第5話 思い返せば・・・

雪華が帰り道に出て、若菜は食器を洗う。

はじめと同じぐらいの子どもたちが、次々と店に入ってきた。

「まあ。もうみんな来たのね。」

はじめは体が発光する。

そして、子どもたちに紛れてきゃっきゃと騒ぎ始めた。


若菜は、食器を片付け終えてから椅子に座る。

「人のふりをしている、というのも大変ね。」

気を抜いた若菜の体も薄く発光しはじめる。

「わかなー、きょうはどんなおはなししてくれるのー?」

「ふふ、今日はね・・・」


若菜は楽しそうに今日の出来事を話す。

庭の花を植え替えたこと

雪華が遊びに来てくれたこと

はじめは否定したが、様子を見る限り雪華と親しくなってくれそうなこと

美味しいブルーベリーパイができたこと


「わかな、わかってるよね?」

はじめだった光の子どもは若菜に低い声で言う。

「・・・うん、わかってるよ。ここには長くいられない。」

「せっかはわるいやつじゃないよ。でもなかよくなりすぎるのは」

「分かってるよ。雪華ちゃん、本当にいい子だもの。」


――ねぇ、知ってる?この町の不思議


 ――え?何か気になる!教えてよ!


――町の奥にね、いつの間にか森ができてるらしいの。あそこ、2年前までただの空き地だったのにね。


――なにそれー!ちょっと怖い!


――もしかしたら、あのカフェに関係してるのかもね!


きゃっきゃと話す女子校生たちが通り過ぎる。

雪華はその言葉に、ふと思い出す。

「そういえば、あの森・・・、今までなかったよね。若菜さんのお店に通うようになって、忘れていたけど。」


カフェ フルール・ドゥ・スリズィエの側には、大木がある。

その陰にたたずむかのように、ひっそりとカフェがあるのだ。


なぜ空き地が急激に森になったのか、それを考えると不思議に思う。

「そんなに数年で森になったりするような木があるのかしら?」

雪華は気になり、図書館へ向かった。


樹木の図鑑を見てみる。

「桜は思ったより生育が早いし、楠や松もそうなんだ・・・。」

思い返してみれば、確かにそういった木の方が多いような気がする。

「そう考えると、案外理にかなってる・・・。不思議だけども・・・。誰が木を植えだしたんだろう?いつ若菜さんたちはそこにカフェを作ったんだろう?」

ますます疑問は深まるばかりだった。


雪華は疑問を抱えつつ、一度家に帰宅する。

「あ、やっと姉貴も帰って来たな!」

みなと!いつ戻って来たの?」

「へへへっ、さっき。」

湊は雪華の弟で、仕事の都合で一人暮らししている。

今日は久しぶりに実家に帰ってきていたようだ。


「そうだ、姉貴。今度姉貴の書いた小説、読ませろよ。」

「うん、原稿なら部屋にあるから後で渡すね。」

「それとさ、最近妙な噂聞いてよ。」

「うん、どうしたの?」

「なんか、異世界に繋がるカフェがあるとかなんとか。姉貴、カフェとか好きだから面白いカフェがあったら、俺にも教えてくれよ。」

「うん、良いよ。もし時間が合うなら明日行く?」

「やった!連れてってくれよ!」

雪華は喜んで頷いた。

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