21 鈴絵さんのアトリエで

 ドキドキしながら家に上がると、たくさんの絵がかざってあった。

 だけど、鈴絵すずえさんが待っているので、急いで歩く。


 千穂ちほ、ひなちゃん、アタシの順番で、広い部屋に入る。

 リビングダイニングのようだ。


 若草色のソファーに座っていた鈴絵さんが、パァッと、花が咲いたように笑い、立ち上がる。


 鈴絵さんは今日もメガネだ。

 あわい、青紫色の短い髪。耳にはイヤリング。

 首には青色の石がついた、ネックレス。

 バラの花柄の、長そでワンピース。


 鈴絵さんのそばに座っている、藍色のユニコーン――ルルカが、不安そうな目で、こっちを見てる。


「いらっしゃい! よくきたわねっ! ツムギちゃん、お誕生日おめでとうっ!」


 笑顔のまま、鈴絵さんが近づいてきた。


「あっ、ありがとうございます! えっと、こんにちは。あの、これっ、母からです。ローズティーのティーバッグだそうです」


 アタシがドキドキしながらピンクの紙袋をわたすと、鈴絵さんは「まあ! うれしいわっ! お母さまにも、ありがとうございますとつたえてね」と、よろこんでくれた。


 アタシはふと気づく。


「あれ? アイビスは?」

 キョロキョロすると、木のイスに座っているアイビスと目が合った。


 木の、大きなテーブルの上にはオムライスと、野菜スープがある。


「オレサマは腹がへった」

「あっ、うん。ごめんなさい。バラがキレイで……」


 アタシがあやまると、アイビスが「ウム」とうなずいた。


「バラは美しいな。美しいものは好きだ。うまいものも好きだ」

「そっ、そうだね。アタシも美しい花とか、絵とか、好きだけど、おいしいのも好きだよ」


 アタシがそう言うと、キャラキャラと、幼い子どもの笑い声が聞こえた。

 ふり向けば妖精たちがいて、ビューンとどこかに飛んで行く。


 自由な妖精が、おもしろかったのか、鈴絵さんとひなちゃんが笑った。


「では、食べましょうか。ルルカ」

 ピクリと、ルルカの耳が動く。そして、つぎのしゅんかん。


 金色の角と目を持った、藍色の毛並みのユニコーンが、人の姿に変わった。


「えー!?」


 ビックリしたっ! 

 アタシはドキドキする胸をおさえて、ゆっくりと深呼吸をする。


 心を落ちつかせたアタシは、ゆっくりと、顔を上げた。


 ユニコーンがいた場所には、不安げなまなざしの子どもがいる。

 かわいらしい顔立ちの子だ。

 ひなちゃんよりも背が低く、アイビスよりも背が高い。


 ふわふわの藍色の髪。おでこには金色の短い角があり、耳がとがっている。

 とてもキレイな、金色の目。

 肌の色は白い。桜色の半そでの服を着ていて、藍色の半ズボンをはいている。


「えっと……ルルカ、だよね? 男の子? 女の子?」


 アタシが首をかしげると、ルルカも同じように首をかしげた。


「ボク……男の子」

「そっか……男の子なんだ。あの、この前はごめんね。ビックリさせて」


 アタシがあやまると、ルルカは首を横にふる。


「……こちらこそ、ごめんなさい。きずつけてしまって。あの、ね。ボク。鈴絵さんに、よろこんでほしくて。家のそうじとか、お菓子作りとか、手伝ったら、よろこんでくれるかなと思って。そう、強くねがったら、この姿になったんだ」

「そうなんだ……すごいね。今日も手伝ったの?」


 アタシがたずねると、ルルカがふわりと笑い、うなずいた。

 それから、「すこしだけどね」とつけくわえる。


 アタシが「すこしでも、すごいよ」と言うと、ルルカがうれしそうに笑った。


「ビックリした?」

 そう、ひなちゃんに言われて、アタシは「うん」とうなずいた。

 すると、ひなちゃんが楽しそうに笑った。


 鈴絵さんが、ボウシとショルダーバッグを、ソファーに置くように言ったので、そうしたあと、アタシはみんなといっしょに、席に着いた。

 それからみんなで、オムライスや野菜スープを、楽しく食べた。

 どちらも、とってもおいしくて、しあわせな気持ちだった。


 桃のケーキを食べる時に、鈴絵さんが、アタシが持ってきたローズティーを淹れてくれた。

 桃のケーキも、ローズティーも、おいしくて、しあわせがたくさんだなと思った。


 お腹も心も、満たされたあと、千穂が、今思い出したような感じで、口を開いた。


「あっ、おばあちゃん。あのね、ここにくる時、シオンに会ったよ。なんか、こっちをにらんだあと、にげてった。妖精たちが言うには、ほんとはきたかったみたい」


 千穂の言葉を聞いて、鈴絵さんがウフフと笑う。


「そんな気がしたから、オムライスと、野菜スープと、桃のケーキをすこしだけ、のこしてあるの。あの子は絵も好きだけど、食べることも、大好きだから」


 その時、子どもの笑い声が聞こえた。

 そっちを見れば窓の近くに、3人の妖精がいた。


 水色の目の妖精と、黄緑色の目の妖精と、ピンク色の目の妖精だ。

 妖精たちは、「おしえてくるー!」と言って、飛んで行く。

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