フィクション

穴田丘呼

完結

時代というのは変わればかわるものだ。ぼくの家に一通の手紙が届いた。それはダイレクトメールではないようだった。だが名前をみても、内容をみても僕以外の人に宛てた手紙のようだった。だが名前は穴田くん……とある。だから僕なのだがどこか変なのだ。




まあいいやと思いぼくは通読したわけだが、相手が女性の名前だったのでぼくはいろめきだち、兎に角、返事を書いて、そしてまた、返信してくれないかなと思ったのだ。ただ昔いたペンフレンドなら名前はわかるし、記憶もあるが、全く記憶のない名前でぼく宛にきているわけだから、兎に角、通読は必須だ。




「穴田くんごきげんよう。未来はね(この人の名前だ)今日街に出てとんでもない目にあったのよ。穴田くんがさ僻地にいるし、携帯壊れたというからさこうして手紙を書いてるわけだけど、手紙は時代遅れかしら? 私はむしろこの原始的? な方法が好きだわ。だって紙でしょ? それにインク。封筒。可愛い封筒でしょ? ピンク色よ。あ、そうそう私街で忘れ物したの。カフェでお茶を飲んでて、ノートPCを(業務用よ)カチカチしてて、何を思ったのか、それを放置していて、お手洗いに行ったの。そしたらPCがない! 最初PCを忘れたかと。つまりPCを持ってこなかったんだとそう思ったのよ。いやでも確かに私作業していた。そう確信したのはスマホの呼び出し音に出たとき、いつまでPC作業にかかっているの? と鈴里から電話があったからよ。そう確かに私はPCを持ってきた。とりあえず店員さんに聞いてみた。でも知らないという。警察にゆくように言ってはくれたけど、誰か見てないか聞いて欲しかったな。そんで警察行ったけど被害届出しただけ。




警察官は見つかる見込みはありませんね。カフェでPC作業をする人で盗まれるケースが増えてきているんですよ、と言われた。まあ古いPCだし、仕事用だから救われたけど。でもね、意匠、作りこんだ意匠がね。もう私の中にないのよ。デザインて簡単なようで手が込んでいるのよ。だから一度作り上げたものは二度とできないのよ。会社は恐らく100万円は損してるわね。だってあるメーカーの新しいシンボルマークよ? 似たような物はできるけど、同じものは無理。他社との競合で負ける可能性が作り直した意匠にはあるのよ。私凹んだけどもう作らない。私穴田くんも知ってのとおりフリーじゃん? データーを送っておしまい。そんな身の上だから楽なのさ。その代わりなんでも自分でしなきゃならないけど。あ~~~~~もう! 」




手紙は延々と便箋10枚を超えて続いていた。タイピングするのが面倒なのでここで切り上げた。この近原未来ていう娘のことはやはり全く知らない。でも写真なり見てみたくてぼくは返信に長いこと未来の顔を見てないのでどうか写真を一葉送ってくれないかと書き添えた。ぼくは現在、返事待ちだ。僻地とあったが、彼女はどこに送ったつもりだろう。単に郵便局の誤配なら……? いやなぜ誤配でぼくの姓を知っている? いや封筒には穴田丘呼様とあるし、誤配なわけがない。なんだかエキセントリックな気持ちになり、ぼくの住むところが僻地でもどうでも良くなった。彼女はどんな顔立ちだろうか? 彼女はどんな性格だろうか? そしてどこに住んでいるのだろうか? いや封書にはLAとあった。LA? ロサンジェルスか。そんなところまで行けるか? 妄想は膨らむ。ぼくは海外など1度しか経験がない。また飛行機恐怖症だ。そういう心配はあるが、写真が楽しみだ。だがなぜ彼女は僕を知っている? それがぼくにはまったく理解できない。不思議といえば不思議だが、電話はなおったから電話するよ、なんて言って、はて電話番号を失念したと書いて聞いてみるか? またスカイプなどなどを……と考えたり、そうしたことで楽しみを覚えた。かくなき妄想は妄想を呼び、二人が結婚するシーンまで目に飛び込んできた。


ぼくはありえないことがありそうな気がするという何とも言えない切ない夢を見るのが好きなようだ。長らく生きているとこんなことも起こるんじゃないかと、奇跡的な偶然と誤謬が入交そそさくと午睡に夢を見たような心持ちに憧れる。

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フィクション 穴田丘呼 @paranoia

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