29 千穂の誕生日パーティー

「おいっ!」

「おいじゃなくて、ツムギです!」


 オレサマなアイビスよりも、オレサマな感じでアタシを呼ぶシオン王子に、そう言うと、シオン王子が泣きそうな顔になる。


 王子さまをいじめるとか、ダメじゃん。

 って、思いながら、アタシは口を開いた。


「シオン王子は、なにをしにきたのですか?」


「――おっ、俺はっ、きたくてきたんじゃないっ!」


「じゃあ、お帰りください」


「ちっ、ちがっ! あのっ!」


「わかりやすい言葉で、おねがいします」


「ウウッ。おっ、俺っ、はっ、妖精たち、にっ、言われたんだっ! 行けと、ウルサイから……俺がっ、わざわざここにっ、きてやったんだっ! カンシャしろっ!」


「わざわざ、ここにきてくださって、ありがとうございます。それで、アタシたち、今から、千穂の誕生日パーティーに行くんです。すぐに行かないといけなくて。ここで、ゆっくりお話しているヒマはないのですが」


「……おっ、俺は、王子だが、オッ、オマエの絵を、気に入ってるんだ。あのっ、アジサイと、俺と、ルルカの絵が、1番好きだ。だからっ、オマエには、シオン王子じゃなくて、シオンと呼ばせてやるっ!」


「そうですか。それは、ありがとうございます」


「ていねいすぎて、気持ちわるい」


「……じゃあ、ふつうに話すね。あのさ、シオンの髪と目の色、この世界では、めずらしいかもしれないけど、キレイな色だと思うし、アタシは好きだよ」


「――えっ?」


「好きだから、描いたんだよ。あの絵が浮かんで、描きたかったのもあるけど。好きじゃないと、描いたりはしないから」


「――オマエッ! 男に、好きとか言うなっ!」


「べつにいいじゃん。ふつうに話せって言ったから、思ったことを、ふつうに話しただけだし。ちゃんと気持ちを言わないと、つたわらないと思って、言っただけだよ。じゃあ、アタシたち、もう行くから」


 そう言って、アタシはチラッと千穂を見た。千穂が小さくうなずき、歩き出す。

 アタシもゆっくりと、アトリエに向かって歩き出した。


「おいっ! 待てよっ!」


 追いかけてきたので、アタシと千穂は、アトリエまで走った。

 走っていると、なんだか楽しくなってきて、笑ってしまった。


 鈴絵すずえさんのアトリエにたどり着くと、バラの花が元気だった。


 庭のバラをながめていたら、「早く行くぞ」と、声がした。

 ふり返れば、シオンがいる。


「あれ? 千穂は?」

「中に入った」

「あらら」


 のんびりしてる場合じゃなかった。みんな、待ってるよね。


 急いで、アトリエの中に入ると、あわい黄色の、半そでワンピース姿のひなちゃんが、ろうかを走って、こっちにくるのが見えた。


「ツムギちゃんだぁ! 窓から見えてたけど、そのワンピースかわいいねー!」

「ありがとう。ひなちゃんもかわいいよ」

「ありがとう! みんな待ってるよ!」


 そう言って、ひなちゃんは、玄関のカギをかけた。


 ひなちゃん、アタシ、シオンの順番で、リビングダイニングに入る。

 すると、赤紫色の花柄の、長そでワンピースを着た鈴絵さんが、「いらっしゃい」とほほ笑んだ。


 うれしい気持ちがあふれ出し、アタシは笑顔で、「こんにちは」とあいさつをした。


 視線を動かすと、木のイスに座る、アイビスと目が合った。

 アイビスは、いつもと同じ、深緑色の、貴族みたいな服を着ている。


 木の、大きなテーブルの上には、大きなケーキ。

 ティーカップや、お皿なんかも置いてある。


「オレサマは腹がへった」

「ごめんね。おそくなって」


 あやまりながら、視線を動かす。

 人間の姿のルルカと、千穂も、木のイスに座ってる。


 ルルカも、アイビスと同じく、前と同じ服装だ。

 桜色の半そでの服を着ていて、藍色の半ズボンをはいている。


「じゃあ、食べましょうか。ツムギちゃんとシオンも、レモンティーでいいかしら?」


 鈴絵さんにたずねられて、アタシは「はい」と返事をした。

 つづいて、シオンが、「それでいい」とボソッと言う。


 鈴絵さんがシオンに、マントをぬぐよう言うと、シオンはすぐにマントをぬいだ。 

 マントの下は、黒い服。


 鈴絵さんが、シオンのうでにはめられた、銀色のうでわにふれる。

 銀色のうでわはポワッと光り、魔法みたいに大きくなった。魔法だろうけど。


 大きくなったうでわを、鈴絵さんが外す。

 それを見たあと、アタシは、鈴絵さんに言ってから、空色のショルダーバッグをソファーに置いた。


 アタシたちは席に着き、レモンケーキを食べたり、レモンティーを飲んだりした。

 レモンケーキは、しっとりとして、レモンの香りがふわっとして、おいしかった。


 食べたり飲んだりしている間、シオンはチラチラ、ルルカを見ていた。


 ルルカは全く、シオンがいる方を見ようとしない。

 だけどシオンが、とてもしずかにしているせいか、ルルカは落ちついて、食べたり飲んだり、できているように見えた。


 そんな2人を、ニコニコしながら見つめる鈴絵さん。


 鈴絵さんは、ルルカのことをおしえてくれた。

 ルルカは自分の誕生日が、わからないのだそうだ。


 ユニコーンには、誕生日を祝うシュウカンが、なかったので、自分が何才なのか、わからないらしい。

 あたたかい日に生まれたというのは、家族から聞いていたようだ。

 鈴絵さんとルルカが出会ったのが、夏なので、夏生まれの鈴絵さんといっしょに、祝っているのだそうだ。


 鈴絵さんは7月7日生まれなので、来月が誕生日らしい。

 絵をプレゼントしたいなと、アタシは思った。


 シオンは12月1日生まれで、アイビスは2月14日、バレンタインデーが誕生日なのだそうだ。


 なごやかなパーティーが終わり、アタシたちは帰るじゅんびをした。

 シオンもいっしょに出るらしい。


 シオンは、鈴絵さんにうでわをはめてもらって、マント姿になると、人間の姿になったままでいたルルカに、ゆっくりと近づいた。

 ルルカは、目を見開きはしたけれど、動かなかった。

 いや、ビックリして、動けないかのうせいもあるか。


 ドキドキしながら見ていたら、シオンがルルカの前で立ちどまり、口を開いた。


「――あのっ、俺っ、つたわってないかもしれないけど、ルルカのこと、好きだからっ! ここにいる、みんなのことも、好きだけどなっ!」


 いきなり告白をしたシオンが、真っ赤な顔のまま、ドアの方を向き、かけ出した。

 ドアを開けて、ろうかに出ても、まだ走ってるのが、足音でわかった。

 そして、玄関だろう。ドアの音がした。


 チラッと、ルルカを見ると、きょとんとした顔で、シオンが走って行った方を見ていた。


「告白してにげたねー! みんなのことも好きだって!」

 ひなちゃんがそう言って、ケラケラ笑う。


 千穂が「よかったね」と言って、クスクス笑うので、アタシも、「めでたしめでたし?」と言って、笑った。


「ほんと、おめでたいわね」

 鈴絵さんもうれしそうだ。


 しあわせだなぁと、アタシは思った。

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