第17話 【回想】Café à la rose

瑞紀は、飲み物をメインに焼き菓子を提供するというスタンスに変更して、小さなカフェをオープンさせるべく奔走した。

メニューの数を絞れば、何とか失敗なども減って迷惑をかけずに済むと考えた末の行動である。


ようやく、Café à la roseの準備は進んだ。

木の小さな机、同じく木の椅子、ウッドスタイルのこじんまりとしたカフェになり、店のところどころには小さな花を飾る。

どこに飾っていてもやはりメインであるバラは必ず真ん中に生ける。


数日後、カフェはひっそりと開店を果たした。


だが・・・。

「お客さん、来ないね・・・。」

「せんでんがへただもんな・・・。」

「ひとにはみられたくないけど、せんでんはしないと・・・。」

「どうしたら良いんだろうね・・・。・・・あ!そうだ!」

瑞紀は浩紀や日雇いで知り合った友人たちを招待することを思いついた。


そこまで思いついたのはいいが、瑞紀には連絡手段が限られていた。

機械音痴でスマホを持っていなかったのである。

仕事をするにも、連絡で電話だけ出来たらそれでいい、と瑞紀は思っていたので、ガラケーを持っていたのであった。


とりあえず、浩紀や友人たちに電話で聞いてみた。

『はい、宮川です。・・・あ、瑞紀さん。え?カフェオープンしてるんだ?じゃあ行きたいな。友達も連れて行っていい?』

「もちろんです、みなさんでいらっしゃってくださいね。ちょっとわかりにくいと思うので、駅で待ち合わせしませんか?」

『そうですね、じゃあ、明日でもいいですか?』

「もちろんです!じゃあ、明日の・・・」

瑞紀はちゃんとカフェへ人が来てくれることになって嬉しくなった。


さすがに、いっぺんに大勢来た場合は対応が難しいな、と瑞紀も薄々思ったので、今回は浩紀と浩紀の友人たちを優先することにした。

翌日、瑞紀は浩紀と待ち合わせした駅で合流した。

浩紀と、他にも男女数人一緒にいる。

「浩紀さん!みなさんもこんにちは。今日はありがとうございます。」

「あ、瑞紀さん!」

「浩紀、この人が瑞紀さん?」

「そうそう。たまたま仕事で知り合ったんだよ。」

「へぇ、そうだったの。」


話しながら、道中を歩く。

「こじんまりとしているんだね。」

「あまり、大きなスペースだと私も手が回りそうになくて。実は結構おっちょこちょいなの・・・。」

「なんか、従妹思い出すよ。」

「あー、浩紀んとこの、えっと、雪華って子だったっけ?」

「そうそう。雪華もドンくさくて。でも、それが愛嬌というか、憎めないんだよな。」

「そうなの?いつか会ってみたいなぁ。」

瑞紀はふふっと笑いながらカフェに案内した。


<Café à la rose>と書かれた店に、浩紀たちも驚く。

「凄いなぁ!なんか、ハイキングの休憩所みたいな感じ。確かにこういう感じだと、ちょっとわかりにくいかも。でも、素朴で好きだな。」

「おしゃれだよね!中に入ってみたいな。」

「あ、いっぱいお花が咲いてる。私、ここ気に入っちゃった。」

女性陣は、花や外観をすっかり気に入ったようで嬉しそうだ。

瑞紀はその表情を見たかっただけに、とても嬉しく思った。


瑞紀は店の中も案内する。

「わぁ!お花が生けてあって、可愛い!それに、良い匂いがする。」

「バラにこだわってみたんです。でも、きつくなり過ぎないようにラベンダーとかを一緒に生けて調整したんですよ。お店の名前もバラって意味ですから。」

「そうだったんですね。でも、やっぱりおしゃれ!」

「ミントが添えてあるな、って思ったけど、それも調整だったんだ・・・。凄いな。」

「僕も、本当に負けていられないよ。瑞紀さんは夢を叶えてるからね!」

浩紀は一人、さらに息巻いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る