25 桜色のスケッチブック

 0時をすぎても、アイビスは、もどってこなかった。

 アタシはベッドに上がり、横になる。


 気づけば眠ってて、悲しい夢をたくさん見た。

 学校で、みんなにバカにされて、悲しむ夢とか、仲間外れにされて、悲しむ夢とか、森の中で1人で、泣く夢だった。


 で、ふと目を覚ますと、かならず涙を流していた。


 何度も目を覚まし、そのたび、アイビスが帰ってこないかなって、気になった。


 アイビスが部屋にもどってきたのは、朝だった。


 両親と、朝ごはんを食べたアタシが、自分の部屋にもどったら、そこにいた。

 アイビスの手には、スケッチブック。

 でも、なんか、アタシが買ったのと、ちがうような……。

 そう思いながら、アタシは部屋のあかりをつけた。


「……なんで、桜色になってるの? アタシが買ったやつ、水色なんだけど……」


「そうなのだ。ちがうのだ。これは、鈴絵すずえからなのだ。新しいぞ」


「新しいって、言われても……。とりもどしてやるって、言ってたような……」


「ああ、そのつもりだったのだ。ツムギのスケッチブックを持った妖精たちはな、ネコ神社の池から、リリリの森のふしぎな泉に行ったのだ。オレサマは、ジョウホウを聞いて、追いかけたのだが、なぜか、本気でにげられてな。そこまでして、どこに、ツムギの絵を持って行くのか、ふしぎだったのだが……」


「どこに持って行ったの?」


 ドキドキしながらたずねると、アイビスは、「城だ」と答えた。


「えっ? なんでお城に?」


 おどろくアタシ。真剣な顔のアイビスが、口を開いた。


「これは、ツムギのスケッチブックをぬすんだ妖精たちが、言っていたことなのだが。第2王子のシオンがな、ツムギのことを、わるく言っていたらしいのだ」


「――えっ?」


「いきなり出てきて、鈴絵や、千穂ちほや、ひなに大事に思われているツムギに、ヤキモチを焼いたのだろうと、鈴絵は話していたが。それは置いておくことにする。妖精たちの話が先だ。妖精たちはな、ツムギなら、シオンと仲よくなれると思ったらしい。それで、イライラしながら、ツムギをわるく言うシオンに、ツムギの絵を見せようと考えたらしいのだ。オヌシの絵がかわいいという、ウワサを聞いて」


「ウワサを聞いてって……ウワサが広まるのが早い気が……」


 そう言いながら、アタシは思い出した。

 鈴絵さんがたしか、あの子は絵も好きだけど、食べることも大好きだからって言ってたな、と。


「そうだな。まあ、ウワサとはそういうものだ」


 ウムウムと、えらそうにうなずくアイビス。


「で、妖精たちが、シオン王子に絵を見せたんだよね? それからどうなったの?」


「それがな、とても気に入ったらしいのだ。オレサマが、返せと言っても、いやだと言ってな。クッションやら、本やら、なげてくるのだ。もちろん、オレサマはカッコヨク、にげたがな」


 フフンと笑うアイビスを見て、アタシはクスリと笑う。

 そんなアタシを見て、うれしそうな顔の、アイビスが口を開く。


「そんなことをしていたらな、ライードがきたのだ。ツムギの絵をぬすんだ妖精たちから、話を聞いたらしくてな。ライードが、ツムギにきょうみを持ち、会いたいと、言い出したのだ。それで、父親が、ツムギにきょうみを持ったことで、シオンが怒り、あばれてな、ものすごく大変だったのだ。ケッカイのおかげで、魔力ボウソウすることはなかったが、空気がビリビリしてな、オレサマはにげ出したくなった。そんな時だった。鈴絵がきたのは」


「鈴絵さんが? そうか。それで、さっき、鈴絵さんの話が出てきたんだね」


「ウム。鈴絵の家の周りにいた妖精たちが、今回のさわぎを聞いて、鈴絵におしえたらしいのだ。それで、心配して、城まできたのだ。鈴絵がな、ツムギの絵を見て、ほめていたぞ。上手だし、愛がこもってると。オレサマも、いい絵だと思ったがな」


 愛という言葉を聞いて、アタシは顔が熱くなるのを感じた。


 画家で、絵本作家の、鈴絵さんに、絵を見られたことがはずかしいのに、うれしくて、なんだかニヤニヤしてしまう。


「鈴絵はな、犬やネコや、妖精たちがさわいでいるので、気になったそうだ。それで外に出て、妖精たちと話し、ジョウホウを集めてもらったらしい。鈴絵が外にいることと、さわぎが気になり、千穂も出てきたと話していた。ジョウホウを集めた結果、ツムギの匂いがついた絵を、妖精たちが、エフィーリーリア王国に持って行ったことがわかったようだ。そのあとを、オレサマが追って、王国に行ったことも知ったらしい。心配した千穂が、王国に行きたがったが、夜だからと鈴絵がとめたと聞いている。それで、鈴絵は王国に行き、ジョウホウを集めて、城にきたのだ」


「そっかぁ。じゃあ、千穂も知ってるんだね。絵のこと。っていうか、アタシの匂いがわかるんだ」


「妖精だからな。花のミツがおいしいかとかも、匂いでわかるのだ。それでな、話し合いの結果、今日、ツムギは城に行くことになった」


「なんで!? イミフメイすぎるんだけど!!」


「ライ―ドがな、ツムギとお茶がしたいと、望んだからだ。鈴絵も、ツムギにお城の中や、ローズガーデン、それから、ドラゴンがいるトウの中を見せたいと話していたしな」


「今日、昼から千穂といっしょに、ひなちゃん家に行く約束だったから、2人に話さないと……」


「それはモンダイない。鈴絵がな、夜ごはんの時に、千穂から、その話を聞いていたのだ。だから、オレサマが朝、2人の元に行ってきた。ひなも、妖精たちから話を聞いて、心配していたから、オレサマと話して、ホッとしていたぞ」


「そっか……鈴絵さんにも、千穂にも、ひなちゃんにも、心配かけちゃった」


 アタシがそう言うと、アイビスは、「モンダイない」とつぶやき、「約束通り、1時にネコ神社だ」と言ってから、トコトコと歩き出した。

 と思ったら、ピタリととまり、ふり向いた。


「とりもどせなくて、すまなかったな」


 そう言って、アイビスは、アタシの前から消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る