23 広場で、お城を見たあとは

 美術館を出たアタシたちは、お城を見に行くことにした。

 お城の中には入れないみたいなんだけど、広場からよく見えるらしいから、そこに向かった。


 森を出たところに、馬車が停まっていた。

 馬は、茶色と桃色だ。桃色の馬もいいなぁ。


 馬車用の広い道。歩道。

 赤、青、ピンク、オレンジ、水色、緑、黄色、黄緑色など、いろいろな色の家。

 とてもあざやかだ。


「あれ? 妖精族って、転移できるんだよね?」


 ふしぎに思って、たずねると、アイビスが口を開いた。


「できるぞ。だが、ケッカイがある場所もあるからな。そういう場所には転移できないのだ。それに、子どもや、体が強くない者や、魔力がすくない者は、転移するのが大変だからな」

「あっ、そうか。ムリしたらつかれるもんね。体は大事だし」


 みんなで歩道を進む。木や花のそばに、妖精たちがいて、楽しそうに笑ってた。


 キョロキョロしながら歩いていたら、羽を出して空を飛ぶ人が見えた。


 その人が気になって、立ちどまって見ていたら、ひなちゃんが、「あまり、ジロジロ見ない方がいいよ。わるい人がいないか見てるだけだから」って、おしえてくれた。

 けいさつみたいな人なのだろうか。


 馬車が通る。黒と灰色の馬だ。カッコイイな。


 しばらく進むと、真っ白な建物が見えた。

 あざやかな色の家が多いので、白い色はとても目立つ。


 千穂ちほに聞いたら、神でんだとおしえてくれた。


 広場に着いた。とっても広くて、たくさんの出店がある。

 お祭りみたいだ。


 たくさんの人の声が聞こえてくる。ものすごくにぎやかだ。

 人が多い場所って、あまり好きではなかったんだけど、なんだか楽しくなってきた。


 しずかな美術館もよかったけど、ここも楽しい気分になれる。

 なんか、エネルギーがもらえるっていうか、生きている感じがする。

 おいしそうな匂いに、ニヤニヤしてしまう。


 妖精はいないみたいだけど、空色のネコと、桜色のネコがいたり、レモン色の鳥が、トコトコ歩いていたりして、ワクワクした。

 いいな。空色のネコ、描きたい。

 桜色のネコも。ウサギはいないのかな?


「城はあそこだ」

 アイビスの声にハッとして、アタシはアイビスを見た。

 アイビスの視線の先に目を向けると、丘が見えた。


 丘の上にお城と、いくつもの高いトウ。


「すごい……本物だ」

 感動していたら、千穂とひなちゃんがクスクス笑った。


 そのあと、アタシたちは、出店を見て回った。

 食べものや飲みもの、花瓶やツボ、服やバッグなんかがあった。


 絵を描くためのキャンバスや、紙、ふでや絵の具なども売られていたので、気になった。

 日本で見るような、色えんぴつやスケッチブックは、ここにはない。


 ジッと、見ていたからだろうか。

 アイビスが、「ほしいのか?」と、たずねてきた。

 アタシは、「絵の具は、図工で使うのがあるし、いらない」とつぶやいてから、歩き出した。


 鳥やウサギやネコなんかを、売っている出店もあった。

 みかん色のウサギがかわいかった。


 出店を見たあと、アタシと千穂とひなちゃんは、ニャハハハトウにもどった。

 そして、千穂とひなちゃんといっしょに、ネコ神社でお参りをして、海にあそびに行った。


 夕方、明日もあそぶ約束をしてから、2人と別れた。

 明日は昼の1時に、ネコ神社の前で待ち合わせだ。

 それから、ひなちゃんの家に行く予定。


 家に向かって歩いていたら、ぶんぼうぐ屋さんが見えた。

 あるのは知ってたけど、入ったことはない。


 色えんぴつは持ってる。図工で使うためのものだ。

 でも、スケッチブックは持ってない。


 見てみようかな。

 そう思い、アタシはぶんぼうぐ屋さんに、足をふみ入れた。


 水色のスケッチブックを買って、ワクワクしながら歩く。


 あれも描きたい。これも描きたい。そんな気持ちがあふれ出して、アタシの心は、しあわせ色。


 ニコニコしながら歩いていたら、「ドウシタノー?」とか、「タノシソウ!」って、妖精たちに話しかけられた。

 なので、つい、「スケッチブック買ったの。ひさしぶりに絵を描くんだ!」と言ってしまった。


 笑顔で。


 そのあと急に、はずかしくなった。

 もし、妖精を見ることができない人が、アタシを見てたら、きっと、1人でしゃべってると思うだろう。

 まあ、この島で生まれた人たちは、当たり前に妖精が見えるから、わかってくれるだろうけど。


 でも、なんかはずかしい。


 大家さんとお父さんと、お母さんには、妖精と話してるのを、見られたくないなと思った。


 そんなことを考えながら家に帰り、お母さんと話したあと、アタシは2階に上がる。


 そして、新しいスケッチブックに、絵を描き始めた。

 色えんぴつで、今日見た、みかん色のウサギと、空色のネコと、桜色のネコを描いてみたら、ものすごく楽しくて、しあわせな気持ちで満たされた。


 つぎに、森の泉と、オレンジ色のドラゴンの絵を描いてみたんだけど、ものすごく、むずかしかったし、下手だなと思った。

 でも、楽しく描けたからいっか。


 そう思いながら顔を上げると、妖精たちと目が合った。


 ピンク色の妖精たちが、ニコニコとうれしそうに、ほほ笑んでる。

 なんか、ものすごいたくさんいるけど、ウルサクないから、いっか。


 アタシは、異世界で見た家や、道や馬車なんかの絵を、描き始めた。

 そして。気づけば夜ごはんの時間になっていて、お母さんが呼びにきたので、「はい」と返事して、立ち上がった。


 キョロキョロと、周りを見る。

 だれもいない。


 安心したアタシは、スケッチブックを机の引き出しに入れたあと、部屋を出た。


 お母さんと夜ごはんを食べてたら、お父さんがゼエゼエと息をしながら、帰ってきた。

 顔が真っ赤で、目がギラギラしててこわい。

 この人、ダイジョウブだろうかって思うぐらいだ。


「ただいまぁ! ただいまぁ! ツムギッ! 時原鈴絵ときはらすずえさんの家はどうだったっ!? 楽しかったかぁ!? どんなものをごちそうになったんだ!? 家の中とか、話したこととか、いろいろおしえてくれっ!」


 うん、ウザイ。


 アタシはパクパクと、白いごはんを無言で食べたあと、手を合わせて、「ごちそうさま」でしたと頭を下げた。

 そのあとちらりとお母さんを見て、「おいしかった」と言ってから、席を立った。


 お母さんは、「それはよかったわ」って、笑ったんだけど、お父さんが、「よくないっ! ツムギッ、僕の話を聞いてっ!」とさけぶ。


「聞いてるよ。鈴絵さんの家はすてきだったよ。絵がたくさんあって、感動した。それで絵を描きたくなったから、アタシもどるねっ!」


 早口で言ってにげる。


 うしろから、「エエエエエエエエ!? 感動して絵が描きたいだとぉ!? ツムギがそんなこと言うなんてぇ!!」と、お父さんがさけんでいるのが耳にとどいたけど、アタシは気にせず、あかりをつけて、階段を上がる。


 その時、「アシオトダッ!」「イソゲッ!」「ニゲロッ!」という、声が聞こえた。


 アタシはドキッとして、立ちどまる。


 この声は妖精だ。

 オバケじゃない。


 ダイジョウブだと自分に言い聞かし、足を動かしながら考える。


 足音って言ってた。アタシのだよね? 

 にげろって、なにしたんだろ? 

 急げ? なんで急ぐの? 


 わからない。わからないけど、いやな予感がした。


 しずかだ。すごいしずかで、しんぞうの音が大きい気がする。


 アタシはゆっくりと、自分の部屋のドアを開けた。


 すこし明るい。

 ペン立ての、青いバラが、ほのかな光を放ってる。

 気配はない。


 アタシはドキドキしながら、部屋のあかりをつけた。

 キョロキョロする。だれもいない。いつもの部屋だ。ダイジョウブ。


 ふうと、息を吐いて、絵を描こうと思った。

 絵を描いていたら、ほかのことは、気にならないだろうし。


 そう思いながら、アタシは机の引き出しを開ける。

 そこに、スケッチブックがなかった。

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