第8話 不思議な花

若菜は、大慌てで手を止血する。

ガシャン、と音がしたのでそこを見ると、子どもが驚いてジュースをこぼしてしまっていた。

「あらあら。ケガはしてない?」

「だいじょうぶ。わかな、こぼしてごめんなさい!」

「良いのよ。ケガがなくて良かったわ。ほら、泣かないで。」

子どもがぽろぽろ涙をこぼすと、そこには水たまりができた。

ジュースが零れた場所からは、黄色い花やオレンジの花が咲き始める。


「明日、この花は庭に植えてごまかさないといけないわね・・・。」

「まだ、せっかはわかなのことをしらないの?」

「そうよ。まだ教えていないわ。だって・・・、大事な友達だけど、避けられるのは辛いから・・・。」

「ふーん。」

「人って生き物はね、自分と違う能力を持っていると怖がるから・・・。私も、それでいつも辛いって感じてきた。雪華ちゃんなら分け隔てなく接してくれるかもしれないけど・・・、それでも話せないよ。怖いもの・・・。」

「わかな、でもおれたちがいるからさ。」

若菜はその言葉に笑って頷いた。

いつもよりかは、少し表情は暗かったが。


「わかな、おひっこしはたいへんだからいやだよ!」

「そうね、しばらくはここに住めるから安心してね。」

子ども達はその言葉に喜んだ。

「みんなはこの町が気に入った?」

「うん!まえのまちよりここがいい!」

「ぼくも!」

「わたしも!おみずがきれいなんだもの」

「おはなもきれいだよ!」

「そう、良かったわ。ここは、良い場所だもの。」


子ども達は若菜を囲んだ。

「わかなー、だいじょうぶだよ。」

「ほかのまちでわかなをいじめるひとがいたのはこわかったけど、ここにはそんなひとはいないから。」

「だからわかな」

「げんきだして!」

「みんな、ありがとう。さあ、そろそろお店を片付けましょう。手伝って。」

「はーい!」

子どもたちは喜んで若菜を手伝った。


そして、片付けが終わると、子どもたちはフルール・ドゥ・スリズィエの屋根を上り、木々の間へと潜り込む。

「わかなー、またね。」

そして、子どもたちはひと際強く一度発光して姿が見えなくなる。

「ええ、おやすみなさい。また明日ね。」


若菜は、日記帳を開く。

そして、今日あったことを書き留めていく。


「あとどれだけ、この町にいられるかしら・・・。」

暑い季節も過ぎ、日中は程よい気温だが、もうすぐ寒い冬がやってくる。

若菜は冬の間は行動することが困難な体質でもあった。

「冬の間、どうしても営業は難しそうね・・・。」

昼間、雪華たちの会話をたまたま聞いてしまった。

『今年はうんと寒くなりそうだね・・・。』

『俺も寒いの嫌いなんだよな・・・。』

『湊は寒がりだものね。私は嫌いじゃないけど・・・、大雪にならなきゃ良いかな。』

『雪は見るだけで十分だ!』


若菜は、以前も違う町でカフェを開いていた。

そして、冬の間は常に営業休止をしていた。


ぱらぱらと日記をめくると、以前の町の記録までたどり着いた。

以前、違う町では「Café à la rose」という名前でフルール・ドゥ・スリズィエのようなカフェを営業していた。

自分の名前も少し変えて。

そして、若菜は目を閉じると、その時のことを思い出した。

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