第3話

 対戦相手は一名を取り留めたが、内臓破裂、肋骨粉砕骨折でかなり危険な状態だったらしい。

 もしこれで肋骨が粉砕ではなく折れていただけだったら、肺に突き刺さり、確実に命はなかったという。


 それで、


「お金の請求ならお断りします。俺は何も悪くないので」


 あのジムの俺を誘った男がうちまで来ていた。俺の隣にはなぜかカズアまで。まぁ、心強くはあるが。


 この男、米沢というらしい。あのジムの経営者だそうだ。


「いえ、その件はすでに解決済みですので……」

「だったらなんだ?」

「もう、ヨウくん。それで、そんなかしこまってどうしたんですか?」

天條てんじょうさんに、ぜひうちのジムの会員になっていただきたく思い、今回は訪問させていただきました」

「断る。帰れ」

「待ってください!!」

「待たん。入る理由はない。帰れ」

「これを見てください!」

「見らん。帰れ。あっ」


 勝手にカズアが差し出された一枚の紙を受け取ってしまった。


「もう、ダメでしょ。そんな無下にしたら。なんですかこれ?」

「もしご入会いただいた際に、うちがお支払いできる報酬になります。」

「えっ!? 見てみて!」

「だから見らんし入らんと言ってるだろ」

「すごいんだよ! たまに試合に出るだけで月30万だよ!?」


 ほう?


「うちは小さいジムですので……そのくらいしかお出しできませんが、もし人が増えてくれば、さらに報酬をお支払いさせていただく所存です!」


 なかなか面白い条件じゃないか。高校生の30万は正直魅力的な数字だ。


「ほう、それで試合の頻度は」

「月に二、三回出ていただこうかなと考えているのですが……基本、これでも休みは多いくらいでして!」

「帰ってください」

「「え?」」


 言ったのは俺ではない。カズアだ。


「ヨウくんは忙しんです。月に二、三回も時間は取れません!」

「はぁ、ここ最近週末はずっとお前に付き合ってただろ。暇ならいくらでも……」

「とにかく帰ってください!」

「いやしかし……ご本人様は……」

「はい! りま! せん! ヨウくんは絶対に入りません! 帰んないなら警察呼びますよ!」

「ま、待ってください! で、でしたらせめてこれに出ていただけませんか!? もし出ていただけるのであれば、」

「帰ってって言ってるでしょ!」

「あ、あ、あ、ああああ」


 カズアに押されて玄関まで強制的に退去させられる男。

 その手から滑り落ちた紙を手に取ってみた。


 メイ・ウェイザー来日、勝ったら……1000万円……?


「カズア、待て」

「ご存じですか!?」

「これなら出てやってもいい。ただし二度と勧誘にくるなよ」

「ほんとですか!?」

「え、え、そういうこと!? どういうこと!? ヨウくん!」

「ただし条件がある」


 ****************


 メイ・ウェイザー。言わずと知れた世界最強のボクサーだ。


「ニュース見たか!? メイ・ウェイザーが日本に来るらしいぞ!!」

「マジかよ?」

「ほんとだって! 勝ったら1000万っていう企画で、世界中を回ってるらしい!」


 メイウェイザーの来日が早くも話題になっていた。


「ヨウくんおはよー!」

「おう」

「冷たいなぁ。早速話題になってるみたいだね!」

「あぁそうだな。」


 調べてみたところ、身長189センチ、体重108キロ、50メートル5.6秒とかいう、ステータス世界にならなければ、まず勝てないレベルの怪物だった。


 公式戦無敗、K.O率8割。


「多分だが、この前病院送りにした奴より強い」

「そんなの当たり前だよ……」


 というか、カズアは試合中、俺のステータスが変化していたのは築いてるはずだ。なのにそれを言ってこないのは、妙に違和感がある。

 それに、こいつは俺が勝つことを疑っていないようにも見える。


「それより、どうするの??」

「??」


 口パクで何か言っている。

 お・か・ね?


「あぁ、お前の親に世話になってる分を返すつもりだが」

「え、、、」


 俺には家族がいない。小さな時に俺を世話をカズアの親に任せて蒸発した。


「いいよいいよそんなの。全然大丈夫だから!」

「まぁ、そう言ってもらえると助かるが、お前の金ではないだろう」


 まだ何か言いたい様子だったが、

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俺だけ最強というのも案外悪くない @サブまる @sabumaru

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