第20話 湊とはじめ
雪華と湊は、少し残念に思った。
若菜が実家に帰り、せっかく気に入ったカフェに行くことができなくなることと、若菜に会えなくなることに。
「あーあ、せっかく若菜さんと少し仲良くなれたと思ったのになー。」
「しょうがないでしょ、湊。若菜さんだって地元に帰りたい時くらいあるでしょうに。」
「私も、二人とこんなに仲良くなれたから、離れるのは寂しいわ・・・。」
「じゃあ、私手紙書きますよ!住所を教えてください。」
「私の実家の?」
「はい。お手紙出しますから。」
「うちはうんと山奥の森の中だから、結構届くまでに時間がかかると思うのよ・・・。なんだか申し訳なく思って。」
山奥ならば、会いに行くのも難しい。
それもさらに森の中ともなれば、交通の便も考えたら会いに行くことなどほぼ無理だろう。
二人は残念がった。
「また会えるだろうし、今月いっぱいはここにいるから。」
「じゃあ、せめてお見送りをさせて欲しいです。」
「え?」
「あ・・・、迷惑じゃなければ・・・ですけど・・・。」
「嬉しいな、ありがとう湊くん。」
「そうだ!写真撮りましょうよ。みんなで。」
「お、姉貴良いこと言うじゃん!」
若菜も笑って承諾した。
そして、若菜ははじめを呼びに行った。
「はじめって誰?」
「そっか、湊は知らないんだっけ。はじめくんは、若菜さんの親戚の子だよ。」
「ふーん。一緒にここへ来てるんだね。はじめって子も一緒に帰っちゃうのかな?」
「そうかもね。」
若菜に連れられてきた、はじめは湊に警戒する。
「はじめくん、この人は湊くんって言って、雪華ちゃんの弟さんだよ。」
「よっ、俺は近藤湊。姉貴・・・、雪華にここを教えてもらったんだ。よろしくな。」
「・・・よろしく。あれ?せっかってきさらぎっていってなかったっけ?」
「ああ、あれはね。作家としては如月って名乗ってるのよ。お母さんの旧姓が如月だったから。」
「そうだったのか・・・。」
湊はそういえば雪華が作家活動している時のペンネームを知らなかったな、と改めて思った。
雪華という本名はそのまま使っているということだけは知っていたが、苗字にまさか母の旧姓を使っているとは思わなかったのである。
湊ははじめに視線を合わせて話す。
「これから、ここを背景にみんなで写真撮ろうって言っていたんだ。はじめくんも写ってくれる?」
「いいぞ。」
「じゃあ、私がシャッター押すから。並んで。」
「せっか、しゃしんとれるんだ?」
「姉貴、フォトグラファーの助手をしていた時期もあるから・・・、結構写真は撮れるんだ。任せて良いぞ。」
「ふーん・・・。」
はじめは湊の肩に乗る。
「すっかり意気投合しちゃってるね。」
「本当に。気が合ったみたいで良かった。」
雪華と若菜は二人で嬉しそうに話す。
それでも、会える時間は限られている。
湊も来週には地元を離れて自宅に戻ってしまう。
「冬がもっと遠ければいいのにね。」
若菜は寂しそうに言った。
「お別れは寂しいですからね・・・。」
「でも、きっとまた会える気がするよ。」
別れの時は、刻一刻と迫っていた。
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