6 喫茶店と、ネコ神社
車に乗って、喫茶店に向かう。
古そうな喫茶店に入ると、コーヒーの匂いがした。
大人な感じだ。
流れてる音楽もなんか、ゆったりとして、大人な感じ。
すこし歩くと、大きなはしら時計があった。
「すごい……はじめて見た……」
「大きいだろう。妖精の絵は、あっちにあるんだ。ケットシーの絵もあるんだぞっ!」
アタシが感動していると、なぜか、自信マンマンな顔のお父さんが、絵がある方を指さした。
そっちに視線を向けると、たくさんの絵が見えた。
アタシは吸い寄せられるように進み、ひときわ大きな、1枚の絵の前で、立ちどまる。
「座ってる……」
深緑色の、貴族みたいな服を着たネコが、ごうかなイスに座ってた。
白黒の毛並みのネコで、クツまではいてる。
絵なのに、今にも動き出しそうだと感じた。体が熱い。
「これがケットシーだっ! 2本足で立って、歩くんだぞっ! すごいだろっ!」
「ネコマタだって、2本足で立って、歩くよね。しゃべるし。あと、バケネコも、そんな感じじゃなかった?」
「それは日本の妖怪だろ? ケットシーはな、妖精と同じで、外国にいるものなんだっ! それが日本にいるなんて、すごいことなんだぞっ! しかも、ここの妖精や、ケットシーはな、異世界からきてるんだっ! ツムギには、まだわからないかもしれないが、それはすばらしいことなんだよ」
「……そうなんだ」
「ここの絵はなぁ、うちの玄関にある絵と、同じ人が描いたんだ。絵のふんいきも、似た感じのものが多いし、サインもいっしょだろ?」
アタシのつぶやきに、お父さんが反応して、サインを指さした。アタシはなにも言わなかった。今は、しずかに絵を見ていたかった。
ケットシーの絵は1枚で、あとは、妖精と花の絵ばかりだった。
1枚1枚、ていねいに、絵をながめていた時だった。
白と黒の服を着た、おじいさんが、近づいてきて、「いらっしゃい」と、ほほ笑んだ。
喫茶店の人かな?
そう思っていると、おじいさんが、「絵は好きかね?」と、たずねてくる。
アタシはすこし悩んだあと、「はい」と答えた。
そうしたら、おじいさんが、ニコニコしながら、「じゃあ、好きなだけ、絵を見てね」と、やさしく言ってくれたので、アタシはそうすることにした。
絵をながめていたら、涙が流れた。
絵のほかに、島の写真がたくさんあった。
白い砂浜や、キレイな貝がらの写真を見て、いいなと思った。
夕焼けや、朝焼けの写真が美しくて、心がふるえた。
それらをながめたあと、アタシたちはイスに座り、注文した。
アタシはミルクティーと、イチゴタルトにした。
どちらも、とってもおいしかった――んだけど。
お父さんがいきなり、お酒でも飲んだかのように、顔を赤らめて、ネコ神社への、熱い思いを、語り出したもんだから、はずかしかった。ものすごく。
だって、喫茶店にいるのは、アタシたちだけじゃないし。
大家さんから、ネコ神社にある池が、異世界とつながっているって、おしえてもらったお父さんは、1人で何度も、ネコ神社に行ったんだそうだ。
そして、周りにだれもいない時に、橋の上で、何度もさけんだらしい。
『僕を異世界に連れてって!』
と。
「サトヒコさん……そんなことしてるとは、思わなかったわ。はずかしいから、もう二度としないでね。もししたら……」
人の目があるからだろう。
お父さんの話を聞いたあと、お母さんが、ものすごく小さな声で、お父さんの耳元でささやいた。
お父さんは、「ヒッ」と息をのみ、しばらくかたまっていた。
♢
ネコ神社に行くと、石の鳥居のところに、2体の狛犬――ではなく、狛ネコがいた。はじめて見た。ビックリだ。
ネコ神社だから、狛犬じゃなくて、狛ネコなんだろうな。
2体の狛犬って、1対って言うんだったよね。
これはネコだけど、1対でいいはずだ。たぶん。
アタシは鳥居の前でおじぎをして、鳥居をくぐる。
大きな道があって、その周りには、たくさんの、大きな木が立っている。
今、歩いている大きな道が、参道なんだろうな。
そう思いながら、歩いていると、アタシよりもすこし前を歩いていたお父さんと、お母さんが足をとめた。
「ツムギッ! 池はこっちっ!」
こっちを見て、ブンブン手をふるお父さん。
はずかしいなと思いながら、アタシは走る。
やがて、右に行ける細い道と、朱色の橋が見えてきた。
アタシが追いつくと、お父さんは、「よし、行くぞ!」と、ごきげんな感じで歩き出す。
お母さんがつかれたような顔をして、ハァーと、ため息を吐いたけど、お父さんはスタスタ進む。
アタシはお母さんを追いこし、進む。
そして、朱色の橋の向こうにある、しだれ桜に気がついた。
「お母さん。しだれ桜があるよ」
アタシがそう言うと、「えっ? ほんとっ?」と、聞きながら、お母さんがやってきて、「キレイねぇ」とほほ笑んだ。
その顔を見たアタシは、ホッとした。
お父さんが、1人で、しだれ桜のところまで行ったので、アタシとお母さんも、朱色の橋をわたる。
池にはいろんな色のコイがいて、口をパクパクさせていた。
立ちどまり、コイを見ていた時だった。
ふいに、だれかに見られてる気がした。
キョロキョロしたけど、家族以外、コイしかいない。
どこかに妖精でもいるのかな?
「どうしたの?」
ふしぎそうなお母さん。アタシは、「なんでもない」と答えてから、早足で、お父さんがいるところに向かった。
すると、しだれ桜の前で待っていたお父さんが、「ツムギ、なにかいたならおしえてくれよ」と言ったので、「なにもいなかったよ。池にコイはいるけど」と、返しておいた。
しだれ桜の前で、お父さんが、アタシとお母さんを、カメラでとってくれた。
「つぎはお社だ!」
元気に歩き出すお父さんを見て、「まるで子どもね」と、笑うお母さん。
仲よくいっしょに、橋をわたる2人を見て、アタシは笑いながら、朱色の橋をわたろうとした。
その時。
「ネエ」
と、声がした。
幼いその声に、ドキッとしてふり向くと、妖精がいた。
髪はピンクで、目は黄色。服も黄色で、ズボンは赤。羽はトンボみたいで、浮いている。いや、飛んでいる、か。
ビックリして、かたまったままでいるアタシを見て、妖精が、ニヤリと笑う。
いやな笑みだ。そう感じたつぎのしゅんかん、目の前の景色が変わった。
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