10 ニャハハハ小学校の始業式

 始業式がある日の、朝。

 アタシはなにを着て行くか、すごい悩んだ。


 その日よりも前から、どうしようとは思っていたんだけど、朝になったら、ものすごくこわくなって、いろいろ着てみた。


 で、お母さんにおそいって怒られたアタシは、黒いズボンと、灰色の、長そでの服にした。

 そうしたらお母さんに、「それじゃあさむいでしょ」って言われたので、黒いパーカーをはおってみた。クツも黒だ。


 前の学校は制服だったから、私服にランドセルって、変な感じがする。

 だけど、新しい場所には、新しい決まりがある。

 スカートじゃないから、女装だと言われる心配はないだろう。たぶん。


 お母さんといっしょに学校に行って、先生と会った。

 アタシの担任は、やさしそうな男の先生だ。

 やさしそうに見えるからって、本当にやさしいかはわからない。


 ニコニコしながら、人がいやがることをして、よろこぶ人だっている。


 アタシはドキドキしながら、担任の先生といっしょに、体育館に向かった。


 体育館に入ると、ものすごいさわぎになった。


 キャーキャー言われたり、「カッコイイ!」と言われるのはいい。


 だけど、「部屋がすごいかわいいんだって!」とか、「パジャマもウサギで、かわいいんだよっ!」とか、「ぬいぐるみもあるんだよー!」とかは、オイッ! って思った。

 そんなこと、言わないけど。


 こっちの学校は、服もだけど、髪型も自由なようだ。

 髪が長くても、むすばない女子がいる。


 アタシの髪が長かった時、髪長男かみながおとこって呼ぶ男子が、いたことがある。

 だから髪をのばす気はないのだけど、髪が長い女の子に自然と目がいく。


 アタシがアタシと、自分のことを言うことについても、今まで、いろいろ言われてきたけど、それは変える予定はない。

 自分のことを、わたしと言ってみたら、キモイって言われたし、僕とか俺と言うつもりはない。


 アタシはみんなの前で、自己紹介をした。

 すごい、キンチョウしながら、氏名と、どこからきたか、言ったんだけど、男子も、女子も、ウルサかったので、声がとどいた気がしなかった。


 島にきた転入生が、めずらしいのか、みんな、すごいコウフンしてて、先生たちが大変そうだった。


 そのあと、6年2組の教室でも、自己紹介をすることになった。

 アタシだけではなくて、みんなもするようだ。


 氏名と、誕生日と、好きな食べものと、きらいな食べものと、好きな色、きらいな色、それからしゅみを、1人ずつ、言わなければならないらしい。


 いやだな。はずかしい。

 それに、しゅみって言われても、こまるんだけど……。


 喫茶店でおじいさんに、絵は好きかと聞かれた時は、はいと答えた。

 だけど、ここで絵が好きだとか、言いたくない。


 見るのは、島にきてからダイジョウブになった。そう思ってる。

 絵を見て、体が反応してたけど、いやだとは感じなかった。


 好きだと思う。昔のように。でも、描きたいとは思えない自分がいる。


 どうしよう。しゅみ、かわいいものが好きぐらいしか、浮かばないよぉ。


 アタシは、自分の番になった時に、席を立ち、黒板の前に移動した。

 ドキドキしながら、アタシはチラッと、担任の、男の先生に視線を向ける。

 すると先生は、おだやかな表情で、うなずいてくれた。


 よし、やるか。

 やるしかない。


 どうせ、アタシのことは、いろいろバレてるんだ。部屋のことまで。


 アタシはみんなの顔を見た。


 みんな、笑顔だ。笑顔すぎる。目がキラキラ、かがやいてる。

 ウウッ、キンチョウする!


「アタシは、夜桜よざくらツムギ、です。4月25日、生まれ、です。好きな食べものは……お菓子、です。きらいな食べものは、とくにありません。好きな色は……どんな色も、わりと好きだと思います。きらいな色は、とくにないので……。えっと、しゅみは……かわいいなものが好きです」


 言ってしまった。


 つぎのしゅんかん。

 クラスの子たちが、ドッと笑った。


 ほかの子の時も、こんな感じだったから、とくにモンダイはないはずだ。

 そう思いたい。


 先生が、パンパンと手をたたき、「しずかに」と言うと、しずかになった。


 あっ、よろしくおねがいしますとか、言ってないや。

 みんな、1年間よろしくとか、言ってたのに……。


 まあいいか。しょうがない。

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