17 誕生日の放課後と、夜
放課後。
プレゼントをわたすからと、
千穂の家の玄関で、千穂から、ウサギのイラストがかわいい、びんせんとふうとうをもらった。
そのあとひなちゃんの家に行き、ひなちゃんからは、手作りのチョコレートクッキーをもらった。
友だちから、誕生日プレゼントをもらうのは、はじめてで、アタシは、胸がいっぱいになった。
千穂もひなちゃんも、メッセージカードに、いろいろと書いてくれていて、ものすごくうれしくて、しあわせだった。
千穂の家には上がらなかったのだけど、ひなちゃんの家には上がることになった。
ひなちゃんに笑顔で、「上がって」と言われたら、ことわれない。
いやなわけじゃないんだけど、キンチョウする。
両親は仕事でいないらしく、とてもしずかだ。
ひなちゃんの家は、あんず色の屋根と、白いかべの、2階建ての家。
家の中には、たくさんの写真が、かざってあった。
「これがお父さんで、これがお母さんだよ。この人はお兄ちゃん。お兄ちゃんは大学生で、京都にいるんだ」
さびしそうな顔のひなちゃん。
「お兄ちゃんのことが好きなんだね」
アタシが言うと、ひなちゃんはうれしそうな顔で笑った。
「うん! 大好きっ! お兄ちゃんもお父さんも、お母さんも好きだよっ! おじいちゃんやおばあちゃんや、ほかのしんせきの人たちも、みんなとってもやさしいんだっ! ここにあるのは、家族や、しんせきの写真が多いんだっ」
「そうなんだ。すごいね。たくさんの写真がかざられていて、すごいし、みんな笑顔で、楽しそう」
アタシがそう言うと、ひなちゃんは、うれしそうに笑った。
♢
ひなちゃんの家で、リンゴジュースを飲んだあと。
「おばあちゃんがね、ゴールデンウィークに、アトリエで、パーティーしましょうって言ってたよ」
千穂にそう言われて、アタシはきょとんとした。
「パーティー? なんの?」
「おばあちゃんも、ツムギの誕生日を祝いたいんだって。今は、お客さんが待ってる絵があるみたいなんだけど、ゴールデンウィークなら、ゆっくりできるから、アトリエで、おいしいケーキと、お昼ごはんをいっしょに食べましょうって、そう言ってた」
「お昼ごはんも? いいのかな?」
「おばあちゃんがそうしたいって言ってたから、いいと思うよ? ツムギ、前に、アトリエの絵、見たいって言ってたよね?」
首をかしげる千穂に、アタシはほほ笑み、うなずいた。
「うん。ユニコーンのルルカが住んでるんだよね?」
「そうよ。行きたい?」
まっすぐな目をした千穂に聞かれて、アタシはコクリとうなずいた。
家に帰ったあと、お母さんがれいぞうこで、ひやしてくれていたので、大家さんがくれた、果物のゼリーを食べた。おいしかった。
夜、お父さんとお母さんといっしょに、ごちそうとケーキを食べた。
ケーキはイチゴケーキだった。
お父さんもお母さんもずっと笑顔で、アタシはなんだかはずかしかった。
お母さんが、図書カードをくれた。
お父さんは、ウサギと妖精のオルゴールをくれた。
「そのオルゴール、かわいいだろぉ? お父さんとおそろいだぞっ! 大家さんがおしえてくれた、妖精グッズの店で買ったんだぞっ! 行きたいだろうっ!?」
「いや……でも、本屋さんには行きたいかも。この島の本屋って、どこにあるの?」
「ちょっと、とおいんだが、車でピュッと行けばすぐだっ! 今度の休みに行こうなっ!」
「うん」
そのあと、お風呂に入ってから、部屋にもどったら、ケットシーのアイビスがきていた。
今日も深緑色の、貴族みたいな服を着てるんだけど、手には1本のバラを持っている。バラは、ほのかに光ってる。
「あっ、青色だっ! すごいっ! はじめて見たっ! 甘い香りがするっ!」
「エフィーリーリア王国のバラだ。美しいだろう?」
「うんっ!」
うれしくて、ワクワクしながら返事をすると、アイビスが、「ほれ。誕生日プレゼントだ」と、バラをさし出した。
アタシは「ありがとう」と言って、手をのばし、「あっ!」と気づく。
「どうした?」
コテリと首をかしげるアイビス。
ふしぎそうなアイビスが、かわいいんだけど、受けとるのはマズイかもしれない。
「あのね、アイビス。そのバラは、とってもキレイで、すてきなんだけど、部屋にかざるとね、お母さんとお父さんに、バレちゃうんだ。青いバラって、昔はなくて、今はあるって、ジョウホウは知ってるんだけど、このバラはどう見ても、ファンタジーだし……」
「妖精が見えない人間には見えないぞ」
「えっ? そうなのっ?」
おどろきながらたずねると、アイビスは、「ああ」とうなずく。
「匂いもダイジョウブ?」
「モンダイない」
「お水は?」
「空気中の水分があれば、ダイジョウブだ。花の命があるかぎり、咲きつづける」
「じゃあ、ダイジョウブか……」
ファンタジーだなぁと思いながら、アタシは青いバラを受けとった。
そして、ペン立てにかざってみる。
「妖精たちが、よく花のそばにいるけど、そういえば、異世界の種とか、持ってきたりしないの? 光る花、今日、はじめて見たんだけど……」
「王国の種や、球根や、苗を持ってきても、この世界では育たないのだ」
「土が合わないのかな?」
「王国の土を持ってきても、ダメみたいだぞ」
「ふうん」
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