16 12才の誕生日
家に帰って、お母さんに「ただいま」とあいさつをすると、お母さんがニコリと笑った。
「おかえり。楽しそうね」
「うん、楽しかった。図書館のあと、近くの公園であそんだり、
「そう。それはよかったわね。そうだわ。あなたが出て行って、しばらくしてから、大家さんがきたの。友だちとあそびに行きましたって話したら、よろこんでいたわよ。だれって聞かれたから、わかりませんって言っておいたわ」
「……ありがと」
大家さんは、アタシが春休みに、病院に行った日の夕方、うちにきていたらしい。
その時、アタシは寝てたんだけど、大家さんは、チューリップと、どら焼きと、プリンを持ってきてくれた。
だれに聞いたのかは知らないけれど、病院に行ったという、ウワサを聞いて、おみまいにきてくれたんだ。
だから、わるい人ではないと思うんだけど、友だちのことで、いろいろ言われたら、いやだなって思うんだ。
夜ごはんを食べて、お風呂に入り、部屋で、読書をしていた時だった。
ひょっこりと、ケットシーのアイビスがきた。いつもと同じで、深緑色の、貴族みたいな服を着ている。
「よお、今日は、学校に行ったらしいな。鈴絵の家にも行ったそうだな」
「うん、鈴絵さんの家でお茶したり、藍色のユニコーンのことを、おしえてもらったりしたよ」
アタシが話すと、アイビスは、「そうか」とううなずいた。
そして、「ツムギ」と、アタシの名前を呼んだ。アタシは首をかしげて、「ん? なに?」って、問いかける。
すると、アイビスは、「楽しいか?」と、たずねてきた。
アタシはクスリと笑って、「うん、楽しい」と、答えたのだった。
♢
つぎの日も、昼前に学校が終わったので、アタシはお母さんといっしょに、図書館に行った。図書館利用者カードを作って、好きな本を借りた。
うれしい気分で家に帰ると、家の前に、大家さんが立っていた。
今日は、ライオンのイラストの服を着ている。強そうだ。
ネコ好きみたいだけど、ライオンもネコだと思ってるのかな?
大家さんの肩の上には、ピンクの髪と目の妖精が座ってて、笑顔でひらひら、アタシに手をふる。
「ツムギちゃん、おかえりー。昼までって聞いたんだけど、だれもいないから、心配しちゃった!」
にこやかに言う大家さん。
その顔は、心配しているようには見えない。
そう、アタシが思っていると、お母さんが大家さんに、「どうしました?」と、声をかけた。
「うふふふふふふ。ツムギちゃんに会いたかったのぉ。学校のこととか、聞きたくてー。ねえねえ、ツムギちゃん、学校はどう? 友だち100人、できたかなっ?」
「いえ……100人はムリです」
「まあっ! ムリだなんてことはないのよっ! この島の人たちはね、みんな、とってもやさしいのっ! こんなにイケメンなツムギちゃんなら、友だちでも彼氏でも、山ほどできるのよっ! ハーレムねっ!」
「いらないです……」
「まあっ! 最近の子はけんきょねぇ。若いんだから、夢も希望も、たくさん持っていいのよっ! そうしたら、人生バラ色で、楽しい毎日になるのっー」
「そうなのですね」
「そうなのっ! おばさんの愛がつたわってよかったわー! おばさんね、ツムギちゃんのこと、自分の子どもみたいに思ってるのっ! うちの借家に住んでるんだから、家族みたいなものよねっ! だからねっ、もっと甘えていいのよ! おばさん、どんなツムギちゃんのことも、受けとめちゃうっ!」
「……あの、アタシ、今から、宿題をしないといけないので……」
ペコリと頭を下げて、アタシはにげた。
「いやーん! ツンデレなところもすてきっ!」
なんかさけんでる。
宿題なんて、ほんとはないけど、どんなアタシのことも受けとめてくれるなら、これでいいだろう。よろこんでるし。
やがて給食がはじまり、授業時間が増えた。
6年生の授業は、思っていたよりもむずかしかった。
おまけに今月、家庭訪問があったりもするから、まじめに勉強をがんばった。
学校に、なにを着て行くか、毎日悩む。
よく考えてみれば、アタシがかわいいもの好きなのは、バレてるし、すこしずつ、家で着てる服やズボンで、外に出るようになった。
かわいいって、女子たちに、ほめられることはあっても、わるく言われることはなかった。とても楽だ。
4月24日、「明日誕生日だね」って、千穂とひなちゃんがよろこんでた。
妖精たちも言ってたし、大家さんにも言われたし、アイビスも知っていた。
だれも知らないのはさびしいけど、みんなに知られてるのは、はずかしかった。
4月25日、アタシは12才になった。
0時になったしゅんかんが見たくて、起きていたら、時計が0時になったしゅんかんに、「オメデトー!」と、たくさんの子どもの声が聞こえた。
そして、キャイキャイ、キャーキャー、さわぎながら、妖精たちが現れた。
ピンク色の髪、ハデな衣装を身につけた妖精たちが、誕生日の歌を歌い出す。
ウルサイとか、近所めいわくとか、言いそうになったけど、お父さんとお母さんには聞こえないし、田舎なので、まあいいかと思った。
妖精というものは、幼い子どもと同じで、ウルサイものだし。
歌い終わった妖精たちは、「ツムギ、ジュウニサイ、オメデトー!」と言って、パチパチと、パチパチと、楽しそうに拍手する。
なのでアタシは、「ありがとう」とお礼をつたえた。
すると妖精たちは満足したようで、ニコニコ笑いながら、「マタネー」と手をふって、どこかに飛んで行った。
朝になり、お父さんとお母さんが、「誕生日おめでとう!」と言ってくれたので、「ありがとう」と返した。
今日の晩は、ケーキとごちそうなのだそうだ。
水色のランドセルを背負って、外に出る。
すると、家の前に、ネコ柄ワンピース姿の、大家さんがいた。
大家さんの頭には、手作りっぽい、キラキラしたピンクの、ハデな三角ボウシ。
手にはクラッカー。うでには金色の紙袋。
「ツムギちゃん! 12才、おめでとー!」
大家さんは満面の笑みでそう言うと、クラッカーをパンッと鳴らす。
すると、紙テープが飛び出した。
いろんな色の紙テープはキレイなんだけど、だれかに見られたらはずかしい。
そう思っていたら、大家さんが歌い出した。誕生日の歌を。
すると、どこからともなく妖精たちが現れて、大家さんといっしょに歌い始めた。
大家さんは、妖精たちに気づかないまま、気持ちよさげに歌い終わる。
そして大家さんは、「ツムギちゃぁん、生まれてきてくれてありがとぉ! この家にきてくれてありがとぉ! 大好きよぉ!」と大声をあげ、涙を流す。
キャッキャと、楽しそうにはしゃぐ、妖精たち。
大家さんは涙をふくと、両うでを広げて、アタシにかけ寄り、抱きついた。
アタシが「痛いです」と言うと、「ごめんねぇ」って、すこし離れてくれたけど、大家さんはニコニコだ。
ニコニコ大家さんは、「これっ、おいしい果物のゼリーなのっ。食べてね!」って、金色の紙袋をアタシにさし出す。今から学校なんだけど。
「あっ、学校。あのっ、アタシッ、学校行かなきゃなんで、プレゼントは、母にわたしてくださいっ! ありがとうございましたっ!」
急いで頭を下げたあと、アタシは学校に向かって、かけ出した。
ちゃんと間に合ったからいいけれど、ものすごいつかれた。
でも、学校に着いたら、千穂やひなちゃんや、学校の子たち、先生たちまで、「誕生日おめでとうっ!」って、お祝いの言葉をくれたから、気づけば笑顔になっていた。
はずかしさもあったけど、知っててくれるだけでもうれしい。
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