lollipop
娘は汚れた顔に擦り傷を作り、目だけガラス玉のように光らせて、泥の中を熱心に探っている。先月お友達とお揃いで買ったドレスの裾はグズグズで、しかもさっき木の枝に引っかかってほつれてしまった。この公園の土は洗濯で落ちないという情報が母親達の間で共有されている。よりによってこの公園で、何を見つけてしまったのか。
獲物はどうやらトカゲらしい。虹色に光る尾が掌の上で踊っている。本体は何とか逃げ切ったようで、這った跡が残っている。可哀想に。花壇の縁でのんびり日光浴でもしていたのだろうに、フリルのついた獣に追い立てられ、泥に塗れて尾を失ってしまった。
娘は掌の上を見ている。 ガラス玉に青くうごめく尾が映る。もう暫くしてトカゲの尾が動きをとめた時、娘はドレスの惨状にふと気づくだろう。泣くだろうか。私はなだめるための何かを持っていただろうか。リュックの中を探ると飴が一つあった。
この子は私に似ている、と半ば諦めを含んで思う。私も小さい頃から好奇心旺盛で怪我ばかりしてきた。なぜ花は咲くの?なぜトカゲはいつも尾を切って逃げてしまうの?なぜ私はフリルのスカートを穿いて、それを脱がされるの?世界のもう半分を知りたくてたまらなかった。それを知るために泥だらけになり、目を光らせてトカゲのように走り回った。切り落とした尻尾から泥が侵食して、いつしか私自身の中が泥沼になった。
そういう私の中の泥沼を、矛で掻き回して、その先から滴る雫でできたのがあの子だ。
私たちは泥でできている。
お友達が一緒に着ようと言ったドレスではなくて、その泥と傷こそが、自分が本当に欲しかったものだったのだと、彼女がいつか気づくといい。長く苦しまないように、と飴を手にする。
忘れられた箱 まの @manomari
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