27 お茶会、梅雨入り、運動会

 お茶会が始まった。

 飲みものもお菓子も、いろいろあって、とてもまよう。


 ジュースもあったんだけど、アタシはローズヒップティーにした。

 テレビで女の人が、ゆうがに飲んでいて、いいなと思ってたんだよね。


 お菓子はさいしょ、コロンとした、小さなマカロンとか、動物の形をしたクッキーとか、食べていた。

 シュークリームもおいしそうだし、いろいろな果物の、ケーキやタルトもおいしそうで、食べたくなった。ワッフルやマフィンもある。


 王さまが、えんりょせず、食べるよう、言ってくれたので、おいしそうと思うお菓子を、どんどん食べることにした。


 だれかがおしえたのか、異世界なのに、よく知ってる飲みものや、お菓子が多い。  

 知らないやつも、もちろんあるけど。


 わからないことは周りに聞きながら、アタシはお茶会を楽しんだ。


 王さまは、アタシたちが食べたり飲んだりするのを、楽しそうにながめながら、王国のすてきなところとか、もう1人のムスコさん――第1王子のことをおしえてくれた。


 第1王子は成人していて、結婚したばかりなのだそうだ。


 あと、王妃さまのどんなところが好きかとか、おしえてくれた。

 王さまが話し出してから、どこからか、6人の妖精たちが現れて、ニコニコしながら聞いていた。


 王さまが話している間、アイビスは、飲みものとお菓子に夢中で、鈴絵すずえさんと千穂ちほとひなちゃんとアタシは、食べたり飲んだりしながら、王さまの話を聞いていた。


 そして、王さまのとなりに座るシオン王子は、不満そうな表情で、食べたり飲んだりしてた。


 みんながお腹いっぱいになったころ。


 突然思い出したように、王さまが、「そうだっ! ツムギの絵の感想を、つたえねばっ!」と、言い出した。


 そして、アタシの絵を見た感想を、語り出して、アタシはものすごく、はずかしくなった。

 みんなが見てる前で、アタシの絵について、熱く語るのはやめてほしい。


 そう、思っていた時だった。


 ダンッと、音がして、食器がゆれた。


 アタシは、ビックリして、視線を動かす。


 こっちをにらむ、シオン王子と、目が合った。


 シオン王子は、テーブルに手をついたまま、口を開く。


「――俺だって、今はオマエと同じぐらいだけど、もっと成長して、オマエを見下ろすぐらい、背が高くなるんだからなっ! 俺は、父さまみたいな、強くてリッパな男になるんだっ! 勉強だって、剣だって、がんばってるし、俺だって、俺だって、すごいんだっ! オマエになんか、負けねぇんだからなっ!」


「えっ? あっ、うん。そうなんだ……。がんばってるんだね! えっと、アタシ、あなたに勝ちたいとか、思ってないんだけど……」


「ウソだっ! ニャハハハトウにきたばかりって、聞いてたのに、人にも、妖精にも、アイビスやルルカにまで……好かれやがって! おまけに、父さまにまで……」


 くしゃりと顔をゆがめるシオン。泣きそうだ。


 どうしようっ! そう思いながら、アタシは口を開く。


「大好きな人がいて、とられたくないって気持ちがあるんだね。でも、アタシ、シオン王子の大切な人たちを、うばおうとは思ってないよ?」


「ウソだ!! ウソだウソだウソだっ!!」


 泣きさけんだあと、シオン王子はかけ出した。

 そして、「開けろ!」と言いながら、トビラをドンドンたたく。


 手、ダイジョウブかな? 痛いと思うんだけど。


「開けてやれ」

 と、王さまが言い、シツジさんが鈴を鳴らす。


 すると、すこししてトビラが開いた。


 なにも言わず、部屋から出て行くシオン王子。


 そのあとを、「シオンガニゲター!」とか、「トウソウダー!」とか、さわぎながら、3人の妖精たちが、追いかける。


 なんか、わるいことをしたような気持ちになったアタシは、すこしうつむき、「泣かせちゃった」とつぶやいた。


 すると、「ワタシの時も、さいしょはあんな感じだったよ。だからダイジョウブ。お菓子を作って、プレゼントしてたら、すこしずつ、なれてくれたよ。シオンはね、気持ちの整理に、時間がかかるタイプなんだと思う」という、ひなちゃんの声が聞こえた。


 となりに座るひなちゃんを見ると、ひなちゃんがニパッと笑う。


「そうかな? なら、いいんだけど……」


 アタシがつぶやくと、アイビスが口を開いた。


「シオンは魔力が多いせいか、気持ちのコントロールが、苦手なのだ。まだ子どもだし、小さな体ではつらいだろうな」


 アタシと同じぐらいだし、小さいとは思わないけど、子どもなのはたしかだ。

 アタシは、開いたままのトビラに視線を向けたあと、ひなちゃんを見た。


「アイビスやルルカにまで、好かれやがってって、言ってたけど、シオン王子って、ルルカのことが好きなんだね。ルルカは、シオン王子がこわいみたいだけど」


「うん、シオンはね、ルルカのことが大好きなんだ。時々、こっそりと、見てるみたいだし。ね?」


 ひなちゃんがそう言って、のこっていた妖精たちに話しかける。


「ミテル! ミテル! バレルト、マッカナカオニナルンダー! オレハ、オマエナンカミテナインダカラナッテイッテ、ルルカヲナカセルノ」


「ツンデレか?」


 アタシが言うと、ひなちゃんと千穂が、クスクス笑った。



 ゴールデンウィークが終わった。


 アタシのスケッチブックがなくなったあと、アイビスと、ネコと、犬が、遠ぼえしたため、学校の子たちも、いろいろと知ってるようだった。


 なんかみんなに、「大変だったね」と、声をかけられて、「うん」と答えた。


 でも、あのことがあったから、馬車に乗ったり、ドラゴンを見たりできたし、おいしいお菓子もいっぱい食べることができたんだ。

 家にもどったあとは、桜色のスケッチブックに絵を描いて、楽しかったし。


 物語でも、そうだけど、わるいだけのことなんてなくて、しあわせなこともあるんだなって、家に帰ったあと、そう思った。


 学校で話しかけてくれた子たちと、王国の話をしたんだけれど、異世界ファンタジー小説や、マンガやアニメが、好きな子はわりといる。

 だけど、自分の足で、異世界に行きたい子はあまり、いないようだった。


 1回行って、それで満足だと言う子もいて、いろいろな子がいるんだなと思った。


 5月が終わり、6月になると、梅雨入りした。

 だけど、運動会の日は、朝から晴れた。


 6月になってから、運動会が楽しみとか、ぜったい行くからねって、大家さんがウキウキだったから、くるのは知っていた。

 アタシのお父さんとお母さんと、いっしょにくるとは、思わなかったけど。


 大家さん、半そでの、ヒョウ柄のワンピース姿で、ヒョウ耳のカチューシャを頭につけてた。

 金色のセンスの、表とうらに、黒字で、『ツムギちゃん最高!』って書いてたし、ものすごい大声で、オウエンをしてくれるから、はずかしくて、近づきたくないなと思った。


 いっしょにお弁当、食べたけど。


 大家さん手作りの『ネコ科キャラ弁』、トラとかライオンとか、ヒョウとかネコとかで、ビックリした。

 味は、おいしかったけど。


 もちろん、お母さんが作ってくれたお弁当も、おいしかった。


 前の学校では、運動会がきらいだった。

 だけど、今は、心からオウエンしてくれる人が、たくさんいる。

 はずかしい気持ちもあったけど、オウエンしてくれる人がたくさんいるから、がんばろうって思えたんだ。


 鈴絵さんと、妖精たちも、オウエンしてくれてたし、千穂とひなちゃんの両親や、しんせきの人たちもきてた。


 アイビスは、小さな子たちにつかまって、もみくちゃにされるのがいやだと言って、こなかった。


 なんだかさわがしいなって、思っていたら、離れた場所に、フードをかぶった、黒いマント姿の子がいた。

 その人の周りには、妖精たち。


 子どもだよね? シオン王子だよね? 


 そう思いながら、アタシは近くにいた千穂と、ひなちゃんに視線を向ける。

 すると、2人共、うなずいてたし、アタシの周りにいた妖精たちも、「シオンダー!」とさけんで、黒いマント姿の子に向かって、飛んで行ったから。


 妖精が見える子たちは、「シオン?」って、ふしぎな顔の子もいれば、「王子さまだっけ? あまり人に見られたくない、第2王子」ってつぶやく子もいた。


 何人かの、大人が、黒王子、いや、シオン王子に近づいたんだけど、シオン王子はにげ出した。

 だけど、しばらくするとまた現れた。

 なにやってるのかなって、アタシは思った。


 大家さんと、お父さんは、妖精が見える子どもたちに話しかけて、ものすごく楽しそうだったんだけど、シオン王子が現れたことで大はしゃぎだった。

 大家さんも、お父さんも、シオン王子のことは知らなかったようだ。


 運動会が終わってから、こっそり千穂から聞いた話では、シオン王子は、ニャハハハ島にきたことがあるようだ。

 でも、今までは夜だけで、明るい時間は、はじめてらしい。


 気になって、「なんのために、夜にきてたの?」って、小さな声でたずねれば、千穂は、「夜だと目立たないからね」と言ったあと、「さびしいのかも」と、つぶやいていた。

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