丘の向こうに消えてゆく



三角谷の端っこにわたしの家があって

そこで水汲みしていると

朝日が昇ってきて

ひび割れたわたしの右手、

彩る

色彩が貫通して手のひらの影に虹色のうつすから

そうやって草の上で、

膝を抱えていつまでも眠っていたい

わたしを

姉が呼び止めて殴られた

小さな言葉で託された

弟のなきがら

みたいな顔してねむってるはなみずを

スカートでぬぐう





幻が水に裂けて

だんだん、

今日の働きを終えた子供たちが、

丘の上へのぼっていく、ダンボールを広げたコースターで

坂を滑る遊びをしながら

遠くの空を見ていると、日と星が落ちてくる

「みてあれ」って

指さした向こうから、出稼ぎでボロボロになった皮膚で、

頭を撫でてくれる、大人たちと手をつないで家路についた

わたしの手は誰もつかんでくれない


子守の、得意な姉になりたかった

守られるばかりのわたし

をぶんれつしたい

そういって一緒にシチューを囲む食卓





夜半に目が覚めて

体が割れていく、ゆびきり、寒さが、少し空いた窓から差し込んできた夜が、本当に寂しい


 /さみしさが一人歩きして、二階のベランダに上がる

 わたしの

 体が前に歩く


星で溢れているから、一人で踊ってもこわくない

けど、弟が起き出してきて、わたしをみている

のをみているわたしをみて、泣き出した、弟を、なだめるわたしは、わたしじゃ、どうにもならないから、夜に、


みんな起きだして



わたしが、お下がりである事、



夜は、



夜であることを思い出すまで、



また、

朝日が昇ってくるように

姉が

呆然とするわたしのこころの外側を抱いてくれる





 思いついた言葉で、夢を占おう、何もない水たまりに、ちぎった花束をとかそう、ばらけた赤い花弁を両手ですくい上げて、唇にしよう、手をつないだ弟、指に加えた音を風でかわかそう、水を組み上げるわたしの手、泣いてしまう弟の涙、そういうのみんな、みんな丘の上から流れていく比喩、きっと、朝日がこうして昇るから、その度におもいだす、不甲斐なさと一緒に流れてしまう、削がれ落ちた透明な手のひらのひふがはがれおちて、おとなたちが帰ってくる前に、ダンボールにまたがって坂を下った、やけくその野原を駆け巡るか細いこころで、





妹が生まれるという知らせが、大きくなった弟の耳に、

初めて入る時の音

思い出がよみがえる、


透明になって消えた、

あの坂の上の、

丘の向こうに、消えていった

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