第2話 寮での出来事

俺は校長先生が引き止める中自分の寮に戻ってきた。


「さっき、システムとか言ってたな」


俺がそう呟くと目の前に半透明のボードが表示された。


【木村 海翔Lv2】

【職業 無限術師Lv1】

【スキル 無限成長Lv1】


これは何だ?職業とは自分の仕事を表しているはずだが、だとすれば俺の場合学生なるはずだ。俺はバイトもしてなかったからな。それにLvとはレベルのことか?あの中学生にもっと聞いておけばよかったな。


俺は先程と同じ言葉を一言一句違わず言うと、半透明のボードが消えた。その後何度か実験を行い俺が発するシステムという言葉に反応することが分かった。


「システムに反応しているのか?」


そこまで分かったのはいいが、この無限術師というのが一向に分からない。無限を司るということか?無限と聞いて真っ先に思い上がるのがブラックホールだ。すると目の前に真っ黒な球体が現れる。俺はその球体をしばらく睨んでから


「これは······ブラックホールなのか?」


当然俺はブラックホールをここまで間近で見た事がないので、これが本物か定かではない。だが話の脈略からして本物と想定した方がいいだろう。だが本物である確証は欲しい。


「ブラックホールであることを証明するなら······」


俺は部屋にある物を適当に投げ込む。するとそれは球体の中に入り込む。


「無作為に吸い込むと思っていたが、そうでは無いのか?それとも俺がこのブラックホールをあやつっているのか?」


実験すればするほど次々と疑問が生まれる。もっと中学生に聞いておくべきだったな。


しばらくして外から悲鳴が響く。俺の予想した通り半狂乱となった生徒が泣き叫んでいるのだろう。もしくは最悪の想定となるが、外のあの化け物、中学生の言葉を借りるなら魔物が侵入して来ているのか。幸いにもこの学校はレンガに囲まれている。よっぽどのことでは無い限り侵入されないだろう。俺が石を投げた程度で倒せたことだからな。


その後も俺は実験を続ける。このブラックホールは俺の意思出自在に動かすことが出来るのか?このブラックホールは形を変えることが出来るのか?俺の任意で消すことや作り出すことが出来るのか?などなど。結果としては俺の想像する最高の結果だった。


まず、このブラックホールは俺の意思一つで作り出すことやしまうことが出来る。そして複数可能だ。しかし出しすぎると俺の頭が痛くなる。そして形はどのような形もとれる。槍のような形や円盤のような形もだ。更には俺がこのブラックホールに吸い込むものを指定でき、それは任意で取り出せることだ。恐らくだが中で消失させることもできる。


「だがまだ実験が足りないな。中から自力で脱出できるのか。その場合時間軸はどのような変化をするのか。やりたいことが多いな」


だがもうひとつ思いつくのは


「やはり永久機関だな」


永久機関について簡単に説明すると、周りからのエネルギーを受けることなく、自発的にエネルギーを作り出す、またはその運動をし続けることだ。何百年も前から実験されているが、とある法則が生まれたことにより、永久機関は不可能とされている。


しかしその物体に無限に力を与え続けることが出来るのなら、永久機関を作ることが出来る。だがあの中学生はここは地球とは異なる世界と言っていた。もしかすると既に永久機関が作られているかもしれない。それにここで新たに生活するにあたっ地球での物の価値観を全て破棄する必要がある。


例に出すなら、日本の場合はとある店のビッグなハンバーガーは400円くらいだが、アメリカの場合は場所によって日本円で1000円近くする。それは日本とアメリカの平均賃金の差のせいだ。しかし日本人がアメリカのビッグなハンバーガーを買おうとした時日本の2倍の値段がするのでとても驚くだろう。しかしそれはアメリカでは普通の値段なのだ。


極端な話、地球では米やパン、麺、芋が主食とされていたが異世界では野菜が主食とされていて、米は高級品かもしれない。


「だが無限のエネルギーには興味がある。だがどのように作れば良いのか」


俺は部屋に飾ってある第一次永久機関(水車のような形に鉄球をぶら下げて、その左右の重さの違いを利用して永久に回り続けると想定されて作られたもの)を取り、それに永久に回り続けるように考える


ブラックホールのときもそうだったが、この無限術師の力を使う時、どのような現象を、どの場所で、どのような効果を発揮するのか、周りにどんな効果を与えるのか、などと細かに考える必要がある。1度型にはめてしまえば、残りはその型を引き出すキーワードがあればいいのだが、初めのイメージがあやふやだと万が一の時に役に立たないことがあるかもしれない。ブラックホールの時は既に先入観があったため、すぐに作り出せたが、初めからイメージを作るのはとても難しい。


何度か試行錯誤をして、その効果を第一次永久機関に与える。効果を与えると言ってもとてもあやふやなもので、目の前でその現象を確認しなければ実際に効果が与えられたと理解することが出来ない。そういえばシステムとか言ってた時に天職という言葉も聞こえてきた。もしかすると魔物を倒せば天職を授かることができて、天職は一人一人違うのかもしれない。ならばできる限り交友関係を広め、強力な天職を持つ者と信頼関係を構築するべきだな。


「ふむ、とりあえずは成功か。だがこれからどのようなエネルギーを取り出すのか。電気の場合はモーターが必要となる。熱の場合は摩擦が必要となる。だが生成したエネルギーもいずれは消える。それはそれで勿体ないな」


ここでふと思った。俺は今の自分の状況を整理したくて1人で寮に戻ってきた。だが外では大人数での話し合い《意見交換会》が行われているはずだ。ならばあの中学生の存在は必須。本での知識だろうが、この世界と何か適応したものがあるなら、その知識は宝となる。ライトノベルを読んでいたものは他にもいるのだろうか?いるならば1人は情報源として確保したいところだが······。


俺は外を覗き見ると、予想通り全員で輪になって話し合っていた。予想外なのがその話し合いの中心にいるのがあの中学生なのだから。俺の印象は人見知りなところがあるようだったが、あの時の知識からしてリーダーになったのだろうか。だがあの場にいるのが全員とは考えにくいな。まだ呑気に授業を続けているのだろうか?


そしてしばらく外を見ながら考えていると外の集団が一斉に寮に戻りだした。しばらくすれば俺のルームメイトも戻ってくることだろう。俺はしばらくこの力を隠していたかった。この世界は地球より文明が進んでいるのか分からないが、少なくともこの近辺に発電所はないと思う。となれば今ある電気を節約して使うのが普通となる。俺の永久機関があればその問題は解決する。だが俺は人から命令されて働くのは嫌いだ。俺がこの力をひけらかせば集団特有の同調圧力で結果的にやることになるだろう。俺はそんなのまっぴらごめんだ。自分の力は自分のために使う。


俺は人から命令なんてされない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園転移の先はただの地獄!? @kimkai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ