第19話 深まる秋

Café aux fleurs de cerisierの庭で、若菜は花を植える。

自分の負傷や子どもの零してしまったジュースから生まれた花だ。

不思議なほど、花は生き生きとしている。


そして、夢で思い出したことがあった。

『雪華』のことだ。

雪華は、前の町で仲良くなった青年、『浩紀』が話してくれた人の名前だとようやく思い出したのである。


「どっかで雪華ちゃんの名前を聞いたな、と思ったけど、浩紀くんだったんだね・・・。従妹って言ってたっけ・・・。」

「ひろきのこと?」

「そうそう。はじめくんは覚えてる?」

「うん。だって、わかなが『みずき』ってなのってかふぇ ら ろーざをやってるときに、おいかけられたもん。みちにまよったー!って。」

「どこかで聞いたようなお話ね・・・?」

「せっかにもおなじことされた。」

「やっぱり。」

はじめと若菜は顔を見合わせて笑った。


そして、今日も若菜はマフィンを焼く。

ふわふわと、焼き菓子の甘い香りがカフェの中に広がった。

「今日はマフィンだけど、中身はね・・・。」

「なになに?」

「ブルーベリーのマフィンとチョコチップのマフィンを用意したの。二種類ある方がやっぱり選べていいよね。」

「おれはぶるーべりーだけでもいいけどな。」

「はじめくんはブルーベリーが好きだもんね。」


夕焼け空を眺めていると、びゅうびゅう風が吹いてくる。

「わぁ・・・。寒いっ!」

「もうすぐふゆだな・・・。」

「そうだね・・・。風邪引いちゃわないように、そろそろ部屋に戻りましょう。」

「はーい。」

若菜ははじめと部屋に戻る。

若菜は、部屋に戻る時に少し寂しそうな顔をした。


日記を書きながら、一日を思い返す。

たまたま迷い込んできた人が二人来ただけである。

「それにしても、二人だけか・・・。もう少し遊びに来てくれると嬉しいんだけどね。」

「みんな、ちずがはたらかないっていってるじゃん。」

「うん、・・・そのせいかな?どうしてか、私も分からないんだよね・・・。」

「たぶんだけど、それってわかなのちからがむいしきにはたらいてるんじゃない?こわいひとがこないように、ってしんりってやつ?」

「そうなのかな?わからないけど・・・、工夫してみないといけないだろうね。」


翌日、雪華は湊と共にCafé aux fleurs de cerisierに訪れる。

「あ!雪華ちゃん、湊くん、いらっしゃい!」

「若菜さん、こんにちは。」

「こんにちは、若菜さん!そういえば、今日はスマホの地図が使えたんだ!やっぱりスマホの不具合だったみたい。」

「え?そうなの?良かったぁ!さあ、いつもの席にどうぞ。」


若菜は笑って迎え入れてくれた。

二人はいつものようにカフェの中に入る。

「今日はどうする?」

「あ、私は若菜さんのおススメで。」

「俺も。」

「はーい、ちょっと待っててね。」


若菜は、焼き立てのアップルパイと深みのあるコーヒーを提供する。

「わぁ!今日のアップルパイも美味しそう!」

「コーヒーも深みがあって、秋って感じがする!」

深みのあるコーヒーは、どこか紅葉を思わせる風味があった。


「もうすぐ冬だものね・・・。最近、急に寒くなったわ。」

「もうそんな時期だなぁ・・・。」

「冬は、私の実家に帰るからお店を開けられないのよ。」

「・・・また来年も戻ってきますか?」

「・・・さあ。まだ決めてないの。」

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