22 アトリエの絵と、美術館
パーティーのあと、家の中の絵を、見て回ることになった。
そして、絵を描く道具を見せてもらった。
そのあと、いろいろな部屋や、ろうかにかざってある絵をながめた。
ごうかなイスに座る、アイビスの絵もあったんだけど、それ以外の、アイビスの絵もあった。
ユニコーンの姿のルルカといっしょに、湖をながめるアイビスの絵が、アタシはとても気に入った。
妖精たちや、ドラゴンの絵もあった。
泉と、オレンジ色のドラゴンの絵もあるけど、ほかの色のドラゴンの絵もあった。
あと、いろいろな色の、動物たちの絵や、光る花やキノコの絵。
これらは全部、この世界の絵なのだろう。
島に置いてたら、大家さんがさわぎそうだ。
そう思いながら絵をながめていると、ある、1枚の絵が、アタシの目に飛びこんできた。
丘の上にある、お城の絵。
高いトウが、いくつもある。
目立つのは色だ。
いろいろな色が使われていて、とてもカラフル。
絵本の中の、お城みたいだ。
「すごい……」
ビックリしていると、
つぎに、ハチミツ色の髪と青い目の、キレイな顔の、男の人が、真っ赤なドラゴンといっしょにいる絵が気になった。
「耳がとがってる。鼻も高い。きんにくムキムキ。この人、妖精族?」
アタシがたずねると、千穂が笑った。
「そうよ。この絵はね、おばあちゃんが、昔描いたの。今の王さまで、おばあちゃんの、茶飲み友だちなんだ。あっ、妖精族が、きんにくムキムキなんじゃなくて、この人が、きんにくムキムキなんだよ。シオンのお父さんなんだ」
「オレサマとライードの、出会いの話をしてやろう」
えらそうに胸をはり、アイビスが話し出す。
「オレサマはな、ケットシーが住む、ケットシー王国の、38番目の王子だったのだ」
「38番目……すごい」
おどろいたアタシがつぶやくと、アイビスが大きくうなずいた。
「すごいだろう。オレサマはすごいのだ。それでな、ケットシー王国の話をするが、みんな、ものすごくプライドが高く、ケンカが多かったのだ。オレサマは強いから、負けることはなかったが、オレサマは、おだやかな日々がほしかったのだ。争うことが好きではなかったのだ。だからオレサマは、旅に出たのだ。だが……」
うつむくアイビスのことが心配になり、アタシは「どうしたの?」とたずねた。
するとアイビスは顔を上げて、口を開く。
「オレサマはな、平和が好きだが、自分が弱いとは思わなかった。外の世界に出ても、どこにいても、生きてゆけると信じてたのだ。だがある時、オレサマは、たくさんのオオカミの魔獣におそわれた。もうダメだと思った、その時――真っ赤なドラゴンに乗った、ライードが、さっそうと現れたのは。ライードは強かった。あっという間に、オレサマを助けてくれたのだ。ライードは、今はこの王国の、王だが、あのころはまだ、王子だったのだ。すごいだろう?」
エヘンと胸をはるアイビス。
アイビスの、エメラルドみたいな、あざやかな緑色の目が、ほめてほめてと、言っているように見えた。
「……すごいね。よかったね。あの、ちょっと聞きたいんだけど、魔獣って、魔力がある獣だよね?」
「そうだ。ユニコーンやドラゴンも、魔獣と呼ばれているのだ。ケットシーは、ケットシーだがな」
「オオカミの魔獣も、しゃべるの?」
「オレサマをおそった魔獣たちは、吠えはしても、しゃべらなかったぞ。言葉を使う魔獣もいるが、使わない魔獣もいるのだ」
「そうなんだ。おしえてくれてありがとう」
ニコッと笑ってお礼をつたえると、アイビスが「ウム」とうなずいた。
その時、鈴絵さんの声がした。
「そうだわっ! あたしはシオンを待つから、行けないのだけど、あなたたち、美術館に行ったらいいと思うの。ツムギちゃん、絵が好きでしょう?」
「えっ? でもっ、美術館って……高いですよね? 日本のお金なら、すこしはありますけど……」
笑顔で話す鈴絵さんに、アタシはとまどう。
「お金はいいのよ。あたしがはらうから。あなたに、あたしの絵を見てもらいたいの。ほかにもたくさん絵があるのよ。見たいと思わない?」
アタシはどうしようと思いながら、千穂とひなちゃんに視線を向けた。
千穂とひなちゃんが「行こう」って言ってくれて、アイビスもついてきてくれることになった。
ルルカは、「人がたくさんいるとこはいや。シオンはこわいから、シオンがきたら、部屋に行くの」と、言ったあと、ユニコーンの姿にもどった。
アタシは、ソファーに置いていた白いボウシを頭にかぶり、空色のショルダーバッグを肩にかけたあと、鈴絵さんとルルカにあいさつをしてから、家を出た。
もちろん、アイビスと千穂とひなちゃんといっしょにだ。
千穂もひなちゃんもボウシをかぶり、バッグを持っている。
鈴絵さんが千穂にお金をわたしていたから、美術館のお金は、千穂が持ってる。
庭の、ほのかに光るバラたちの色と、甘い香りに、いやされる。
空は晴れていて、とても青い。湖の青も、森も見える。
4人で歩いていると、「あっ」と、ひなちゃんの声がした。
ふり返れば、離れた場所に、真っ黒なマント姿の子がいた。
フードをかぶっているけれど、シオン王子かな?
3人の妖精といっしょだし。
ジッと見ていたら、「行くぞ」という声が聞こえた。アイビスの声だ。
声の方に視線を向ける。すこし先に、アイビスがいた。
「見てたらシオンが動けないだろう」
アイビスの、その言葉に、アタシは「そうだね」とうなずいて、歩き始めた。
美術館のそばには、8人ぐらい、人がいた。
白いテーブルとベンチがあって、そこで楽しそうに過ごしてる。
みんな、耳がとがっている。
鼻が高く、とても美しい顔だ。
髪はみんな、ハチミツ色。
目の色は、赤の人もいれば、青の人もいる。オレンジの人もいれば、緑の人もいる。
背の高い人もいれば、背が低い人もいる。
赤ちゃんとか、ものすごく幼い子どもを連れた人もいるんだけど、赤ちゃんとか、小さい子たちに、羽が生えているような……。
「あの人たち、妖精族だよね。大人の羽はどうなってるの?」
そう聞くと、「羽の出し入れができるんだよー! 小さな子は、なんかよく出してるけど、大きくなると、本当にひつような時だけ、羽を出すみたいなんだ」って、ひなちゃんがおしえてくれた。
「そうなんだー。ねえ、アタシたちぐらいの子が、いないような気がするんだけど、学校?」
たずねてみると、千穂が、「うん、学校かも」と答えてくれた。
「学校って、魔法とか習うの? 何才から何才まで行くの?」
気になって、聞いたアタシを見て、千穂がふわりと笑う。
「学校はねぇ、8才から成人するまで、通えるみたいだよ。成人は、18才なんだ。言葉とか、かんたんな魔法とか、王国のこととか、知っておいた方がいいことは、みんな先生から、おしえてもらうみたいだけど、勉強したいことは人それぞれだから、音楽とか、王国のれきしとか、ほかの国のこととか、むずかしい魔法とか、商人になるためにひつようなこととか、えらんで学べるみたいなんだ。はたらいてる子とか、いろいろなじじょうがある子もいるから、行く日とかもえらべるみたいだよ。貴族とか、王族は、家庭教師から習うから、学校には行ってないらしいけどね」
「そうなんだー。なんかすごいな。異世界」
アタシがそう言うと、千穂とひなちゃんがクスクス笑った。
美術館に着くと、千穂がお金をはらってくれた。
アタシたちは、たくさんの絵を見た。
すごいな、いいなと思う絵がたくさんあった。
鈴絵さんの絵もいいけれど、ほかの人の絵も、みりょく的だ。
自然の絵や、動物や虫の絵や、妖精や建物の絵など、いろいろな絵をながめながら、アタシもこんな絵が描けたらなと、思ったりした。
美術館という場所が、そう思わせたのかもしれない。
幼いころ、家族で美術館に、行ったことがある。
あのころは、絵を見ることも、描くことも、大好きだった。
テレビで見た美術館に行きたくて、お父さんとお母さんに、おねがいしたんだ。
そうして、連れて行ってもらった場所だった。
あの時は、ものすごく感動して、こんな絵を、アタシも描きたいって、思ったんだ。
あのあと、何度も、あの美術館に行った。
アタシが、絵のことで、クラスの男子に、バカにされて、その絵を持って行かれてしまうまで。
そのことを思い出して、アタシは泣いてしまった。
たぶん、ほかの人は、アタシが絵を見て、感動して泣いたと、思っただろう。
だれも、なにも、言わなかったので、よかったなと思った。
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