13 図書館と、公園と、海
アタシは、空色のショルダーバッグを肩にかけると、急いで部屋を出た。
バタバタと階段を下りると、リビングダイニングで、テレビを見ているお母さんに、「外で待つ」と言う。
お母さんはなぜか、笑った。
「いってらっしゃい。気をつけてね。なにかあったら電話してね。知らない土地なんだから、できるだけ早めに帰ってきなさいよ」
「はーい!」
明るく返事をしたら、またお母さんに笑われた。
どうでもいいやと思って、早足で家を出る。
空が青い。あたたかい風が吹き、キャラキャラと笑い声がする。
この、幼い子どもの笑い声は、きっと、妖精たちだ。
しばらく待つと、ブンブン手をふる、ひなちゃんが見えた。
2人共、学校にいた時と同じ服装で、トートバッグを持っている。
うれしくて、アタシは走り出す。
そして、ひなちゃんと千穂のところに、たどり着いた。
3人で、顔を見合わせ、ふふふと笑う。
「行こうか」
千穂の声に、アタシとひなちゃんはうなずいた。そして、3人で歩き出す。
楽しくて、しあわせで、ものすごく、ワクワクする。
歩くのは、春休みに、病院に行った時の道。
あの時は、体も心もすごいつらくて、しんどかったなと思い出す。
熱で、ぼんやりしていたせいか、ウサギのイラストの、かわいい服を着ちゃって、はずかしかったなとか、うつむいてばかりだったなとか、歩いていたら浮かんだ。
でも、今の心は、桜色。
「楽しそうだね」
ひなちゃんが、明るく話しかけてきたので、アタシは笑って、「うん!」と答えた。
しばらく進むと、小さな公園があった。今日はだれもいない。
「あとであそぼうっ!」
ひなちゃんが言ったので、アタシはコクリとうなずいた。
すると、千穂が話し出す。
「おばあちゃんがね、ツムギに会いたいって言ってたよ。もしよかったら、いっしょにお茶しましょう、だって」
「えっ? どうしよう。キンチョウする。家って、絵がいっぱいあるの?」
アタシがたずねると、千穂がニコッと笑った。
「うん、あるよ。ドラゴンや、ユニコーンの絵は、王国にあるけど……それ以外の絵も、たくさんあるから。今日、お母さんが仕事なんだ。だから、おばあちゃん家で、ごはんを食べたの。それでね、ツムギのことを話したんだ」
「そうなんだ……行きたいかも」
アタシがつぶやくと、「じゃあ、行こう」と言って、千穂が笑った。
アタシは「うん」と言って、ほほ笑む。
すると、ひなちゃんが、「ワタシも行く! あの家、好きなんだっ!」って、ニコニコしながら言った。
3人で図書館に入ったあと、ひなちゃんと千穂が本を返すのを、アタシはしずかにながめた。
そして、3人で図書館の中をふらふら歩く。
ひなちゃんと千穂が、何冊か本を借りてた。
アタシも気になる本があったんだけど、図書館利用者カードがないので、今度、お母さんといっしょにきて、作ろうと思った。
図書館を出たアタシたちは、近くの小さな公園で、ブランコに乗ってあそんだあと、千穂のおばあさんの家に向かった。
この道は、家族で通った道だ。車でだけど。
お花見の時は気づかなかったけど、ぶんぼうぐ屋さんがある。
ネコ神社と書いてあるカンバンが見えたあと、長い道と、海が見えた。
アタシはつい、足をとめてしまった。
ジッと、長い道の先にある海を見つめる。
そんなアタシに気づいたひなちゃんが、「どうしたの?」と聞いてくれた。
「海、行きたいな」
ドキドキしながら言ってみたら、ひなちゃんがニパッと笑う。
「いいよ! じゃあ、行こっか!」
ひなちゃんの言葉に、千穂が、「そうだね」とうなずく。
アタシたちは海に向かって、歩き出した。
長い道の先に、白い砂浜と、海があった。
海の匂いに、つつまれる。
強い風と、波の音。
なんか、生きてるって感じがして、アタシは笑い、かけ出した。
「気持ちいいっ!」
白い砂浜を走りながらさけぶと、ついてきていたひなちゃんと千穂が、ケラケラ笑う。
千穂の長い髪の毛が、海風ですごいことになっていて、笑いがとまらない。
「アハハッ! 千穂っ、髪、すごいよっ!」
「いいのっ! よくあるからっ!」
波の音に負けないような大声でさけぶと、千穂が笑いながら答えた。
強いなぁ。
「クツに、砂、入っちゃったっ!」
と、アタシは笑いながら、さけぶ。
そして、クツをぬいで砂を出した。片足立ちで。
そうしたら、ひなちゃんと千穂も、同じように、クツから砂を出していた。
たくさん笑ったあと、アタシたちは、キレイな貝がらをひろって、千穂のおばあさんの家に向かった。
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