26 馬車に乗って、お城に

 昼の1時。

 ネコ神社に行くと、ひなちゃんと千穂ちほがいた。


「ツムギー! おはよー! あっ、こんにちはだったっ! 昨日は大変だったねぇ!」


 太陽のような笑顔で、ブンブン手をふるひなちゃん。

 そのとなりで、クスクス笑ったあと、小さく手をふる千穂。


 アタシは笑顔で、「こんにちは! うんっ! 心配かけたねっ! ごめんっ! いろいろあったけど、今は元気だよっ!」とさけんで、手をふった。


 ひなちゃんは昨日と同じで、あわい黄色のボウシをかぶっている。

 千穂も、昨日と同じ、赤いボウシだ。

 アタシも昨日と同じ、白いボウシ。


 千穂の髪型は、昨日とちがって、1つにむすんでる。

 ひなちゃんは、オレンジ色の、長そでワンピース姿。

 千穂は、赤紫色の、長そでワンピースを着ている。


「ひなちゃんも千穂もかわいい……」

 アタシがポツリとつぶやけば、2人が声を合わせて笑う。


 それから、「ありがとう。ツムギもかわいいよ」とほめてくれた。

 なので、「ありがとう」とお礼を言う。


 お城に行くのに、どの服で行くか、すごい悩んで決めたんだけど、決めたあとも、こんなカッコウでいいのかな? って、不安だった。

 だから、アタシはちょっぴり安心した。


 アタシが今日着てきたのは、誕生日のあと買ったやつだ。

 あわい緑色の、長そでの服と、大人っぽいピンクのズボン。


 アタシたちは、ネコ神社の池から、エフィーリーリア王国の、ふしぎな泉に転移した。

 千穂がくれたアメをなめながら、リリリの森を歩いていると、ひなちゃんが、妖精のことをおしえてくれた。


 光る花が咲く時に、たまに妖精が生まれるのだそうだ。

 それと、妖精は小さいので、長い距離を転移することができないらしい。


 異世界には、泉や池の力を使って、かんたんに転移できるけど、同じ世界だと力をたくさん使ってつかれるので、あまりしないようだ。


 アタシのスケッチブックをぬすんだ妖精たちも、短い距離を転移したり、飛んだり、休んだりしながら、移動したらしい。


 アタシたちはアトリエに着いた。

 そして、るり色の長そでワンピース姿の、鈴絵すずえさんと、アイビスといっしょに、森の外に向かう。

 馬車がむかえにきてくれるらしい。


 アタシは鈴絵さんに、「昨日は、心配をかけてごめんなさい。あの、新しいスケッチブック、ありがとうございました!」って、お礼をつたえた。


 すると、鈴絵さんは、ニコニコしながら、「ツムギちゃんは、あやまらなくてもいいのよ。なにもわるいことを、していないのだから。最近、かわいいスケッチブックが多いから、あたし、たくさん持ってるの。桜色もすてきでしょう」と、言った。


 ルルカはシオン王子に会いたくないのと、お城はキンチョウするという理由で、おるすばんだ。


 アタシもお城は、キンチョウする。

 だって、知らない人がたくさんいるだろうし。

 お城のえらい人たちが、たくさんいるかもしれないから、なんかこわいなって思うんだ。


 だけど、1人じゃないし、王さまが、会いたいって言ってくれてるのに、行きませんとは言えないし。

 それに、お城の中って、一度ぐらいは見てみたいなって思うから。


 ローズガーデンや、ドラゴンがいるトウの中も、見せてくれるというのなら、行ってみたいって思うんだ。


 シオン王子はアタシを見て、怒るかもしれないけど、お城なら、魔力ボウソウしないだろうしね。


 アタシ、あの子のこと、きらいじゃないんだ。

 にらまれたし、なんか、きらわれてるみたいだけど。アタシの絵を気に入ってくれたのは、うれしかったから。


 自分が描いた絵を、好きだと思ってくれる人がいるということは、とてもしあわせなことだと思うから。


 アタシは、アイビスと鈴絵さんと、千穂とひなちゃんと共に、むかえにきてくれた馬車に、乗りこんだ。


 馬車に乗っていると、お姫さまみたいな気分になった。

 お城に着いて、楽しい気分で、馬車から降りる。


 近くには、ローズガーデンがあり、色とりどりのバラの花が咲いていた。


 ほのかに光る、たくさんのバラの花。

 その近くには、楽しそうな妖精たち。


 妖精たちは、キャイキャイさわいで、アタシたちをカンゲイしてくれた。

 そんなにぎやかな妖精たちに囲まれながら、アタシたちはバラを見るのを、楽しんだ。


 そして、大きくて高いトウに行き、たくさんのドラゴンを見た。

 赤、青、オレンジ、水色、黒、灰色、赤紫、緑、黄緑色、桃色など、たくさんの色のドラゴンがいて、楽しかった。


 親と、子どもがいるトウに行ったんだけど、たくさんの小さなドラゴンがいて、かわいかった。

 小さいドラゴンたちは、「キャウキャウ」とか、「キュウキュウ」とか、甘えてくれた。


 大人のドラゴンだけのトウや、たまごを育てているドラゴンたちのトウも、あるんだって。

 そこには行ってないけど、小さいドラゴンたちを見たから、満足だ。


 鳴くのではなく、言葉をしゃべるドラゴンもいたけど、子どもたちがしゃべるのは、単語だった。

 大人になれば、もっとしゃべれるようになるらしい。


 そのあと、時間になったので、アタシたちはお城に入った。

 お城のろうかは、とっても広くて、赤い、じゅうたんがしいてある。


 アイビスと鈴絵さんのうしろを、アタシと千穂とひなちゃんがついて行く感じで、トコトコ歩く。


 やがて、アイビスと鈴絵さんが、ある部屋の前でとまった。

 似たようなトビラばかりなのに、よくわかるな。すごいなと思った。


 トビラの横には、シツジさんがいる。

 シツジさんが、カンゲイの言葉を言ったあと、大きなトビラを開けてくれた。


 ギィーと、音が鳴って、トビラが開くのを、アタシはドキドキしながら見てた。


 アイビスと鈴絵さんが、堂々とした感じで、先に入る。

 つづいて、アタシと千穂とひなちゃんも入った。


 部屋の中には、ごうかなテーブルと、ごうかなソファーがある。

 シツジさんたちと、メイドさんたちがいて、こっちに向かって頭を下げた。


 アイビスは「ウム」とうなずき、さっさと座る。ソファーに。


 鈴絵さんが、「あたしたちも座りましょう」と言って、アタシたちがソファーに近づいた時だった。


 どこからか、ギャーギャーと、わめき声が聞こえてきて、ビクリとする。

 なんか、こっちに近づいてきているような……。


 チラチラと、ここではたらいている人たちに、視線を向けてみたのだけれど、みんな、じゅうたんを見ている。顔を上げてくれない。


 なんで? ああ、近づいてくるのにっ! 


 アイビスは、のんびりとソファーに座っているし、鈴絵さんは、「きれいねぇ」と言いながら、庭をながめてる。

 千穂とひなちゃんは顔を見合わせ、クスリと笑う。


 やめろよ! とか、痛い! とか、大変そうな声が聞こえてるんですが。

 助けに行かなくていいの? 放っておいていいの? 

 そう思うのだけど、なんだか、聞けないふんいきだ。


 大きな音を立てて、トビラが開いた。

 重そうなトビラなのにすごいっ! と思っていると、トビラを開けたムキムキの人が、「よくきたなっ!」と声をあげた。

 そして、白い髪の男の子をつかんだまま、ドカドカこっちに歩いてくる。


 白い髪の子が、「放せ!」とさけんでいるのですが。ムシですか。そうですか。


「そなたがツムギだなっ! オレはライードだっ! よろしくなっ!」


 ムキムキの人がそう言って、アタシの手をギュッとつかみ、ブンブン、上下に動かした。痛い。


 男の子が、放せ放せとさけんでいますが。ムシして、アクシュするのですね。

 あなた、たぶん、王さまだと思うのですけど。


 ライードって、王さまの名前だったはず。この顔、鈴絵さんのアトリエで見たし。


 ハチミツ色の髪、青い目、高い鼻、とがった耳。とってもキレイな顔だ。

 背が高くて、きんにくムキムキって感じだから、キレイなだけじゃなくて、強そう。

 これぞ男! って、感じがする。きんにくが。

 服もマントも、真っ赤だ。


 そんな王さまが、ムギュッとつかんでいるのは、白い髪の男の子。

 うすい、紫色の目が、キッと、こっちをにらんでる。

 なんだか、顔色がわるい気がするんだけど、ダイジョウブかな?


 この髪と目の色、シオン王子だよね。


 今日は、マントもフードもない。黒い服を着てる。うでには、銀色のうでわ……。


 あれが、魔力ふうじのうでわかな? 

 お城の中ではしないって聞いた気がするけど、部屋で、あばれたみたいだし。

 さっきもあばれてたけど。


 今は、しずかににらんでる。アタシのことを。


 この子、アタシたちと同い年なんだよね。たしか、そのはずだ。

 背は、アタシと同じぐらいかな?


 シオン王子をジッと見ながら、考えごとをしていると、「見つめ合う少年少女。この時、恋が始まった」と、王さまが語り出した。


「――ちがうっ! 俺はこんなヤツ、大っきらいだっ!」

「――ちがいます! アタシは恋なんかしませんっ!」


 シオン王子とアタシが、全力でひていしたんだけど、王さまは、楽しそうな顔で、ウムウムとうなずいた。

 そのあと王さまは、つかんだままのシオン王子を、ズルズルと、イスまで連れて行く。


 そして、「シオン。トビラは外からカギをするように命じたからな。はずかしいからって、にげるんじゃないぞ」と言い、シオン王子と共に、ソファーに座った。


 それから、アタシたちにも座るように言う。なので、みんな座った。

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