第16話 【回想】和解と・・・

地震が起きたのではないか、そう思うほどにいきなり、家は大きく揺れた。

「みずき・・・、こわいよぉ!」

泣きじゃくって怖がる子ども達に、瑞紀はハッとする。


「あ・・・、ご・・・、ごめんね。でも、どうして二人ともケンカなんてしたの!」

瑞紀は慌てて子どもたちに謝ってまきととはじめを叱る。

「だって・・・。さいきんみずきげんきがないんだもん。」

「だから、おこらせてどなってくれておおきいこえだしたら、すこしはきがかるくなるのかな?っておもってまきとをけしかけたんだ・・・。」

「・・・そんなに元気ないように思った?心配かけちゃった私が一番悪いけど・・・。」


「だって、みずきためいきばっかりだもん!」

「そうだよ!」

「そんなに?自覚なかったよ・・・。」

「みずきは、ぼくたちにとってだいじなせいれいさまだもん。」

「ありがとう。でも、それはここじゃ言ってはいけないって約束でしょう?」

「でも、ほんとうにせいれいさまだもん。」


「ところで、私がなぜ人間のカフェにこだわってるか、忘れてないよね?」

「うん、おぼえてるよ!」

子どもたちは笑って答えた。


それは忘れもせぬ、ある春の日。


かつて、瑞紀は町から遠く離れた、とある森の木に宿った『精霊』であった。

もちろん、今の瑞紀の名すら本名ではなく、本名は人によってさまざまな解釈をされていた。

森の中で人間の女性たちがコーヒーを香らせ、お菓子を頬張り楽しそうに話す姿を楽しそうに見守っていた。

『いつか、自分も彼女たちの幸せを応援できるカフェ、というお店を開いて、人間と仲良くなりたいな・・・。』

『精霊様、人間とお友達になるの?』

子どもたちは、彼女に仕える『妖精』である。

『うん、なりたいよ。』

彼女は笑って答えた。


そして、彼女たちの姿を観察して人間へと擬態をし、親の許しを受けて森を飛び出した。

不思議な力まで封じることはしなかった、というよりかは、人間がそういった力の類を持っていないというのを知らなかったのである。

彼女の調査不足ではあったのだが、妖精たちは彼女のおっちょこちょいな性格もしっかり把握していたので後でこっそりと教えたのである。


「コーヒーというのは、どうやって淹れればいいのかしら?紅茶は・・・。」

「そこから勉強しないといけないのか・・・。精霊様には難しいんじゃない?」

「だから、冬の森で修行するのよ!父親には、冬は帰ってこないといけないときつく言われているし。」

「最初の年は、人間が生活するために必要な『おかね』を稼ぐところからだろうね。」

「そうだ、カフェってお店でもきっと働けるはず!そこで修行すればいいのよ!」

彼女は目を輝かせて言った。


元々木の精霊である彼女は、木を住処にしなければならなかった。

人間に擬態した時は小柄だが、体質的に身体が普通の家では合わないのである。

「人間のおうちって、森が常に隣り合わせってわけじゃないのね・・・。空き地の朽木、これならちょっと力を遣えば何とかなりそう・・・。」


様々な町をほぼ一年で点々としていたのも、大抵秋になるとうっかり人の前で力を使ってしまい、迫害されることを恐れ、老けることがない自分を怪しまれないようにする為でもある。

だが、どの町でも大抵は穏やかな彼女の性格が受け入れられ、友達は必ずできるのである。

うっかり力を使っていても、なぜか受け入れられてしまうことも多々あったが、元々どこか浮世離れしていたらしい。


木であれば、好きなように形を変えられるという力は彼女の得意としている力であったので、憧れであるカフェは必ず木を基調とした、ログハウスのようなこじんまりとしたカフェであった。


だが、Café à la roseを開こう、そう言っている町は今までとは勝手が違う。

なぜだか、うまく料理が作れないので瑞紀は困っていた。

「いっそいつもと違うスタイルを試してみようかしら。」

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