3 オッドアイの白ネコと、大家さん

 近所にある、大家さんの家に向かって歩いていたら、真っ白なネコと目が合った。めずらしい。青色の目と、黄色の目――オッドアイだ。オッドアイを持った白ネコは、ジッとアタシを見つめたあと、どこかに行った。


 大家さんの家に着くと、ネコのイラストの服を着たおばさんが出てきた。

 お母さんがあいさつをすると、「大家の大月おおつきメノウですぅ」と、おばさんもあいさつをした。


 この人が大家さんか。


 そう思っていると、大家さんがアタシを見て、「まあ! あなたがツムギちゃんねっ! お父さんから聞いてるわよっ!」って、うれしそうにアクシュを、求めてきた。アタシは、えっ? って思った。


 この人、苦手だ。


 満面の笑みの大家さんに、いやですと言えないアタシは、しぶしぶ手をのばす。


 そうしたら大家さんが、「これからよろしくね! いつでもあそびにきていいからねっ!」って、アタシの手をにぎり、ブンブン、上下に動かすものだから、いやだった。手が痛い。


「4月から、6年生って聞いてたけど、背が高いのね。お父さんに似て、イケメンでいいわねぇ!」

「よくないです! アタシ、女ですし」


 イラッとしながら、はっきり言えば、大家さんが、笑顔でうなずく。


「わかってるわよぉ! でも、イケメンな女子って、人気じゃないの? 学校でモテなかった? テレビなら人気者よ!」


 はしゃぐ大家さん。子どもか? ああ、イライラする。


「アタシはにらんでないのに、ツムギちゃんに、にらまれたって、周りに言う子が、たくさんいたようですよ。先生たちや、同じ学校の子の、親たちに、目つきがわるいやら、性格がわるいやら、言われてましたし、きらわれてましたけど」


 こんなこと、わざわざ言わなくてもいいとは思う。頭では。

 こんなことを話しても、つらいだけだ。同情されたいわけじゃない。いじめだいじめだと、さわぐだけの人はきらいだ。口だけなんだから。


 今まで、たくさんの人に、きらわれてきた。

 この、むじゃきな大家さんにきらわれても、モンダイはない。


 そう、思ったのに、「うふふ。ハンコウキねぇ。かわいいわー。うちのムスコにもあったのー。ムスコは大学生で、東京にいるんだけどね」なんて言う、大家さん。


 今まで、しずかにしていたお母さんが、「東京なんて、すごいですね!」なんて、にこやかに言い、「あっ、これっ、くるとちゅうで買ったんです。お口に合うかわかりませんが」と、箱入りのお菓子を、おばさんに手わたした。


「まあ! ごしんせつに、ありがとうございます!」


「いえいえ。これからおせわになりますので。どうぞ、よろしくおねがいいたします」


 大家さんがペコペコとおじぎして、お母さんもペコペコとおじぎする。

 仲よしみたいだ。なんて、のんきに考えていると、おばさんがアタシを見た。


「あっ、そうだわっ! ツムギちゃん、玄関の絵、見た? すてきでしょう? あの絵を描いた人はね、時原鈴絵ときはらすずえさんって言うのよっ! 画家で、絵本も出してるのっ! 彼女のおまごさんの千穂ちほちゃんがね、4月から、6年生なのよー! 同じクラスになったらいいわねっ! この島の小学校はね、1校しかないんだけど、クラスは、2クラスあるのっ!」


「そうですか」


「うふふっ。クールねっ! すてきだわー! 鈴絵さんはね、耳がとがっていて、鼻も高いのよっ! とっても美人なのっ! 妖精の血を、引いてるんじゃないかっていう、ウワサもあるのっ!」

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