第4話 お姉ちゃん、わたしは気付いてしまいました

リセット癖というのは本当によくない。それは、殺人を伴うとますますよくない。わたしが四回目の殺人に手を染めたのは、三回目の殺人から半年後だった。

 その次は、それからさらに三カ月後。つぎは、一カ月後。お姉ちゃんを殺す間隔はどんどん短くなっていき、理由もどんどん些細になっていった。

 まず、二月、高校受験に落ちたとき。次々と知らされる不合格に半ば発狂したわたしは、思わずお姉ちゃんを殺してしまった。殺し方は刺殺。歯磨きをしている途中のお姉ちゃんをおもいっきり包丁で刺した。お姉ちゃんはびっくりした顔を一瞬して、真っ赤な血をお腹から噴き出して派手に死んだ。

 その後、結局因果がねじ曲がり、受験結果は全てが合格になった。私は第一志望の高校に行った。

 次にお姉ちゃんを殺したのは、両親の仲が不仲になったときだ。お父さんとお母さんが離婚をしそうになった。お母さんの口から「私とお父さん、どっちをとる?」と聞かれた時、その声音に有無を言わさないものがあったことを覚えている。わたしは混乱の中、静かにお姉ちゃんを殺せば離婚もなくなるだろうか、と考えた。結果、登校直前のお姉ちゃんの頭の上に、ベランダから植木鉢を落として殺した。打ち所が良いのか悪いのか、お姉ちゃんは一発で昏倒し、あっさりと死んだ。

 もちろん、両親の不仲は改善し、それどころかかえって仲良くなった。お姉ちゃんにそっと殺した理由を打ち明けると、「ナイス」と言われてうれしかった。

 次の理由は些細な事だ。高校でバドミントン部に入ったわたしは、ハードな練習にすっかり嫌気がさしてしまった。かといって、顧問にやめると打ち明けるのは気まずい。わたしはお姉ちゃんを殺してリセットしようと思い、お姉ちゃんを大型トラックの前に突き飛ばした。お姉ちゃんは上半身を盛大に轢かれ、ミンチになった。お姉ちゃんの復活後、わたしは帰宅部ということになっていた。

 次は、お姉ちゃんのためにお姉ちゃんを殺した。学校の帰り道、お姉ちゃんが変質者に暴行されたのだ。検査をすると妊娠していて、お姉ちゃんは泣いた。わたしはお姉ちゃんが辱められたことが純粋に悲しかったし、自分だけの愛しいものを汚されたような怒りも感じた。なにより、お腹に赤ちゃんができてしまったことの取り返しのつかなさが恐ろしかった。お姉ちゃんのためには、リセットするのがいちばんよいのではないかと判断した。そこでわたしは、お姉ちゃんの首に、納屋にあった鉈を振り下ろして殺した。お姉ちゃんの首がぼとっとおちて、部屋中に血が飛び散ったが、お姉ちゃんの復活とともに血痕も消えた。お姉ちゃんが暴行されたという事実も当然なかったことになっていた。

 このころから、わたしはお姉ちゃんを些末な理由で殺すことが増えてきた。学校に遅刻しそうで、先生に怒られるのがいやだった。寝坊したのは自分が悪いが、お姉ちゃんを殺す理由ができたと気付く。わたしは朝風呂に入っていたお姉ちゃんの顔を、渾身の力で湯船の中に沈めて溺死させた。お姉ちゃんが復活すると時刻は朝6時になっており、学校にも当然間に合った。

 お気に入りの服にしみがついたときもあった。わたしは嬉しかった。しみを消すためにお姉ちゃんを殺せる。やった。お姉ちゃんを今日はどうやって殺そうか。スキップをしながら殺人の方法を考え、考え、考えて、ようやく気付く。

―わたしは、今なにを考えた?

 そして、自分が恐ろしくなる。

―わたしは、もはや因果をリセットするためにお姉ちゃんを殺していないのだ。

 だったら、だったらなぜ?

 どうして、わたしはお姉ちゃんを殺す?

―そんなの、決まっている。

―殺すために、殺すのだ。

 わたしは…。わたしは、お姉ちゃんを殺すのに、すっかりハマっている。何度も何度も繰り返す中で、すっかり汚染されている。お姉ちゃんをどうやって苦しめ、どうやって蹂躙し、あるいはあっけなく、命を奪うか―そのことばかり考えている。そして、お姉ちゃんを殺すときが一番きもちいい。お姉ちゃんを殺すために、わたしは生きている。だから、毎日毎日、お姉ちゃんを殺す理由を探している。

―そうだ。わたしはお姉ちゃんを殺したい。それだけなのだ。


 気付いてしまうと、恐ろしくてたまらなかった。わたしは震えた。咽喉の奥からせりあがってくる感覚。わたしは吐いた。何度も何度もえづき、胃の中のものをぜんぶ吐きだした。

 わたしは、わたしが怖い。

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