とある世界の終わりの日のこと

 今日は一月七日。彼女曰く世界最後の日だ。なのにどうしてこんなにも世界はいつもと同じなのだろうか。彼女の言っていたことは全て出鱈目だったのかも知れない。でも、去年の七夕の日に僕と彼女はセックスをした。その事実だけは変わらない。もしかしたら世界がどうたらこうたらと言った話はエッチなことをするための彼女なりの口実だったのかな。


「もう一度したいなぁ」


 部屋のベッドで横になりながら一人呟く。


「何を?」

「え、誰?てか、香織?」


 暗い部屋の中聞き覚えのある声が響いた。咄嗟にその声の方を向くとそこには香織らしき人影があった。


「久しぶり。光彦くん」

「うん、久しぶり。七夕じゃないのに来れたんだね」

「どうやら二つの世界が終わる時は繋がるみたい。これからどうなっちゃうんだろうね」

「世界が終わるって言われても、あまり実感はないなぁ。世の中は全くこのこと知らないよね。だから全て香織の嘘なんじゃないかって思ったり」

「嘘だったらいいね」


 暗いせいで表情は窺えなかったが、その声はどこか悲しげだった。


「その、さ。今日もする?」

「うん。いいよ」




 行為の後、二人でベッドに横になる。時刻は23時53分。後7分で世界が終わる。本当なのだろうか?でも香織が嘘をつく理由もないのは確かだ。


「本当にこのまま世界が終わるのかな?」

「分からない」

「どうして世界が終わるってわかったの?」

「未来を見る実験をした時に2021年1月7日以降が全く見えなかったんだよ」

「未来を見る実験?そんなのが行われていたの?」 

「うん。世界が確実に終わるとは断言できないから世間には公表されてない。でも研究者のお父さんは世界が終わるって言ってた」

「そうなんだ。世界が終わるなら家族と一緒じゃなくていいの?」

「うん。いるなら光彦と一緒がいい」

「そっか……」

「ねぇ。もう一回キスしていい?」

「うん、いいよ」


 僕と香織は本日何回目かわからないキスを長めにした。


「今が永遠に続けばいいのにな」

「うん。でももうそろそろ……」


 時刻は23時58分。僕らは抱き合いながらその時が来るのを待った。次第に僕の心臓の鼓動が速くなっていく。自然と香織を抱き寄せる力も増していく。


「あれ?日付が変わった」

「ほんとう?」


 スマホの画面には2021年1月8日の文字が浮かんでいた。


「本当っぽい。なんだよ。世界終わらないじゃん」

「よかった……」

「それよりさ。香織まだここにいられるんだね」

「そうだね」

「もしかしてだけどさ、二つに分かれた世界が一つになったとか考えられない?」

「確かに。それで未来が見えなくなったのかも」


 だとしたら不思議だ。いや、そもそもの話香織という存在が不思議だけどさ。


「とりあえず寝るか」

「うん」


 そのまま僕は眠った。


 次の朝世界はいつもと同じように始まった。ただ一つ違いがあるとすれば僕と彼女が同じ世界にいられるようになったことくらい。他の人にはどうでもよくても僕らにとってそれはとても大切なことだった。

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7の祈り 空花凪紗 @Arkasha

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