第4話 少年の名は

今日も今日とて、雪華は散歩に出る。

もちろん、目的地はただ一つ。

カフェ フルール・ドゥ・スリズィエだ。


雪華は意気込む。

「今日こそは迷わないぞー!」

ここ最近、何となく自分が方向音痴な気がしてならない。

先日からたびたび町の中で見事に迷子になってしまって、自信を喪失していた。


「うーん、いつもなんでこうも迷うんだろうか?あ!あの森は・・・」

若菜は庭の手入れをしているようで、雪華の接近に気付かない。

花を植え替えていたようだ。


「あ!若菜さーん!」

「雪華ちゃん!来てくれたんだね!嬉しいよ。」

「わかなー!今日のおやつは?」

「あ、この前の!」

「ゲッ、この前の・・・!また来たな!」

「コラッ!大切なお友達なんだから、そんな意地悪言っちゃダメでしょう!」

若菜は子どもを叱った。


「私、如月雪華っていうの。そういえば、キミはなんて名前?」

「名乗る名前は・・・はいはい。はじめだよ。四条はじめ!これで良いんだろ?」

「良くできました!はじめくんは私の母方の親戚の子なのよ。」

若菜はそう言ってはじめの頭を撫でた。

「わかなー!ガキ扱いすんなよ!」

はじめは反発する。

だが、外見はどこからどう見てもまだまだ少年である。


「そうだ、そろそろ焼き菓子ができる頃だから、中に入って待っていて。」

「はい。じゃあ、はじめくんも一緒に行こうか。」

「はいはい、一緒に行ってやれば良いんだろ?ったく!」

「はじめくん!」

若菜はニコニコ笑いつつ宥める。


「今日はブルーベリーパイだよ。」

「やったー!大好物だぜ!」

「はじめくんはブルーベリーが一番好きだもの。」

「そうなんだね。私も好きだよ。」

若菜は二人にブルーベリーパイを取り分ける。

「今日はアッサムの紅茶がおすすめだよ」

「じゃあ、私はそれでお願いします。」

「おれはいつもの。」

「はいはい、ちょっと待ってね。」


若菜ははじめにコーヒーを出す。

そのコーヒーからは、コーヒー特有の香りとふんわりと柔らかい香りがした。

「フルール・ドゥ・スリズィエ特製ブレンド、これでしょ?」

「これが一番好き。わかなー、ミルクも!」

「ちょっと待ってね。すぐ出すから。」

はじめはその間にスプーン一杯のグラニュー糖を入れていた。

「ぶらっくってのは苦すぎて嫌いだ。」

「はい、ミルク。まだ熱いから気を付けて飲むのよ。」

「あちっ!あちあち!」

「言った側から・・・。」

若菜は苦笑いした。


はじめはなかなか雪華と話そうとしない。

雪華は、はじめが人見知りなのだろう、と思うことにした。

だが、ブルーベリーパイを喜んで頬張る姿は可愛らしいと思った。


「雪華ちゃん、良かったら少し持って帰る?」

「良いんですか?わーい!」

若菜は喜んで持ち帰るように詰めてくれる。

「わかなの菓子は芸術品だから大事に食えよな!」

「うん、ありがとうね、はじめくん。」

「礼ならもっと言ってくれてもいいぜ!」

「あはは、ありがとう。」

雪華は笑ってお礼を言う。

二人が少し仲良くなったことに、若菜はホッとした。

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