第18話 【回想】新たな場所へ

Café à la roseを通し、浩紀の友人たちとも仲良くなった瑞紀。

浩紀はたまに友達とお茶をしにくるし、そのままなぜか舞台のセリフ読み合わせまで始めてしまうほど、Café à la roseを気に入った。


「瑞紀さんはのほほんとしてるし、ここも良い匂いがするし、なんだか癒されるなぁ。」

長い髪の女性、もとい柚子が言った。

「ここだけ、なんだか時間の流れが違う気がする。ゆったりしているというか。」

短髪の女性、もとい亜紀もそう返す。


瑞紀は習ったラテアートを披露する。

「見てみて~。葉っぱだよ!」

嬉しそうに見せる瑞紀に、ラテを見る。

「これ、なんだかどこかで見たような葉っぱだね・・・?」

「ハートっぽい葉っぱ・・・えーっと・・・?うーん、名前が出てこないなぁ。」

瑞紀は笑って言った。

「アオイの葉っぱだよ。ほら、えっと、どこの家だったっけ?有名なところが家紋にしてる・・・。」

その言葉に浩紀たちもハッと気づく。

「徳川家じゃん!あぁ!あのアオイね、なるほど。」

浩紀はそこでようやく納得した。


浩紀はその晩、久しぶりに従妹の雪華に連絡した。

雪華の母と浩紀の母は姉妹であり、浩紀の母が姉である。

浩紀自身も、雪華よりは二つ年上である。


「よっ、久しぶりだな。」

『浩紀、久しぶりだね。どうかした?また舞台出るとか?』

「実はちょい役ならたまに出てるぞ。そっちはどうだ?小説書いてるんだろ?」

『まあね。相変わらずだよ。』

「そっかそっか。また暇なときに遊びに来いよ。最近、良いカフェ見つけたんだ。多分、雪華なら好きだと思うぞ。」

『え?本当に!行きたい!』

「また来るとき連絡して来いよ。うちに泊まればいい。僕、まだ実家にいるからさ。」

『わかった。また行く時は早めに連絡するね。教えてくれてありがとう。』


少し他愛のない雑談をして、電話を切った。

浩紀は雪華が遊びに来るその日を楽しみに待ちつつ、自分の課題をこなしていった。


Café à la roseで、浩紀は瑞紀に従妹に宣伝したことを話した。

「うちの従妹がおしゃれなカフェが大好きで、瑞紀さんの話をしたら、すごく行きたい、浩紀だけずるい、って言うんだ。」

「ふふ、面白い従妹さんね。いつか来てくれると嬉しいけど・・・。」

「きっと、そんな遠くないうちに来るとは思うんだ・・・。」

「でも、もうすぐ冬でしょう?冬は私も実家に帰らなくてはいけなくて。」

「そうだったんだ・・・。」

「どうしても、親がうるさくて。ごめんなさいね。」

「来年の春も、戻ってくる?」

「そうねぇ・・・、まだどうするか、考えてないの。」

「そっか・・・。」

「もし、ここに戻ってこなくたって会えるわよ、きっと。」

「そうだよね!」

浩紀と瑞紀は一緒になって笑った。


やがて、町は冬になる。

瑞紀は森へと帰っていき、焼き菓子を練習したり、お茶をうまく淹れる為の練習をしたり、ラテアートを練習した。

新たな町に旅立つ前に、いつも冬の森で妖精たちを相手に修行しているのだ。

「・・・次の町では、なんて名乗ろうかな・・・。そうだ、初心忘るべからず、若って漢字を付けたいから、若菜にしよう。」

「精霊様、今度はどこに行くの?なんて名乗るの?」

「うふふ、今度はね・・・」


「・・・なー?わかなー!あさだよ!」

「わっ、いけない・・・。あのまま日記抱いて寝てた・・・。ごめんごめん、寝坊しちゃったよ。」

「しっかりしてよ!」

「はいはい、じゃあ、すぐ朝ごはん作りましょう。」

Café aux fleurs de cerisierでの新たな一日が始まる。

【回想編 終 次回より本編へ】

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