第7話 若菜の力
カチカチ、と音を立てて、湊はまだ躍起になって地図アプリと格闘している。
「もう諦めなさい・・・。」
雪華は苦笑いして止める。
「やだよ!今度は一人でもここに来たいし。」
「何度やっても読み込まないみたいね・・・?私も原因がわからなくて。ごめんなさいね、湊くん。」
若菜も困り顔で言った。
「そもそも、なんで姉貴はここに辿り着けたんだ?」
「えっとね・・・、実は、曲がり角を曲がる位置を変えて遊んでいたらたまたま道に迷っちゃって・・・。それで焼き菓子の良い匂いがしたからそこにつられて来ちゃったっていうのが最初だったよ。」
「・・・姉貴、それはただ方向音痴の食いしん坊だろ。けど、それがこんな良いカフェに辿り着くから侮れないな。」
「それはバカにしているのかしら?それともまさか褒めているのかしら?」
「それ、どっちを言っても家で取っ組み合いのけんかになる奴じゃん。俺は褒め半分呆れ半分、って感じて言っているけどさ。」
「ケンカはだめよ。」
若菜は笑いながら止めた。
ようやく湊も地図アプリを諦め、また後日遊びに行くことにして今日は帰宅する。
「おもしろい姉弟ね。次はいつ来るのかな?」
「わかなー!」
「あら。いらっしゃい。」
若菜は子どもたちを迎え入れた。
子どもたちは相変わらず、きゃっきゃとはしゃぎまわる。
「わかなー、おやつ!」
「はいはい、ちょっと待ってね。」
「きょうはなぁに?」
「ブルーベリーマフィンよ。」
「わぁい!」
子どもたちは喜んで飛び跳ね回った。
「お利口さんにしてようね?またマフィン落っことしちゃったらいけないから。」
「はぁい!」
子どもたちは大人しく椅子に座った。
「わかなー、おてつだいするー!」
「まほーつかってもいーい?」
「ちょっとなら良いわよ。気を付けてね。」
若菜は子どもたちを監督しながら、ジュースを用意する。
「おさらうごけー!」
一人の子どもが魔法を使う。
するするとお皿が動き出した。
すっと机の上をすべるように。
そして、机の真ん中で止まったお皿の塔は子どもたちの前に一枚ずつ降りてくる。
「すごいすごーい!」
「コップもうごけー!」
違う子どもが同じように魔法を使いだした。
若菜がそこにジュースを継いで回る。
「わかなー、きょうのジュースはなんのおはな?」
「うふふ、飲んでからのお楽しみ。」
若菜はマフィンを配る。
「さあ、いただきますをしましょうね。」
「いただきまーす!」
子どもたちは喜んでマフィンを頬張る。
そして、ジュースを飲む。
その姿に、若菜は昼間の二人を重ねる。
そしてついぼーっとしてしまった。
「わかなっ!」
「あっ・・・。」
若菜はうっかりグラスを落として割ってしまった。
「いけないいけない・・・。あいたっ!」
手からほんのりと血が垂れた。
その血から、赤色の花が芽吹きだした。
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