7の祈り

空色凪

とある最後の七夕の日のこと

 七夕の日に僕はある少女と出会う。どこから来たのか、そしてどこへと去っていくのか。気づいた時にはそこにいて、また気づいた時には消えている。そんな不思議な少女がいた。彼女の名前は香織。


 ある年は夜に近くの公園で友達と花火をして遊んでいたら現れ、ある年は部屋の中に突然現れた。普通なら気持ち悪がったり避けたりするだろうが、何故か僕は得体の知れないはずの彼女のことをすんなりと受け入れることができた。運命的な何かが働いていたに違いない。


 そして今年も七月七日がやってくる。僕は毎年この日が来るのを楽しみにしていた。高校最後の夏。今日は高校を休んで彼女のために一日を使おうと考えていた。一年前のこの日に来年はデートをしようと約束していたからだ。


 僕は身だしなみを確認して家を出る。そこにはやはり香織がいた。


「光彦くん。久しぶり」


 彼女は微笑んでからそう言った。


「久しぶり。待たせちゃったかな?」

「ううん。今来たところ」


 どうやって来たのか。それは訊いてはいけないことである気がしていた。だからその点には触れない。


「それじゃあ行こっか」

「うん」


 向かう先はプラネタリウムのある宇宙科学館。彼女がどうしても行きたいというのだ。僕らはお互いにこの一年間にあったことを話しながら移動した。

 側から見たらカップルに見えるのだろうか。でも、僕と彼女は付き合ってはいない。僕はこの不思議な関係をどうにか一歩進展させたいと考えていた。だからこのデートの最後に告白しようと決めていた。


「大事な話があるの」


 プラネタリウムを見終わった後意外にも彼女がそう言った。彼女は近くの臨海公園まで僕を連れて行って、僕たちは海辺のベンチに腰掛けた。


「私ね。この世界の人間じゃないの」


 突然の告白に驚いたが、実際にはそうなんじゃないかと薄々気づいていた。だけどいつも今の関係性が壊れてしまうのが怖くて訊けないでいた。


「やっぱり、そうなんだね」

「うん。私たちはお互いに世界の裏側にいるの。すごい昔にね、私だけがいない世界とあなただけがいない世界に別れちゃったの。でも何故か七月七日だけ二つの世界が重なってこうして会えるんだよ」

「そ、そうなの?」

「信じて。私のお父さんが研究してくれたの」

「そうなんだ……。なら、信じるよ」


 二人の間に沈黙が広がる。どうしよう。デートの後に告白しようと思ってたのに、何故か話がSF展開になってしまった。流石にこの流れで告白するのも考えものだ。僕が今後の展開について考えていると、それを見て心配したのか香織が訊いてきた。


「大丈夫?」

「あ、うん。平気平気」

「あのね。ここからが大事な話なんだけどね」

「え、まだ何かあるの?」


 僕は思わず聞き返す。すると彼女は神妙な顔で話の続きを語った。


「半年後の一月七日。世界に終末が訪れるの。だから、この半年は大事に使ってね」

「え?」


 半年後に世界が終わる?ということはもう彼女と会えないじゃないか。


「それって、本当?」

「うん。本当だと思う。お父さんが言ってた」

「ということは、もう会えない?」

「そうかも知れない……。だからお願いがあるの」

「何?」


 僕が尋ねると彼女は頬を薄らと朱に染めて答えた。


「今日の残りの時間でね、私のこと一生分愛してほしい、かなって」


 その言葉に僕の心は最も簡単に射止められてしまった。


「僕もお願いがあるんだ」

「何かな?」


 言え。言うんだ僕。


「好きです。付き合ってください」

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