こんなぼくでごめんね 🐻
上月くるを
こんなぼくでごめんね 🐻
頑丈な
冴えざえと澄みきった、冷たい晩秋の……。
夏、あれほどにぎやかだった高原の街は、いまは、うそのようにしずまりかえり、赤や黄色の落葉には、仔熊の好きなドングリの実がどっさり埋まっています。🍁🍃
*
檻のなかの仔熊は、黒くて丸い目に、いっぱいのなみだを溜めて言いました。💦
――かあさん……ごめんね。
こんなぼくで 、ごめんね。
(。-人-。)ゴメンネ ゴメンネ……。
ヒトに見つかったとき、兄さん熊はさっと逃げてしまいましたが、足の遅い弟熊はえっちらおっちら足をもたつかせているうちに、麻酔銃で撃たれてしまったのです。
ぼんやりの自分のため、かあさんまで……そう思うと仔熊は悲しくてなりません。
そんな仔熊をほほえんで見守っていたかあさん熊は、やさしく言い聞かせました。
🌟
あのね、ぼうや、よくお聞きなさい。
おまえはおまえのまんまでいいのよ。
自分で気づいていないだけ、おまえにはおまえにしかない、良いところがいっぱいあるのよ。そうなの、おにいちゃんにおにいちゃんならではの美点があるようにね。
熊の仲間はみんな……いいえ、熊だけじゃない、あらゆる生き物の個体がそれぞれの個性を目いっぱい輝かせて生きている、それがこの地球という名の水の星なのよ。
毎晩、おやすみの前に読んでいる『赤毛のアン』を思い出してごらんなさい。
赤い髪が一番のコンプレックスだったアンが、内緒でつかった染め粉のために妙な緑色の髪になってしまったとき、はじめて、赤毛のすばらしさに気づいたでしょう?
主人公のアン・シャーリーだけじゃないわ。
アンのまわりにいる人たち……そうね、たとえば、養父母のマシュー・カスバートとマリラ・カスバート、ふたりの友人のレイチェル・リンド、アンのライバルにして気の合うボーイフレンドで、父親を亡くして孤児になったギルバート・ブライスや、幸福な家庭と美貌に恵まれ、幸せいっぱいに見える親友のダイアナ・バリーだって、だれもがみんな、すてきな美点と、表裏一体の劣等感をあわせ持っているでしょう?
あの物語の舞台は北米のカナダだけど、遠く離れた日本にしても同じことなのよ。
わたしたちが住まわせてもらっている地球という星は、さまざまな生き物の多彩なパーソナルを、そっくりそのままで受け入れてくれる、ふところの深い惑星なのよ。
だからね、おまえたち兄弟も、自信を持って堂々と生きていってほしいの。
そのままのおまえとおにいちゃんこそが、かあさんの大切な宝ものなのよ。
🌟
黙って話を聞き終えた仔熊は、小さなからだを丸め、どしんとかあさんに体当たりを食らわせました。ほかにうれしさの表現のしようが見つからなかったからです。🐻
無心にじゃれ合う親子の熊を、湖のように透き通った満月が淡く照らしています。
****
つぎの日の未明、早起きの小鳥がそろそろ鳴き始めようかというころ……。🐥
野生動物とヒトの共生活動を行っているNPO「アボンリー」のスタッフがやって来て、檻のなかの親子の熊に「唐辛子入りクマスプレー」のお仕置きをしました。👀
(くしゅん、くしゅん。あ~ん、かあさ~ん、おめめが痛くてたまらないよ~💦)
(くしゃん、くしゃん。ぼうや、ちょっとの我慢よ。すぐ治るからね、よしよし)
檻ごと熊の親子をトラックに乗せて、ヒトが入れない山の奥まで連れて行くと、
「いいかい、きみたち、二度と里へ降りるんじゃないぞ。わかったな? 約束だよ」
しつこいほど言い聞かせておいてから、ようやく檻の扉を開けてくれました。🚚
一度もうしろを振り返らず(当然といえば当然ですよね(笑))そろって背を丸めた親子の熊が一目散に駆けて行くその先には、心配顔の兄さんの熊が待っています。🐻
****
えっとですね~、お仕置きに懲りた熊の親子はいまごろ、山のドングリをたっぷり食べて脂肪を蓄え、来るべき冬眠に備えているはず……と思いますよ~。(´▽`*)
(ちょっと思わせぶりな〆のヒントは、かあさん熊の台詞にあったりします。(笑))
こんなぼくでごめんね 🐻 上月くるを @kurutan
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