12 妖精と、ユニコーンと、ドラゴンのこと

 アタシは、ひなちゃんと千穂ちほといっしょにトイレに行ってから、ろうかを歩く。

 友だちといっしょに歩くのって、変な感じがする。そのうちなれるだろうか。


「ツムギちゃんって、この島にくる前は、妖精、見えなかったんだよね?」


 ひなちゃんに言われて、アタシはコクリとうなずいた。


「うん、見えなかったよ」


「はじめて見た時、どう思った?」


「うーん、どうだったかなぁ? お花見に行った時に、はじめて見たんだけど、ビックリしたとは思うよ。妖精がいるとは聞いてたけど、ほんとにいるとは思わなかったし」


「そうなんだー」


「うん。そのあと、喫茶店に行って、妖精や、ケットシーの絵を見たんだ。あれって、千穂のおばあさんの絵だよね?」


 アタシは言いながら、千穂の顔を見る。

 千穂はニコリとほほ笑んでから、「そうよ」とうなずいた。


「アタシのうちの玄関にある絵も、千穂のおばあさんの絵って聞いたよ」

「それって、花畑と妖精の絵?」


 千穂の言葉に、アタシはうなずく。


「うん、よく知ってるね」


「ツムギの家の、大家さん、有名なんだ。私はあまり、話したことないんだけど……」


「あまり話したことないの?」


「うん、なんか、妖精愛がすごすぎて、ちょっと苦手。声も大きいし」


「……ああ。うちのお父さんもだけど、妖精、見たことないのに、妖精妖精って、ウルサイんだよね。お母さんは全く、信じてないけど」


「ツムギのお母さんは、信じてないんだね。それはそれで、さびしい?」


「うん、まあ。だから、お母さんには、妖精見たって言ってないんだ。お父さんにも、大家さんにも、言ってないけど」


「言ってないんだ?」


「うん。妖精たちとアイビスは、アタシが見えること、わかってるし、千穂とひなちゃんも知ってるから、べつにさびしくないよ」


「そっか……」


 千穂がつぶやく。その時、「すごいね」って、ひなちゃんの声がした。


「なにがすごいの?」

 アタシがひなちゃんにたずねると、ニコッと笑ったひなちゃんが、話し出した。


「アイビスってね、好ききらい、はげしいんだ。だから、きょうみがない相手には、近づかないし、話さないの。ツムギちゃんのことはね、すごい、気に入ってるみたいなんだ。ワタシが聞いても、ツムギちゃんと、どんな話をしたのか、全然、おしえてくれないんだ」


「じゃあ、アタシのことは、妖精たちが話したんだね?」


 アタシがたずねると、ひなちゃんは大きくうなずく。


「うんっ! 妖精たちがね、アイビス、毎日、ツムギちゃん家に通ってるよーって、そう言ってたんだっ! あとねっ、ツムギちゃん、ネコ神社に行ったでしょっ! その時に、妖精が魔法を使って、異世界転移させちゃったって聞いたよ」


「それも妖精から?」


「そうだよっ! オレハヤッタゼ! って、その妖精が、ジマンしてたんだ。だから、いたずらはダメだよって、ちゃんと、しかっておいたからねっ!」


「ありがとう。妖精に話しかけられたと思ったら、目の前に、ユニコーンがいるんだもん。ビックリしたよ。ふり向いたらドラゴンまでいるし。アイビスがいてくれて、助かったけど。ユニコーンはなんか、アタシのこと、こわがってたみたいだし」


「ああ……あの子はね、おくびょうなんだ。だから、島にはこないで、待ってるの」


「待ってる?」


「千穂ちゃんのおばあちゃんを」


「そうなんだ。あのユニコーン、千穂のおばあさんのことが好きなんだね」


「うん!」


「じゃあ、ドラゴンは、なにしてたんだろ? こっちにはこないよね?」


「うん。きたら、大さわぎになるからね。それに、あのドラゴンは、王族のペットだから、王族の言うことを聞いてるだけなんだ。ずっとあそこにいてね、ツムギちゃんみたいに、行こうと思ってないのに、異世界転移しちゃった子を、魔法で、もどしてあげてるんだよ」


「ああ、そっか。ドラゴンもしゃべるの?」


「うん、ドラゴンも、ユニコーンも、しゃべるよ。エフィーリーリア語」


「エフィーリーリア語?」


 よくわからなくて、アタシは首をかしげた。

 ひなちゃんがクスクス笑う。すると千穂の声がした。


「エフィーリーリア王国に住んでたり、そこからきた子たちは、みんな、エフィーリーリア語をしゃべってるの。でも、私たちの耳には、日本語に聞こえるんだ。ふしぎだけどね」



 アタシはひなちゃんと、千穂といっしょに、校門をくぐる。


「ツムギダ!」

「ヒナダ!」

「チホモイル!」


 かわいらしい声が聞こえて、妖精だなと思いながら、アタシは声のヌシをさがした。

 すると、妖精たちが見えた。桜の周りに、たくさんいる。


 風が吹けば、あわいピンク色の花びらが、はらはら舞った。

 地面が花びらだらけだ。それを見てたら、なんだか、悲しい気持ちになった。


「桜、どんどん散ってくね」


 悲しそうな顔で、ひなちゃんがつぶやいた。


「そうだね。桜って、トクベツ、好きってわけじゃないけど、地面に、たくさんの花びらが落ちてると、悲しい気持ちになるんだ。ふみたくないけど、ふまなきゃ進めない時もあるし」


 アタシがそう言うと、ひなちゃんがほほ笑んだ。


「だよね。わかる。桜が咲くと、春がきた感じがして、すっごくうれしくなるんだ。でも、地面に花びらがたくさん落ちてると、かわいそうだなって思うの」


 しんみりとした気持ちで歩いていたら、ひなちゃんが、「家まで送るね」と言い出した。


「えっ? ダイジョウブだよ。アタシの家、10分ぐらいで着くし」


 そう言ったんだけど、ひなちゃんが送りたいって言うので、アタシはおねがいすることにした。


「2人の家、とおいの?」


 気になったので聞いてみると、ひなちゃんが首を横にふる。


「とおくないよ。学校から歩いて、20分ぐらいなんだ。ネコ神社の近くだよ。もっととおくから、歩いてきたり、バスに乗ってくる子たちもいるから、近い方なんだ」


「そうなんだ。島に、1校らしいね。小学校」


「うん。中学校も1校だよ。ワタシと千穂ちゃんはね、家がとなり同士なんだ」


「幼なじみ?」


「うん!」


 ひなちゃんは元気にうなずいたあと、千穂に視線を向けて、ニコリと笑う。

 千穂も、ひなちゃんを見て、ふわりと笑った。


 なんか、いいな。仲よしで。そう思っていたら、ひなちゃんの声がした。


「ツムギちゃん、今日、予定ある?」

「いや、ないよ」

「じゃあ、お昼ごはん食べてから、3人で、図書館行かない? 千穂ちゃんといっしょに、本を返しに行く予定なんだ」

「そうなんだ。図書館はまだ、行ったことないけど、2人がいっしょなら、行きたいかも」

「じゃあ、お昼ごはん食べたら、むかえに行くね」

「うん」


 アタシの家のそばまで、送ってくれた2人は、笑顔で手をふって、帰って行った。


 なんだか急に、さびしくなる。楽しかったからかな? 

 なんて、思いながら歩き、玄関の戸を開ける。


 ガラガラガラ。


「ただいまー!」

 と、あいさつをしてから、戸を閉めて、クツをぬいで家に上がる。


 パタパタと、スリッパの音がして、「おかえり」と言いながら、お母さんが顔を出した。


「あっ、お母さん! ただいま! お腹すいた。ごはんなに?」

「今日はパスタよ。学校はどうだった? 友だちできた?」

「うん、2人……話しかけてくれて、いっしょに帰ったんだ。それでね、お昼ごはんのあと、むかえにきてくれるから、いっしょに図書館行くことになったんだ」


 アタシがそう言うと、お母さんはうれしそうに笑った。


「そう、それはよかったわねっ!」

「うん!」


 2階に上がり、ランドセルを置いたアタシは、リビングダイニングで、お母さんといっしょに、パスタを食べた。

 そのあと歯をみがいて、自分の部屋にもどった。


 空色のショルダーバッグに、水色のサイフと、若葉色のハンカチと、ティッシュ。 

 それから、家の住所と、お父さんとお母さんのスマホの、電話番号を書いたメモ帳を入れて、じゅんびオッケー!


 あっ! うで時計しなきゃっ! よしっ! カンペキだっ!


 なんか、ドキドキする。ワクワクもするけど。

 こんな気持ちになるの、いつぶりだろう?


 しばらく、テレビをつけて、待ってたんだけど、おもしろくないのでやめた。

 本を読もうかなって思ったけど、なんか、本の世界に入れない。


 なにもしないとかムリで、ソワソワしているせいか、部屋の中を、ぐるぐると歩き回ってしまった。


 そうしたら、クスクス、クスクス、笑われた。妖精たちの声だ。


 キョロキョロしたら、目が合った。

 窓から、ちょこんとのぞいてる。2人の妖精。


「モウスグダヨ」

「モウスグクルヨ」

「――えっ? 本当っ?」


 おどろきながらたずねたら、妖精たちは、むじゃきに笑いながら、どこかへ行った。飛べるっていいな。とても自由だ。

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