11 放課後

 帰りの会が終わり、先生が出て行ったので、アタシは教室のうしろにあるタナから、自分のランドセルを持ってきた。

 そして、立ったまま、今日もらったプリントや、家に持って帰った方がいいだろうなと思うものを、水色のランドセルに入れていく。


 教科書は持って帰ってもいいし、置いていってもいいって、先生が言ってた。

 今日もらったもの、全部持って帰ろうとしたら、重いもんね。宿題ないし。


 なんて、考えごとをしていたら、「夜桜よざくらさん」と、声がした。

 とてもキレイな、女の子の声。


 ドキドキしながらふり向けば、女の子が2人いた。


 背が高くて、髪が長い女の子は、時原千穂ときはらちほさん。

 とてもキレイな感じというか、トウメイ感のある子だ。


 ラベンダー色の、長そでワンピースに、紺色の上着をはおってる。


 時原さんは自己紹介で、おばあさんが画家で、絵本作家だと言っていた。


 大家さんが話してた、画家で、絵本作家の人の、おまごさんだと思う。


 自己紹介の時に、声がとてもキレイだなって思っていたから、さっきの声は、この子だと思う。


 時原さんは、6月生まれ。しゅみは、本を読むことって話してた。


「……えっと、なに?」


 ドキドキしながら、首をかしげる。すると、時原さんが口を開く。


「ひながね、夜桜さんと、友だちになりたいって、最近、ずっと言ってたの。それで、もしよかったら、ひなと仲よくしてあげてほしいの」

「えっ? 仲よく? アタシと、友だちになりたいって、ほんと?」


 ビックリしたアタシは、時原さんの横にいる、桃野瀬もものせさんに向かって、たずねた。


「――うんっ! そうなのっ! ワタシ、あなたの友だちになりたいのっ!」


 ぎゅうっと、両手をにぎりしめながら、さけんだ桃野瀬さんは、真っ赤な顔をしている。


「告白だー!」

 男子がはしゃぐ声がした。アタシはおどろき、声がした方に視線を向けた。


 ポニーテールの女子が、「やめなさいっ! バカッ!」と怒って、男子が、「ごめんなさい」とあやまる。


 ポニーテールの子は、夏森なつもりさんだ。

 自己紹介の時に、運動が好きって言っていた。

 気が強そうだなって思ったのを覚えてる。


 夏森さんと目が合ったので、アタシはペコリとおじぎをした。

 そうしたら、夏森さんがニコッと笑って、ひらひらと手をふった。明るい子だな。


 ――あっ、桃野瀬さんのこと、わすれてたっ!


 アタシはあわてて、桃野瀬さんを見た。

 赤い顔。今にも、泣きそう。どうしよう。


 友だちになりたいなんて言われたのは、はじめてだ。

 ドキドキする。体が熱い。


 桃野瀬さんのことは、自己紹介の時に、かわいいなと思った。

 見た目もだけど、声もかわいい。


 背が低くて、髪はふわふわ。黒髪だけど、天使みたいな女の子だ。

 顔が幼い感じなので、年下だと言われたら、信じてしまいそう。

 目が大きくて、クリクリしてる。ニパッて感じで笑う、かわいらしい子だ。


 オレンジ色の服に、桃色のパーカーをはおってる。水色の、ドット柄のスカートも、かわいらしい。


 お菓子作りがしゅみだと、自己紹介で話してた。

 食べるのも好きで、3月生まれなのだそうだ。


「……あのっ、ダメ、かなぁ?」


 泣きそうな声に、ハッとしたっ!


「いやっ! あのっ! アタシなんかでいいならぜひっ!」


 あああああ、テンパッて、つい、大声を出してしまったっ!! 

 うわぁぁぁぁぁぁ、はずかしいっ!! 


 穴があったら入りたい気持ちになっていると、「よかったぁ!! ありがとうっ!! ツムギちゃんっ!!」って声がして、桃野瀬さんが泣きながら抱きついてきた。


 そして桃野瀬さんは、しばらくの間、わんわんと泣きつづけた。


 アタシはとてもこまったんだけど、みんな、なれているみたいだった。

 なので、大きなさわぎにはならなかった。


 桃野瀬さんが泣きやむと、「ワタシのこと、ひなって呼んでね。ひなちゃんでもいいよっ」と言って、むじゃきに笑った。


「わっ、わかった。じゃあ、ひなちゃんって呼ぶねっ」

「ありがとうっ! ツムギちゃんの、ランドセル、水色で、すっごくいいね! ツムギちゃんに、とてもよく似合ってるよっ! 服もカッコイイし」

「えっ? そうかな?」


 アタシが首をかしげると、「うん、そうだよっ!」って、桃野瀬さん――いや、ひなちゃんが、うれしそうな顔でうなずいた。

 それを見て、アタシはなんだか、笑ってしまった。


 心が、ポカポカする。満たされたというのかな? 

 しあわせな気持ちが、あふれ出してる。


「……かわいい」

「――えっ? どうしたの?」


 ひなちゃんが、急にかわいいとつぶやいたので、アタシはふしぎに思って、首をかしげた。

 すると、ひなちゃんが、「ツムギちゃんがかわいいなと思って」と言って、楽しそうに笑った。


 アタシはビックリして、なにも言えなかった。


「――ねえ、帰りながら話そうよ。みんなもう、いないよ」

 と、声がした。時原さんの声だ。


 そっちを見れば、時原さんが立っていた。

 いつの間にか、赤いランドセルを背負ってる。


「あー! ランドセルー!」

 ひなちゃんがさけんで、走り出したので、アタシは、水色のランドセルを背負った。


 そんなアタシに、時原さんが、「ありがとう」と言って、頭を下げる。


「どうしたの?」

 アタシはふしぎに思って、たずねてみた。すると、時原さんが口を開く。


「ひなと友だちになってくれて、うれしかったから」

「そうなんだ……。アタシね、友だちって、よくわからないんだ。今までいなかったから。でも、仲よくしてくれるとうれしいなって思うんだ」


 すなおな気持ちをつたえたら、時原さんがふふっと笑って、うなずいた。


「ひなもだけど、私とも、仲よくしてくれたらうれしいな」

「えっ? うん、アタシでいいなら、仲よくしてくれたらうれしいよ。時原さんの声、とてもキレイだね。自己紹介の時から思ってたけど」

「ほめてくれてありがとう。私のことは、千穂って呼んでほしいな。ねえ、ツムギって呼んでいい?」

「うん、いいよ。千穂、これからよろしくね」

「うん、よろしく」


 見つめ合ったまま、ふふふと2人で笑っていると、いつの間にかもどってきていたひなちゃんが、「仲よしさんだね」と、うれしそうに笑った。

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