読書を楽しんでから、寝ようとした時だった。


 ふっと、桃色のユニコーンが浮かんだ。ルルカと同じ、金色の角と目だ。


 これだっ!

 アタシはうれしい気持ちになって、ニヤニヤしながら、ハガキを出した。

 それからハガキに、桃色のユニコーンを描いた。色えんぴつで。


 藍色のユニコーン――ルルカも、いっしょに描く。

 ユニコーンはルルカだけで、きっとさびしいと思うんだ。

 鈴絵さんがいても、さびしい時があるかもしれない。悲しくて、こどくな気持ちになることも、あるかもしれない。


 そう思ったら、ポロポロと涙が流れた。

 アタシは、ルルカのしあわせを、ねがったあと、ハガキにメッセージを書いた。

 出会ってくれてありがとうの気持ちと、これからもよろしくねの気持ちをこめて。


 つぎの日。

 雨の中、学校から帰る時。


 アタシは、千穂とひなちゃんに、ルルカにあげる絵が描けたことを話した。

 そうしたら、自分のことのようによろこんでくれたので、うれしかった。


 ふと気になって、ルルカはどうしているか、たずねてみた。

 すると、千穂がすこししてから、口を開いた。


「ルルカはねぇ、私の誕生日パーティーがあった日から、あまり元気がないんだ……。私がアトリエにいる時も、ぼんやりしてることが多いし、おばあちゃんに聞いたら、あの日から、よく外を、ぼんやり見てるって、言ってたんだ……」


「そっかぁ。シオンに好きだと言われて、おどろいてるなとは思ってたけど……気になるのかな? シオン、ツンデレっていうか、ルルカのことが好きで、こっそり見に行くのに、バレると、いじわるなことを言って、泣かせてたみたいだし……」


「よく覚えてるねー」


 ひなちゃんが、ニコッと笑って言ったので、アタシも笑って、うなずいた。


「うん!」

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