第21話 はじめの思い

若菜は雪華たちが帰った後、店内を掃除する。

「わかな、ほんとうに・・・、このまちはどうするの?」

「まだ悩んでるよ。・・・本当にいい町だから。場所やお店の名前は変えるかもしれないけど、ここにいたいって思う。それでも、自分の中では違う町にも行ってみたいって思う部分もあるの・・・。」

「やっぱり、そうなんだ・・・。」

はじめは少し寂しそうに言った。


「せっかとみなとに、おてがみでもかいてやろうかな・・・。」

はじめは人間の文字を読むことは好きだが、書くことはできるものの好きではない。

いわば筆不精だった。

「あれ?はじめくんが手紙を書くなんて珍しいね。」

「うっ・・・、わ、わるい?」

「ううん、良いじゃない。頑張って書いて。」

若菜は笑顔で見守った。


はじめはあれこれ悩みながら、ボールペンを走らせていく。

いつの間にか、ごみ箱の半分はぐしゃぐしゃに丸められた手紙の残骸の山となっていた。

「あー、これもちがう!うーん・・・、あたまのなかがしおしおする!」

「しおしお・・・、新しい表現ね・・・。ちょっと甘い物でも食べて休憩する?」

「そうする!」


はじめは手紙を横にどけ、若菜はアッサムティーとブルーベリーパイを出した。

もちろん、横にはグラニュー糖を添えて。

「ミルクは?」

「ちょうどいま切らしちゃっててね・・・。明日買いに行ってくるから。」

「そっか。ならしかたないよね。」

はじめはミルクティーやカフェラテなど、コーヒーや紅茶にはミルクと砂糖を入れる主義なのである。


「やっぱりブルーベリーパイは美味いよな。これ大好きだ!」

「良かった。あ、でもあんまり食べ過ぎちゃいけないからね。」

「わかってる・・・、けど、おかわり!」

「三つまでだからね!」

「はーい・・・。」

はじめは少し残念そうに返事をした。


―――ねえ、知ってる?


―――――なにが?


―――最近、空き地だったところに小さいカフェがあるんだって。


―――――いいね、行ってみよう!


女子高生たちは嬉しそうにカフェへと向かった。

雪華は女子高生たちがフルール・ドゥ・スリズィエへと向かっていくのを見た。

「きっと若菜さん喜ぶだろうな・・・。それにしても、なにかプレゼントしたいけど、どうしようか・・・。」

「せーっか!」

「・・・うわぁ!びっくりした・・・。浩紀か。」

「浩紀か、ってお前ねぇ・・・。まあいいや。元気そうだね、雪華。」

従兄の宮川浩紀がそこにいた。

彼は本来、遠方に住んでいるはずの人間である。

「どうしているの?」

「仕事だよ。昨日こっちの方で撮影があってさ。今日はオフだから散歩してたってわけ。」

「そうだったんだ・・・。そうだ、最近お気に入りのカフェがあるの。よかったら行ってみない?」

「いいね、行こうかな。」


雪華は浩紀をカフェに連れていく。

「フルール・ドゥ・スリズィエ、これフランス語かね?そういや、気に入ってたカフェも去年の冬から営業しなくなって、店主だった友達も連絡できなくてさ、少し残念だったんだよなぁ・・・。」

「雪華ちゃん、いらっしゃい。」

若菜は浩紀の顔を見て驚く。

「え・・・、瑞紀さん!?」

「え?二人は知り合いなの?」

雪華は二人の間で戸惑った。

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